台湾の育児休業制度について解説します
前回の記事では、日本と台湾の出産育児一時金について紹介しました。
そこで続いて今回は、出産後の生活をサポートする制度として、日本と台湾の育児休業制度について取り上げます。
日本の育児休業制度は、他の先進国と比べてもとても充実していることで知られています。
具体的には、日本では満1歳未満の子(一定の場合は1歳6ヶ月または2歳未満の子)を養育するために育児休業を取得した場合、雇用保険から休業前の賃金の67%相当額(6ヶ月経過後は50%)が支給されます。
また、日本では育児休業期間に社会保険料の納付が免除されます。このため、育児休業期間も実質的な手取りは8割ほど確保できると言われています。
それでは、台湾の育児休業制度はどの程度整備されているのでしょうか。そして、日本と比べてどのような違いがあるのでしょうか。
台湾では、2002年に育児休業が制度化され、2009年には育児休業給付が始まりました。その後、少子化の急速な進展にともなって、育児休業取得要件の緩和や、給付額の拡大などが打ち出されています。直近では2021年7月に制度改正がありました。
以下にその内容を詳しくみていきます。
育児休業取得の条件について
まずは育児休業取得の条件について紹介します。注意が必要なのは、「休業取得条件」と「休業給付取得条件」は異なることです。前者を満たしても後者を満たさない場合は、無給での休業となります。
【育児休業の取得要件】
・3歳に満たない子を養育していること
・6ヶ月以上継続雇用されていること。(6ヶ月未満の場合、雇用主の同意が必要)
【育児休業給付の受給条件】
・育児休業を取得していること。
・就業保険(おおむね日本の雇用保険に相当)の被保険者期間が1年以上あること。
育児休業の取得期間は、原則6ヶ月以上で、最長2年まで取得が可能です。例外として6ヶ月以内の取得も可能ですが、その場合、1回につき30日以上で、最大2回までの取得となります。
育児休業手当について
育児休業給付金は、平均月投保金額(おおむね日本の標準報酬月額に相当)の80%が、最大6ヶ月間支給されます。
ただし、育児休業給付金の計算に使われる月投保金額には、上限(=45,800TWD)が設けられています。このため、育児休業給付金の最大受給月額は、45,800TWD × 0.8 = 36,640 TWD となります。
給付金は、2021年の制度改正によって父母同時に受給できるようになりました。最大受給額は、2人が6ヶ月取得した場合を想定すると、36,640 × 2 × 6 で439,680TWDとなります。
まとめ
日本の制度と比較してみると、台湾の育児休業給付金の割合は賃金の80%と高くなっています。
一方、育児休業中の社会保険料の負担が免除となる日本とは異なり、台湾では育児休業中も社会保険料が自己負担となります。
また、育児休業手当の上限額は日本では約31万円ほどですが、台湾の上限は36,640 TWDと比較的低い水準にとどまっています。給付額の上限が低く設定されているため、高収入で働く人にとっては育児休業を取得すると大きな収入減となります。
総合してみると、現状においてもやはり日本の育児休業制度の方が台湾よりも充実していると言えそうです。
とはいえ、台湾では2021年の制度改正の結果、育児休業の取得率が大幅に向上したというニュースも出ています。制度は充実していても取得が難しいという課題がある日本にとっては、参考になるところがあるかもしれません。
台湾では、ここ数年で少子化問題に真剣に取り組む姿勢を政府が大きく打ち出しています。政府と国民とのコミュニケーションという意味でも、日本が台湾を見習うべき点は多々あると思っています。
参考資料
(1)労働部労工保険局のウェブサイト
育児休業給付金に関する一次情報はこちらから参照できます。
(2)聯合報2022年1月5日の報道
2021年の制度改正によって台湾の育児休業給付が拡充されたことを紹介しています。要点がよくまとまっていてわかりやすい記事です。
(3)中央社2022年1月22日の報道
2021年の制度改正に伴って、育児休業取得者が顕著に増加したことを報道しています。
(4)日経新聞2022年2月6日の報道
育児休業制度に関する日本の現在地を知るのに良い記事です。