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2023WBC 台湾代表選手名鑑

代表選手一覧

今大会、台湾代表の特徴は?

大幅な若返り

 今大会の台湾代表は大幅な若返りとなった。全体の平均年齢は27.4歳(17年WBCは29.1歳)、特に野手は26.6歳(17年WBCは30.3歳)となっており全員が初のWBC出場。(投手は14名中10名が初出場)ただし実績のあるベテランを敢えて使わずに若返りを図ったというわけではなく、現状の国内組と海外組でベストなメンバーを組んだ結果であり、望ましい傾向と言える。大会開幕時点で30代の選手は7名で、うち4名はリリーフ。

打高投低傾向からの脱却

「CPBLは打高投低」というイメージは根強いが、直近2シーズンでは打高投低傾向が弱まっている。その理由は試合球の反発係数変更だ。20年の前期シーズンの試合球の反発係数は0.574だったが、CPBLがあまりに本塁打が出すぎたことを考慮し同年10月に試合球の反発係数の範囲を「0.540~0.580」から「0.540~0.560」に変更。同年7月時点で0.563、昨年は4月時点で0.556と相対的に飛ばないボールに変わった。
 その影響は成績にも顕著に表れており、20年からのリーグ全体の平均打率、OPS、ERAは以下の通り。

20年 平均打率.299 OPS.822 ERA5.27
21年 平均打率.260 OPS.692 ERA3.71
22年 平均打率.262 OPS.671 ERA3.35

 詳細は後述するが、今回の野手は長打力不足が懸念される一方で、走力や守備力に長けた選手が多いのもこうしたリーグの環境変化が少なからずある。これまで通り「打高投低」の印象で台湾代表を見てしまうと、少々戸惑いを覚えるかもしれない。

 ここからは投手陣、野手陣のそれぞれを分けて見ていく。

投手陣

 先発については13年の王建民のような絶対的エースがいるわけでもなく、17年のように海外組に先発を託すわけでもない。今大会の先発陣に絶対的なエースはいないが、昨季結果を残したCPBL所属選手を軸に「ダブル先発」で戦うとみられている。江少慶、胡智爲、王維中、黃子鵬、吳哲源、陳仕朋の6人から2人が出る形で5、6回まで繋ぎ、ピンチになればすぐに陳冠宇、陳禹勳、鄧愷威、呂彥青、李振昌、曾峻岳、陳冠偉の経験あるベテランと勢いある若手リリーフ陣に繋ぎ、抑えは宋家豪で逃げ切るプラン。林岳平監督は宋家豪以外のリリーフについては各選手にイニングごとの役割を任せるのではなく、全ての選手に火消し役として、走者のいる場面でもピンチを凌いでもらう方針。比較的柔軟な投手陣の運用方針がどう出るかは注目したいポイント。
 歴代のWBC台湾代表は投手陣が打ち込まれており、06年の第一回大会からのERAは6.84、7.31、5.36、10.00。継投がはまればA組勝ち上がりに大きく近づくだろう。

野手陣

 野手陣は複数ポジションを守れる選手が多く、投手陣と同様に柔軟な起用になるとみられる。相手投手や各選手の調子に合わせて柔軟なオーダーを組めるのはメリットな一方で、過去の台湾打線よりも劣る長打力が懸念点。四番は張育成が有力だが、三番や五番に入れたい絶対的な選手がいない。現状では林立、吉力吉撈.鞏冠の可能性が高いが、打線全体を見た時に迫力不足は否めない。練習試合では海外組が結果を残したが、長打が出にくい打線なのであれば、海外組を上位~中軸で固めるのも一策か。
 守備力は若くて守れる選手が多いことのメリットが発揮され、これまでのWBC台湾代表で過去最高レベルに高く、投手陣の大きな助けになるだろう。内外野については様々な起用法をしたとしても、大きく破綻することはない。強いて言うなら吉力吉撈.鞏冠がCに入る場合の守備力が心配だが、打力重視で守らせ終盤に交代させるのか、DHに入り打力を犠牲にしても守備力アップを狙うか注目したい。
 走力については昨季シーズン10盗塁以上が8人と走れる選手が多いのが特徴。ホームランによる得点が見込みにくい分、一つ先の塁へ進む意識はより重要となる。

予想起用

6鄭宗哲
9林子偉
D林立
4張育成
2吉力吉撈.鞏冠
5吳念庭
3范國宸
7成晉
8陳傑憲

控え
捕手:林岱安 高宇杰
内野手:江坤宇 王威晨
外野手:王柏融 陳晨威 郭天信

※打線については予想が難しいが、現時点の報道、練習試合の成績を参考に記載。

先発候補(2番手先発含む)
江少慶 胡智爲 王維中 黃子鵬 吳哲源 陳仕朋

中継ぎ
陳冠宇 李振昌 鄧愷威 陳禹勳 呂彥青 曾峻岳 陳冠偉

抑え
宋家豪

投手

69 黃子鵬(ホァン・ズーポン 樂天桃猿) RHP 右左 183cm 80kg 28歳
22年成績 24試合 12勝3敗 158.2IP ERA2.33 K/9 5.4 BB/9 1.4
最優秀防御率(22年) 最多ホールド(19年)
『先発でもリーグを代表する投手に成長したサイドスロー』

