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台湾の児童手当について解説します

今回の記事は、台湾の出産・育児にまつわるお金のことを解説するシリーズの第3弾です。

前々回は出産育児一時金、前回は育児休業について取り上げました。そこで今回は、より長い目で見た子育て支援政策として、児童手当について紹介していきたいと思います。

台湾では、児童手当のことを「育兒津貼」と呼びます。「育兒津貼」は2012年に導入されてから10年が経過し、近年では更なる充実が図られています。

過去2年で2倍以上に増額された台湾の児童手当

日本の児童手当は、新たな所得制限が設けられるなど、ここ数年間で縮小傾向にあります。

一方、台湾では児童手当の額が引き上げられています。

台湾の児童手当はこれまでひと月2,500TWDでしたが、2021年8月には3,500TWDに増額され、2022年8月には5,000TWDまで引き上げられる予定です。

また、多子世帯への加算額も引き上げられる予定です。2022年8月以降、第2子、第3子は+1000TWDとなり、それぞれひと月6,000TWD、7,000TWDとなる予定です。

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↑児童手当の増額をわかりやすくまとめたスライド(画像は台湾の衛生福利部ウェブサイトから拝借しました。https://www.sfaa.gov.tw/SFAA/Pages/Detail.aspx?nodeid=1057&pid=10376)

支給期間の短い台湾の児童手当

台湾の児童手当の支給期間は、子が5歳に達するまででです。

2022年8月からの支給額(第一子5,000TWD、第二子6,000TWD、第三子7,000TWD)をベースに計算すると、総支給額は5歳になるまでに第一子で30万TWD、第二子で36万TWD、第三子で42万TWDとなります。

5年間でこれだけの額がもらえるのは魅力的ですが、小学校に入ってからは児童手当がゼロになるので、その後一気に家計が苦しくなる世帯もあるかもしれません。

一方で、日本の児童手当は中学卒業時まで支給されます。支給月額は3歳に達するまでは1万5000円、それ以降は1万円と小さいですが、15年間トータルでの支給額を計算すると日本の方が台湾よりも多くなります。

ただし、15年後にもらえる1万円と、現在もらえる1万円では価値が違います。現在価値に直せば日本の受給額も台湾の受給額も、あまり変わらないという見方もできるかもしれません。

個人的には、生後5年間で確実に受給できる台湾の児童手当の方がありがたいような気がしています。日本の児童手当が、果たして15年後まで現在の形で存続してくれるかは不明ですし、年齢が上がるほど所得制限にかかるリスクが増えてしまうからです。

所得制限はあるのか

さて、台湾の児童手当についても日本と同様に所得制限があります。支給ラインは、「総合所得税率が20%以下(所得120万TWD以下)」という条件が設定されています。

所得120万TWDというのは、例えば夫婦と子2人の4人家族の場合、世帯年収で約250万TWDほどに相当します。

所得は年収から各種控除などを引いて計算されますが、台湾の所得税制においては控除の金額が大きく設定されていますので、所得と年収の差は日本のイメージよりも大きいです。

実際にこの所得120万TWDのラインを越えて、所得制限の対象になるのは、全体の1割に満たない程度の世帯であるとのことです。高所得者層には我慢してもらう、というのは一見合理的にも思えますが、ある1つのラインを境に支給額が0か100か決まってしまう場合、所得が少ない方が得をするケースがたくさん出てきてしまいます。

この点は、日本と同じく不公平感の強い制度設計とも言えます。

ただし、台湾で設定している所得の基準は、日本のような「夫婦のうち多い方の所得」ではなく、夫婦合算での所得が基準となっています。その点においては、日本の制度設計よりも、まだ納得感があると言えるかもしれません。

保育園に預ける場合

さて、上述した児童手当(育兒津貼)ですが、これは保育施設に預けずに自分で子供の世話をする場合の受給額です。

保育施設に預けた場合は、別の「托育補助」という補助金が受けられます。托育補助の月額は、保育施設の種類に応じて5,500TWD、8,000TWDとなっていますが、児童手当(育兒津貼)との併給はできません。

あくまで保育施設にかかる料金を考慮して、育兒津貼から少し上乗せした額を托育補助としてもらえる、といったイメージになります。

この托育補助については、国からの支給の他に自治体からの上乗せ支給もあります。特に台北市は上乗せの金額が多いことで知られています。

0-6歲國家一起養

上図:台湾の児童手当増額を示すポスター形式の資料(画像は台湾行政院のウェブサイトから拝借しました )

まとめ

台湾では急速に少子高齢化が進んでいます。2020年からは死亡数が出生数を上回る自然減が始まり、人口減少時代に突入しました。

とはいえ、台湾ではまだまだ20代後半から30代後半の人口が大きなボリュームを持っています。台湾政府が近年育児関連支出を増加させているのは、「まだ間に合う今のうちに機動的に少子化対策を充実させ、少子化の流れを食い止めよう」というビジョンを持っているからだと思います。

これまで見てきたように、台湾の児童手当は学齢前の育児に対して集中的に支援を提供するものです。台湾政府は近年、「0到6歲國家一起養(0歳から6歳までは国が一緒に子育てします)」というかけ声のもと、少子化対策を次々と打ち出しています。児童手当はその中でも中核を占めるものです。

台湾における少子化対策は始まったばかりです。効果は未知数ですが、少しでもポジティブな効果を生み、台湾の未来が明るいことを祈るばかりです。

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上図:台湾の人口ピラミッド(画像は以下のウェブサイトから拝借しました
https://population-pyramid.net/ja/pp/%E5%8F%B0%E6%B9%BE)

<参考資料>

(1)台湾行政院ウェブサイト
児童手当の増額や保育園の枠の増加など、政府が進める少子化対策についてまとめて紹介しています。

(2)台湾衛生福利部ウェブサイト
児童手当の所得制限や、台湾の所得税制における各種控除額について解説しています。


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