 17年ドラフト7位で前身のラミゴに入団。独特の投球スタイルで1年目からリリーフとして重用され、18~20年で計171試合に登板。19年には最多ホールドのタイトルを獲得。21年から先発に転向、23試合9勝8敗 135IP ERA3.40とローテーションを一年間守ると、昨季はチームのエースに成長。台湾人投手リーグトップの158.2IPを投げ、最優秀防御率のタイトルを獲得した。対左投手の被打率が21年の.301から昨季は.256と改善。19年以降はホームよりビジターの方が好成績な「外弁慶」で、昨季はホームのERA2.82、ビジターのERA1.82とより顕著だった。アンダースローに近いサイドスローから、135km前後の沈むストレート、スライダー、チェンジアップをコントロール良くコーナーに投げ分ける。今大会の投手陣では貴重な変則右腕で、先発候補の一人。
 小学生の頃は外野手でたまに投手をしており、投手としては両投げでどちらも球速がほとんど変わらず、コーチもどちらで投げさせようか迷ったという。

58 胡智爲(フ・ジーウェイ 統一) RHP 右右 182cm 90kg 29歳
22年成績 27試合 9勝13敗 150.2IP ERA3.35 K/9 5.0 BB/9 2.4
『スタミナとゲームメイキング能力に長けた右腕』
 
 アメリカで7シーズンプレーし、17~18年はメジャーで計11試合に登板。21年に台湾に戻り統一にドラフト1位で指名されるも、同年は12試合4勝4敗 ERA4.74と今一つの成績に終わった。昨季は台湾人投手ではリーグトップの2517球を投げ、黃子鵬に並ぶリーグ2位タイの14QSとゲームメイキング能力に長けた投球を披露。140km後半のツーシーム、落差の大きいチェンジアップ、スライダー、カーブを織り交ぜゾーンを攻め、打たせて取る投球スタイルで、ピンチや勝負所では気迫を前面に出す。走者を出してからピンチでエンジンがかかる傾向にあるが、走者無しでもしっかり抑えることができれば、よりエースとして進化できるだろう。今大会は練習試合でも好調で、先発として起用される可能性が高い。
 昨年結婚した艾璐(アイル)は統一のチアガールグループ「Uni-Girls」のメンバーで、結婚に伴い樂天桃猿のチアガールグループ「楽天ガールズ」から昨年夫と同じ球団に「移籍」。今大会では台湾代表公式チアリーダーの一員として、陰ながら夫をサポートする。

71 江少慶(ジャン・シャオチン 富邦) RHP 右右 183cm 94kg 29歳
22年成績 22試合 5勝12敗 120.2IP ERA4.70 K/9 6.3 BB/9 2.8
『前回大会オランダ戦で活躍、昨季不振に喘いだ本格派右腕』

 高校卒業後にCLEに入団すると徐々にマイナーの階段を駆け上がり、18年と19年には3Aでプレー。19年は26試合9勝9敗 131IP ERA5.15とシーズン通してローテーションを守り、オフにタイガースとマイナー契約。メジャー昇格に近い所まで来ていたが、20年は新型コロナウイルスの影響でマイナーリーグが開催されず試合出場無く、オフにFA。21年に台湾に戻り、5年3ヶ月総額208万ドルで富邦に入団。同年は12試合5勝2敗 69.2IP ERA2.45と期待を持たせる内容で昨季を迎えたが、超大型契約に見合う結果を残せなかった。平均150km近いストレートの球速が低下し打者を圧倒する投球ができず、5回未満の降板も6試合。ショートアームからストレート、スライダー、カーブ、チェンジアップが持ち球。昨季は左打者に効果を発揮していたチェンジアップが思うように決まらず、被打率.328と苦戦した。17年のWBCでは第1ラウンドオランダ戦で2番手として登板し4.1IP/1R、19年のプレミア12でも2試合に先発し計11.2IP/3Rの好投、再び国際大会で活躍を見せられるか。
 腕の逞しさは台湾球界屈指。サプリメントはハーバライフというブランドを好んで摂取している。

81 陳仕朋(チェン・シーポン 富邦) LHP 左左 179cm 79kg 25歳
22年成績 23試合 8勝6敗 113.2IP ERA2.69 K/9 6.8 BB/9 2.9
『安定感増した、CPBLでは貴重な試合作れる先発左腕』

 投球フォームの柔らかさとバランスの良さが特長の高卒左腕として16年ドラフト2位指名で前身の義大に入団し、19年に11勝を挙げ一軍の先発に定着。20年は6勝10敗、21年は打線の援護に恵まれない試合も多く2勝12敗と黒星が大きく先行も、昨季はチーム最多の8勝を挙げ、先発3番手として一年間ローテを守った。直近4シーズンで100イニング以上を投げ、年間通してローテーションを守れる先発左腕はCPBLでは貴重な存在だ。ストレートは130km台後半~140km前後と速くはないが、落差の大きいカーブを中心に、スライダー、カットボールを組み合わせる軟投派。直近2シーズンで1試合7.2IP以上を投げた試合がなく、6回100球前後でマウンドを降りるため長いイニングは厳しいが、昨季は4自責点以上を記録した試合が1試合のみと数字以上の安定感があった。
 昨年8月に結婚し、今年2月に第一子が誕生。妻は以前富邦の球団広報として働いており、約2年の交際を経てゴールイン。お互い控えめな性格で交際を周囲に伝えておらず、チームメイトも知らなかった。

93 吳哲源(ウー・ジェユエン 中信兄弟) RHP 右右 175cm 68kg 28歳
22年成績 34試合 11勝1敗 120IP ERA2.85 K/9 4.8 BB/9 1.6
ゴールデングラブ賞(22年)
『21年1試合の登板から先発転向で飛躍したシンデレラボーイ』

 大学入学当初はSS、4年で中学以来の投手に再転向もほとんど無名の存在で、16年ドラフト10位で中信兄弟に入団。17年は一時抑えを任され29試合3勝1敗7S ERA3.00と活躍も、以降は目立った活躍ができず21年はわずか1試合の登板。しかし昨季は開幕は中継ぎ→5月中旬に先発転向→6月上旬に中継ぎ転向→7月中旬から先発転向とチーム事情により配置転換が続く中で結果を残し、9月30日にチーム史上初の10連勝を達成と大きく飛躍。規定投球回にも到達した。140km前後のストレートにスライダー、チェンジアップ、カーブといった多彩な球種をコマンド良く投げ、打たせて取る投球が持ち味、加えて昨季王建民二軍投手コーチから教わったシンカーが効果を発揮。元々内野手だったこともありフィールディングも良く、昨季はゴールデングラブ賞を獲得。今大会は1月に36人の合宿リスト入りも、2月6日発表の30人リストには入れず。しかし曾仁和(樂天桃猿)の故障による辞退により再度代表入り。先発とリリーフの両方の経験があることから、代表でも使い勝手の良い存在だ。
 食べても太らないスリムな体型だが、今年1月に結婚&初の台湾代表(36人の合宿メンバー)入りを果たし、中信兄弟の春季キャンプスタート時に4kgの幸せ太り。

16 王維中(ワン・ウェイジョン 味全) LHP 左左 188cm 83kg 30歳
22年成績 19試合 4勝6敗 81.2IP ERA3.20 K/9 7.5 BB/9 3.1
『健康に一年間投げられればチームのエース、海外経験豊富な左腕』

 12~13年までパイレーツ、14~17年までブルワーズでプレーし、14年と17年にはメジャーに昇格し計22試合に登板。18年はKBOリーグ史上初の台湾出身の選手としてNCでプレー。19年はアスレチックスとパイレーツでメジャー計25試合 ERA3.77。オフに40人枠を外れ20年はアメリカでの契約が見つからず、台湾に帰国することを決意し20年ドラフト1位で味全に入団。21年は開幕戦の登板後に腕の違和感で約1ヶ月離脱、7イニング以上を投げた試合が1試合のみと長いイニングを投げることができず、ERA2.78ながら台湾人エースとして期待した姿には程遠かった。昨季はコロナ感染、背中の違和感、鼠径部の違和感などで離脱を繰り返し健康にシーズンを送れず成績が悪化。140km中盤~後半の威力あるストレートとスライダーを中心に、チェンジアップと稀にカーブを織り交ぜる投球スタイル。高い出力に細身の身体が追い付いていない感があり、長いイニングを任せられる真のエースとなるにはトレーニングの方法も見直す必要があるかもしれない。
 兄の王躍霖は昨季樂天桃猿からシーズン途中にトレードで富邦へ移籍も、オフに保留者名簿から外れ、味全が獲得。兄弟でチームメイトとなった。

29 鄧愷威(デン・カイウェイ SFG) RHP 右右 193cm 117kg 24歳
22年成績 28試合 6勝12敗 136.1IP ERA5.22 K/9 11.2 BB/9 5.6 ※2A
『抜群の球威を誇る、今メジャーに一番近い台湾人選手』

 高校は西苑高中に入学しエースとして活躍したが、家庭の事情で高3時に高苑工商に転校。高3の一年間は規定で公式戦に出場できなかったが、その間に渡米しトレーニング施設でレベルアップ。大学入学して間もなくSFGと50万ドルで契約した。徐々にマイナーの階段を駆け上がり、昨季は2Aでリーグ最多の169K、リーグ2位の136.1IPとシーズン通してローテーションを守った。がっちりとした体格からシンカーのように沈む150km前後のストレートが目を引くが、チェンジアップ、カーブ、スライダー、カットボールといった変化球の評価がより高く、先発でも高い奪三振能力を誇る要因となっている。しかし21年から大幅にコントロールが悪化。昨季もBB/9 5.8に加え13与死球と苦しんだが、先発として長いイニングを投げ、更に上を目指すには改善したい。台湾に帰国しての代表合流が3月2日と遅れたため、それまで代表首脳陣はアメリカから送られてきている動画をチェックしていた。SFGから起用法について制限をかけられており、今大会ではリリーフとして起用される見込み。
 代表でチームメイトになった胡智爲とは5歳差だが、同じ台中出身で同じ小中高大、そしてアメリカで最初の所属球団がMINという共通点があり、家族ぐるみで仲が良い。

43 宋家豪(ソン・ジャーハオ 東北楽天) RHP 右左 185cm 92kg 30歳
22年成績 54試合 4勝2敗 51.2IP ERA2.61 K/9 6.6 BB/9 2.6 ※NPB
『NPB屈指のセットアッパーは今大会抑えの大役担う』

 15年のドラフトで統一から2位指名を受けるもNPB行きを選択し指名拒否、同年10月に東北楽天と育成選手契約。17年のシーズン途中に支配下選手契約を勝ち取ると、18年から22年までの5年間で計243試合に登板、87ホールドをマークしチームのリリーフ陣に欠かせない存在に成長。昨季はキャンプ中に母親の不幸があったものの、安定感は変わらず。特にチェンジアップが威力を発揮し被打率.140。一方ストレートは21年の被打率.145から昨季は.300と打ち込まれ、今年以降の勤続疲労が心配なところ。今大会では林岳平監督から抑えに指名された。前回大会時は育成選手で、第1ラウンドオランダ戦で先発し3.1IP/4Rだったが、日本で成長した姿を今大会で見せられるか。
 チームメイトで同じくWBC代表に選出され、WBC球の適応に苦しむ松井裕樹(東北楽天)に「前大会のボールと同じじゃない?」とアドバイス(?)。

32 陳禹勳(チェン・ユーシュン 樂天桃猿) RHP 右右 182cm 83kg 33歳
22年成績 46試合 3勝2敗1S 45.2IP ERA1.77 K/9 8.3 BB/9 3.5
最多セーブ(17、18年) 最多ホールド(14、22年)
『国際大会に強い、投球術にも長けた鉄腕リリーバー』

 13年のドラフト1位で前身のラミゴに入団。ルーキーイヤーからリリーフでフル回転し、9年連続40試合以上に登板。昨季は5月に肘の骨棘が見つかり離脱も、ヒアルロン酸注射による治療で手術は受けず、約1ヶ月で一軍復帰。その後はセットアッパーとして安定感ある投球でERAはキャリアハイ、8年ぶりの最多ホールドのタイトルを獲得した。ストレートの球速は140km前半~中盤ながらノビがあり、勝負球のフォーク、スライダー、カーブが持ち球で、打者のリズムを外す投球術にも長けている。国際大会にめっぽう強く、2大会連続で参加したプレミア12では計8.2IP/1R。「プレミア12はWBSC提供のボールで縫い目が細く突起があり握りやすかったが、WBC球はCPBLのボールより少し大きく縫い目が平らで、作りも粗いので慣れる必要がある」と語っており、練習試合ではコントロールに苦しむ場面が見られた。本番までに修正できるか。
 台湾がベスト8に進出した13年WBC第2ラウンドの日本戦は当時所属していた社会人球団のチームメイトとテレビ観戦。この試合を見てプロ入りを決意した。

21 李振昌(リ・ジェンチャン 中信兄弟) RHP 右右 180cm 87kg 36歳
22年成績 42試合 2勝2敗11S 40IP ERA3.15 K/9 9.0 BB/9 2.0
『衰えの声を払拭したい、二球種で抑えるベテランリリーバー』

 09年から15年までCLEでプレーしメジャー通算47試合に登板、16年には埼玉西武で18試合に登板。その後COLマイナー、LADマイナーでプレーし18年のドラフト1位で中信兄弟に入団後は抑えの座を不動のものに。しかし昨季は開幕から調子が上がらず、7月中旬から呂彥青と入れ替わる形で中継ぎに配置転換。その後も肘の炎症で約1か月半離脱するなど順調ではないシーズンだった。小気味良い投球リズムに、140km台中盤~後半のノビのあるストレートと滑るように手元で大きく横に変化するスライダーは依然として打者の脅威だが、K/9やコンタクト率が20年から悪化傾向なのは気がかり。年齢的にも衰えがあっておかしくないが、今季は球威を甦らせ抑えの座を再び取り戻せるか。今大会の代表最年長で、ピンチを迎えた場面での火消しが期待されている。
 代表選手中で唯一09年WBCの経験があり、第1ラウンドの韓国戦で先発し0.1IP/6Rの大炎上。今大会は立場こそ異なるが韓国戦でのリベンジに燃えている。

17 陳冠宇(チェン・グァンユ 樂天桃猿) LHP 左左 178cm 80kg 32歳
22年成績 23試合 2勝1敗 55.2IP ERA3.07 K/9 9.2 BB/9 2.6
『ロングリリーフも可能、経験豊富な左腕』

 NPBで通算136試合に登板した左腕は、20年オフに家庭の事情を理由にロッテと再契約せず台湾に帰国。21年は社会人球団の安永鮮物でプレーの後、樂天桃猿からドラフト1位指名を受け、2.5年総額2100万元の大型契約で入団。即戦力の先発左腕として期待されたが、6試合に先発しERA4.99と振るわず、リリーフへ配置転換。しかしその後も5度のリリーフ失敗を記録し21試合1勝5敗 ERA6.52と、予想を大きく裏切る結果に。昨季は開幕で先発スタートも4月下旬にウエイトトレーニングで腰を傷め、コロナ感染もあり約2ヶ月離脱。7月からは左のリリーフを厚くしたいチーム事情によりリリーフに配置転換され、7月27日以降は16試合連続で自責点0と本来の能力を発揮。140km台中盤のストレートはリリーフ転向後にノビを取り戻し、K/9が21年の7.8→9.2と向上、BB/9も21年の4.5→2.6と改善。また昨季は対右打者の被打率が21年の.307→.221と持ち味のクロスファイヤーが蘇った。今大会では左のリリーフとして重要な場面での火消し役として起用される。昨季2イニング以上のリリーフも5回と、長いイニングも任せられるのは心強い。
 プロ野球界きっての大食いで、台湾のYoutuberの企画にゲスト出演し、101匹の焼き海老を完食

15 呂彥青(ル・イェンチン 中信兄弟) LHP 左左 175cm 65kg 26歳
22年成績 51試合 1勝2敗20S 63.2IP ERA1.98 K/9 7.4 BB/9 2.3
『リリーフ転向でブレイクした胴上げ投手』

 台湾アマナンバーワン左腕との触れ込みで阪神に入団も3年間で一軍登板はなく、21年のドラフト1位で中信兄弟に入団。即戦力としての活躍に期待も同年は13試合2勝3敗 ERA4.60と今一つ。昨季は左肩の違和感により開幕に間に合わず、シーズン初先発も5.1IP/8Rと幸先悪いスタートも、チームに左の中継ぎが不足していたこともあり4月下旬に中継ぎへ配置転換。7月下旬からは肘の炎症で離脱した李振昌に代わり抑えを任されリーグ3位タイの20セーブ、24試合連続無失点のチーム最長記録と安定感抜群の投球を披露。台湾シリーズでも3セーブを挙げ胴上げ投手に。中信兄弟の林威助監督は神経が図太く、思い切りの良い性格を評価。ストレートのは145km前後も回転数が2400rpm以上あり、球速以上のノビを感じさせ高めでも空振りを奪える。変化球は落差の大きいカーブにチェンジアップ、スライダーも投じる。ボールの出所が見にくいフォームも打者に的を絞らせない助けになっている。
 自身の登場曲である林俊傑の「因你而在」は13年のWBCにおいて、台湾のテレビ中継のオープニングソングとして使用された。

60 曾峻岳(ツェン・ジュンユエ 富邦) RHP 右右 174cm 68kg 21歳
22年成績 47試合 2勝4敗20S 50.1IP ERA2.86 K/9 11.4 BB/9 3.2
新人王(21年)
『剛球が唸りを上げる若き富邦の守護神』

 中学時代はSSで、高校から投手を始めたところ才能が開花。高3時に成績を落としたこと、体格や先発としての球種不足も影響してか20年のドラフトでは7位の下位指名で富邦に入団。21年は春季キャンプからアピールし開幕一軍を勝ち取ると勝ちパターンに定着、8月から抑えに転向し57試合4勝12S ERA1.80の活躍で新人王を獲得。昨季は開幕から抑えを任され、シーズンを戦い抜いた。回転数が2600rpmを超えることもあるストレートは球威が素晴らしく、昨季はCPBLの台湾人投手最速となる157kmをマーク。スライダーとの二球種で高い奪三振能力を誇る。一方でコントロールと調子にムラがあるのが課題で、出来が悪い日は先頭打者に四球を出し、そこから崩れるケースが目についた。また本人は将来的に先発を希望しているが、スライダー以外に使える球種を増やしたいところ。
 アメリカのデータサイトFangraphsが発表している最新の国際プロスペクトランキングにおいて、CPBLの選手で唯一17位にランキング入り。

59 陳冠偉(チェン・グァンウェイ 味全) RHP 右右 183cm 92kg 26歳
22年成績 49試合 3勝2敗9S 46IP ERA3.13 K/9 11.9 BB/9 2.9
新人王(22年)
『オーバースローが特徴のKマシーン、ドラフト17位から新人王獲得』

 学生時代は大きな実績を残せず、味全が久々の復活となった19年のドラフトで17位と下位指名。プロ入り後は大きく球速を伸ばし、20年は二軍で37試合に登板。21年は二軍で23試合に登板し、9月に一軍昇格。27試合でERA1.80と短い期間ながらブレイクの兆しを見せるシーズンを送った。昨季は開幕から勝ちパターンとして一軍に定着。9月中旬からは抑えに配置転換され9セーブをマークし新人王を獲得した。真上から投げ下ろす独特のフォームから球速は145km前後ながら威力あるストレートに、回転数が少なく縦に大きく落ちる130km前後のフォーク、125km前後のスライダーを組み合わせ三振を奪うスタイル。ストレートは21年よりも球速は落ちたが、ボールの回転数は増加した印象がある。昨季は対右打者を被打率.152としっかり抑えた。
 父の陳威成も元プロ野球選手。興農(現・富邦)で02~04年まで監督を務め、92年のバルセロナオリンピックに出場している。

捕手

4 吉力吉撈.鞏冠(ジリジラオ・ゴングァン 味全) C 右右 180cm 104kg 28歳
22年成績 88試合 打率.286 14HR 56打点 0盗塁 OPS.831
本塁打王(22年)
『捕手ながら昨季本塁打王、代表では貴重なパワーヒッター』

 14年からインディアンスマイナーでプレー。17年にAで125試合 打率.269 17HR 67打点 OPS.764、18年もA+、2A、3Aで計99試合で10HR。19年は2Aで60試合に出場と長打力ある捕手として徐々にステップアップしていたが、20年にコロナウイルスの影響でマイナーリーグが開催されず。長年戦ったアメリカに別れを告げ台湾に帰国し、同年のドラフトで味全から1巡目指名を受けた。チームの長打力と実績ある捕手を求めての指名に応える形で、21年は後期から出場し54試合で11HR。昨季は開幕から四番、9月下旬からは二番に入り88試合で14HRをマークし、本塁打王のタイトルを獲得。(14HRは林立と同数も打席数が少ないためタイトル獲得)チームに貴重な長距離砲として存在感を発揮している。プルヒッターで昨季の14HR中10本がレフト方向。守備は昨季6捕逸、盗塁阻止能力にも課題があり、21年は.052、昨季は.184。故にDHとの併用で起用された。今大会の捕手3名のうち守備力では一番劣るが、今大会の代表は長打力不足の感もあり、スタメンに入る可能性は高い。
 台湾原住民族のパイワン族で漢民族としての氏名は「朱立人」だが、19年から名前を原住民名である「吉力吉撈.鞏冠(Giljegiljaw Kungkuan)」に戻し、登録名としてマイナーリーグでプレー。CPBLでもリーグで初めて原住民名を登録名に使用した選手でもある。

31 林岱安(リン・ダイアン 統一) C 右右 175cm 90kg 30歳
22年成績 83試合 打率.224 1HR 17打点 2盗塁 OPS.551
ベストナイン(21年) ゴールデングラブ賞(19、21年)
『代表では最も守備力に長ける統一の一番手捕手』

 アマ時代は俊足も兼備するC兼SSとしてならし、15年ドラフト4位で統一に入団。プロ入り後は捕手としての起用で、現在まで規定打席到達は無いが、チームのヘッドコーチである高志綱が引退した19年からはチームの一番手捕手としてマスクを被っている。キャプテンに就任した昨季は21年から数字を落とし、8失策&3捕逸と守備でも精彩を欠いた。もともと守備面では評価は高かっただけに、今後改善されるか注目したい。18年以降は対外国人投手打率が台湾人投手よりも悪く、昨季もそれぞれ.173、.250。今大会はプールAでヨーロッパ、中南米の投手と対戦する上ではやや不安な要素だ。吉力吉撈.鞏冠がDHに入った場合はスタメンマスクを被る機会があるだろう。
 19年のプレミア12では当初代表に選出されていたが、大会直前に「代表に同じチームの投手がいない」というやや不可解な理由で入れ替えとなった。

65 高宇杰(ガオ・ユージェ 中信兄弟) C 右右 184cm 88kg 25歳
22年成績 49試合 打率.231 2HR 8打点 0盗塁 OPS.631
『国際大会の経験豊富なバックアップ捕手』

 18年ドラフト2位で中信兄弟に入団。他の捕手との併用が続きながらも、守備力に長けた捕手としてチームに貢献。昨季は福來喜(フランシスコ・ペーニャ)が外国人捕手としてスタメンマスクを被る機会が多かったため、2番手捕手の立ち位置だった。ドラフト指名時には長打力も評価されていたが、プロ入り後は打撃で目立った数字は残せていない。大学時代からU-23ワールドカップ、ハーレムベースボールウィーク、アジア選手権など国際大会の経験が豊富で、19年にはプレミア12代表に選出。スーパーラウンドの韓国戦ではスタメンマスクを被りキム・グァンヒョンから先制のタイムリー二塁打、守っては完封勝利に貢献と活躍。今大会もバックアップ捕手としての起用が見込まれるが、要所で存在感を示せるか。
 昨季5月7日の統一戦では二塁への牽制で走者を刺し、5月20日の統一戦ではランニングホームランを放ったが、いずれのプレーも野球人生で初めての経験だった。

内野手 

※外野手含めてポジションは、昨季守った位置を多い順に記載。

18 張育成(ジャン・ユーチェン BOS) 2B/SS/3B/1B 右右 185cm 81kg 27歳
22年成績 94試合 打率.208 4HR 15打点 0盗塁 OPS.605 ※MLB
『代表唯一のメジャーリーガー、四番候補の攻撃型内野手』

 高校を卒業後、契約金50万ドルでCLEに入団。17年には2Aで24HR、18年には3Aで13HRと長打力ある内野手として順調にステップアップし、19年にメジャー初昇格。20年は10試合のみの出場に終わったが、21年は台湾人選手で初めて開幕戦先発出場と幸先良いスタートを切ると89試合で9HRを放ち、台湾人野手のシーズン記録を塗り替える充実のシーズンを送った。しかし昨季は開幕から調子が上がらずCLE→PIT→TB→BOSと4球団を転々とする苦しい一年に。オフにBOSをFAとなったが、今年2月にBOSと1年85万ドルで再契約。打撃は長打力が魅力もブレーキングボールに弱く、昨季は打率.043。内野は全ポジションを守ることができるが、今大会は2Bまたは1Bで起用予定。練習試合での状態も良いことから四番の有力候補である。
 当初、シーズンに備えることを理由に代表入りを断っていたが、兵役短縮の恩恵を受けた選手が一定期間、国際大会の招集を拒否できない規則があることから世論を巻き込む騒動に発展。最終的にはCPBLの蔡其昌コミッショナーが直接本人と交渉し、出場が決定したという経緯がある。

1 鄭宗哲(ジェン・ゾンジェ PIT) SS/2B 右左 170cm 69kg 21歳
22年成績 104試合 打率.270 6HR 52打点 33盗塁 OPS.795 ※A
『アメリカで着実にレベルアップ見せる若手内野手』

 高校を卒業後、契約金38万ドルでPITに入団。21年はRkで38試合 打率.312 16盗塁 OPS.941の活躍を見せると、同年に台湾人選手としてコロンビアリーグでプレーしチームの優勝に貢献、更にはカリビアンシリーズでも優勝を果たした。昨季はAでチーム不動のSSとして活躍。25本の二塁打はリーグ3位、7本の三塁打はリーグトップとギャップを抜く打撃、また選球眼の良さも見せた。33盗塁&盗塁成功率84.6%と俊足も武器。守備の評価も上々で、プロスペクトとしての評価が高まっている。課題は対左投手で昨季は打率.192、対右投手に打率.290。今大会で2Bを張育成or林立にする場合はSSを右投手相手には鄭宗哲、左投手相手に江坤宇と使い分けるのは一策か。ポジションはメインはSSだが、2Bも可能。練習試合の好調さを買われ、一番で起用される可能性が高い。
 19年のU-18ワールドカップでは台湾代表のキャプテンとして優勝を経験。昨年のカリビアンシリーズでは子供の頃からの憧れだったロビンソン・カノと記念撮影し、会話も交わした。

5 林子偉(リン・ズーウェイ 米独立) SS/2B/3B/CF 右左 175cm 81kg 29歳
22年成績 17試合 打率.307 3HR 9打点 2盗塁 OPS.976 ※米独立アトランティックリーグ
『内外野こなす、打線の繋ぎ役になりたいユーティリティー』

 高校時代は5ツールプレイヤーとして名を馳せ、卒業後当時の台湾人選手で史上2番目の契約金209万ドルでBOSに入団。17年にメジャー昇格すると出番は少ないながらも、内野のユーティリティーとして21年まで計102試合に出場。昨季はメッツとマイナー契約も打撃不振で8月にリリース。その後は米独立のアトランティックリーグ、ABLでプレーした。今季は2月に昨年所属した米独立のアトランティックリーグ球団と再契約。打撃はパワーレスでメジャーでは苦しんだが選球眼は良く、走力も盗塁は多くないものの平均以上。守備は1B以外の全ポジションを守った経験があり、昨季もSS、3B、2B、CFで出場。今大会では20年にメジャーで3試合、19年に3Aで2試合だけ守ったRFで起用予定だが、練習試合では無難な動きをしていたため、大きな問題はなさそうだ。打順は打線の繋ぎ役として二番が有力か。
 高雄市の山奥にあり、野球選手を多く輩出している那瑪夏区という地域で育った。同郷出身で今回チームメイトになった林岱安とは親戚関係にある。

39 吳念庭(ウ・ニィエンティン 埼玉西武) 1B/3B/2B 右左 175cm 80kg 29歳
22年成績 94試合 打率.227 5HR 28打点 2盗塁 OPS.649 ※NPB
『手薄な3B、1Bで勝負強さ発揮したい左打者』

 高校から日本に野球留学し、岡山共生高-第一工業大学を経て15年ドラフト7位で埼玉西武に入団。プロ5年目の21年に130試合 打率.238 10HR 48打点 OPS.658と初の規定打席に到達し、オールスターゲームの出場も果たすなど飛躍の一年に。昨季は打撃成績こそ落としたが、五番を中心にチームで唯一全打順で先発出場。代打、代走、守備固めとしても役割を果たす器用さは変わらず。勝負強い打撃が持ち味で、得点圏打率は21年が.282、昨季が.292。BB%も昨季はリーグ平均を上回る12.3%と選球眼も向上。弱点は内角で21年が打率.180、昨季が.102と悪化。今大会は過去の台湾代表と比べて1B、3Bの長距離砲が不在だが、今大会は3Bまたは1Bとして走者を還す役割を果たしたい。
 17年のアジアプロ野球チャンピオンシップ以来の国際大会出場。2月27日の味全との練習試合では岡山共生高の同級生で、19年にはチームメイトだった廖任磊(味全)と対戦。結果は空振り三振だった。

83 林立(リン・リー 樂天桃猿) 2B/RF/CF 右右 182cm 86kg 27歳
22年成績 109試合 打率.335 14HR 83打点 22盗塁 OPS.908
首位打者(19、22年) 打点王(22年) 盗塁王(21年) 最多安打(22年) シーズンMVP(22年) ベストナイン(19、22年)
『昨季シーズンMVP、打てて走れる二塁手』

 内野3ポジションを守れる守備力と、打力を兼備する大学生内野手として17年ドラフト2位でラミゴに入団。同年のシーズン終盤から13試合で打率.340と結果を残すと、18年からレギュラーの座を掴み、19年は8月中旬まで打率4割をキープする活躍で最終的に打率.389で首位打者に。21年を除いて走力と打力を兼備した若手内野手として活躍し、昨季は主に一番に入り首位打者、打点王、最多安打の三冠、また2Bとしてリーグ初のシーズンMVPも獲得と「攻撃的な一番」として充実のシーズンを送った。打撃は内角の捌きが上手く、広角に打てる中距離打者で、昨季はリーグの投高打低傾向が強まる中でも打撃成績が向上。プロ入り後は走力の高さも見せ、昨季まで3年連続20盗塁以上。大学時代に評価されていた守備はプロではミスが目立ち、昨季は2Bを中心にRF、CFも守った。あくまで打力と走力で価値を生み出す選手である。今大会は張育成が2B中心の起用になることから、DHでの出場が予想される。
 応援歌の原曲はカプコンのゲーム「ロックマン2」のワイリーステージで流れる曲で、19年のプレミア12では日本でも話題に。この応援歌になったのは17年に前身のラミゴがカプコンと一緒にコラボデーを開催したのがきっかけである。

90 江坤宇(ジャン・クンユ 中信兄弟) SS 右右 175cm 72kg 22歳
22年成績 109試合 打率.318 6HR 40打点 10盗塁 OPS.808
ベストナイン(21、22年) ゴールデングラブ賞(20、21、22年)
『遊撃守備は台湾球界歴代トップクラス、中信兄弟の守りの要』

 高校時代から守備を高く評価され、18年ドラフト3位で中信兄弟入り。19年に二軍で53試合で打率.314と順調なスタートを切ると、20年はそれまでSSレギュラーを守り続けていたベテラン王勝偉に代わる形で開幕から出場を続け114試合 打率.309と結果を残し、スムーズなSSレギュラーの世代交代に成功。現在まで3年間大きな離脱なくSSを高いレベルで守り抜いているのは立派の一言で、守りを重視する中信兄弟で欠かせない存在となっている。SS守備は範囲の広さ、捕ってからの速さ、打球反応など全てが一流で、若くして台湾球界トップクラスのSSとの呼び声も高い。広角に打ち分ける打撃も兼備し、昨季はシーズンで初めてライト方向への打球比率がレフト、センター方向を上回った。バントも上手く、盗塁も直近2年連続で10盗塁以上と小技もこなせる点も代表では重宝するだろう。今大会はSSで鄭宗哲と併用される可能性が高い。
 主なあだ名は「小可愛」だが、他にも様々なあだ名が最低でも15個以上ある。

46 范國宸(ファン・グォチェン 富邦) 1B/3B 右右 183cm 88kg 28歳
22年成績 114試合 打率.293 9HR 51打点 2盗塁 OPS.755
ベストナイン(22年) ゴールデングラブ賞(22年)
『ようやくシーズン通して主軸で活躍した中距離打者』

 大学時代から長打力への評価が高く、富邦入団時は将来の主軸候補として期待された。しかし入団後はパワーツールを示すことができず、また故障や他の選手とのポジションの関係もあり出場機会には恵まれなかった。出場機会を増やしたのは20年からで、昨季はようやくシーズン通して1Bレギュラーに定着。主に三番、四番に入り初のベストナイン、ゴールデングラブ賞を獲得。打撃は二桁本塁打がまだ一度もなく中距離打者タイプであり、センターから右方向への打球が多いのが特徴。長打力を考慮すると本来であれば六番あたりに置きたい存在だが、長打力不足の富邦では今後も主軸としての起用が続くとみられる。守備は入団後はミスが目立ち、特にサブポジションの3Bで失策を重ねていたが、21年からは1Bメインとなり安定。大会でも1Bメインで、試合展開によっては3Bを守る可能性もある。
 昨年10月7日の統一戦ではCPBL史上一番遅く終了した試合(午前0時50分)に決着をつけるサヨナラタイムリーを放つも、疲れからか笑顔なくベースを回った。

6 王威晨(ワン・ウェイチェン 中信兄弟) 3B 右左 183cm 75kg 31歳
22年成績 105試合 打率.314 0HR 38打点 11盗塁 OPS.706
盗塁王(18、19年) 最多安打(21年) ベストナイン(20、21、22年) ゴールデングラブ賞(19、20、21、22年)
『俊足巧打と安定感ある3B守備が武器、今大会キャプテン』

 父は兄弟で15年間プレーし07年~09年途中まで監督を務めた王光輝で、CPBL史上初の親子プロ野球選手。24歳&ドラフト13位と厳しい立場でのプロ入りで、プロ2年目の16年は一軍で6試合の出場にとどまった。しかし17年のシーズン終盤にチャンスを掴むと、同年のウインターリーグでは打率.397をマーク。18年からはレギュラーを掴み取り、昨年までの5シーズンで計768安打、120盗塁、打率.326(5年連続3割以上)と「一番・3B」のポジションを不動のものとしている。打撃はセンターから左方向に安打を量産、コンタクト能力に長ける一方で四球をあまり選ばず、早打ちの傾向が年々強まっている。走力は18年に盗塁王を獲得するなど俊足ではあるが、昨年は故障の影響もあってか11盗塁、盗塁成功率が.520にとどまった。3B守備は範囲は平均レベルながら送球の正確さ、肩の強さがあり、4年連続ゴールデングラブ賞を獲得。今大会の内野手は複数ポジションを守れる選手が多い中で3B専のため、打力を考えるとベンチスタートからの守備固め、代走がメインになる可能性もある。また代表に一番打者タイプの選手が揃っていることから、練習試合では五番や六番での先発出場もあった。
 台湾シリーズに強く、19年から4年間の打率は.429、.345、.353、.429。一方19年のプレミア12では打率.280(25-7)、OPS.653。世界が舞台の短期決戦で活躍を見せられるか注目したい。

外野手

9 王柏融(ワン・ボーロン 日本ハム) 1B/LF/RF 右左 182cm 91kg 29歳
22年成績 15試合 打率.063 0HR 0打点 0盗塁 OPS.157 ※NPB
MVP(16、17年) 新人王(16年) 首位打者(16、17年) 最多安打(16、17年) 打点王(17年) 本塁打王(17年) ベストナイン(16、17、18年) ゴールデングラブ賞(16、17、18年) ※CPBL
このままでは終われない台湾の至宝

 
CPBLでは4シーズンで2度の打率4割、通算打率.386、通算OPS1.110の輝かしい実績を引っ提げ19年に日本ハム入りも、4シーズンで通算250試合 14HR OPS.656と期待を裏切る結果に。オフには退団のアナウンスがされたが、昨年12月に育成選手として再契約。今大会はシーズンへのアピールという意味でも重要な舞台となる。日本ではタイミングの取り方に苦しむ姿が多く、対左投手を非常に苦手としているのが気がかり。今季は再び打撃フォームの改造にも着手。昨季一軍では1Bでの先発出場が最多も、今大会では両翼を守る見込み。打順についてはプレッシャーの少ない六番や七番でのびのび振らせたい。
 
ラミゴに所属していた16年は打率.404 29HR 105打点をマークし大活躍の一年も、翌17年のWBCはプロとアマの対立があったことからラミゴが自チームの選手派遣を見合わせ出場できなかったため、今大会が初めてのWBC出場となる。

12 
陳晨威(チェン・チェンウェイ 樂天桃猿) CF 右左 180cm 72kg 24歳
22年成績 111試合 打率.327 2HR 33打点 38盗塁 OPS.808
盗塁王(20、22年) 新人王(19年) ベストナイン(22年)
流れ変える走塁に期待、球界きってのスピードスター

 
18年のドラフト2位で前身のラミゴに入団。当時は比較的無名の選手だったため、上位指名に驚きの反応が多かった。内野手としてプロ入りも、2年目の19年からは王柏融の退団で空いたポジションを埋める形で外野手での出場機会が増加、87試合で打率.300 22盗塁の活躍を見せ新人王を獲得。20年はキャリア最多の114試合に出場し初の盗塁王、21年は成績を落とすも、昨季は一番や九番に入りキャリアハイの打率、2年ぶりの盗塁王を獲得と充実のシーズンを送った。武器は何といっても俊足で、直近4シーズンで合計120盗塁、三塁打も合計48本。守備は外野手にコンバートしたのがプロ入り後ということもあってか、ルート取りを誤ったり、走力で打球判断のまずさをカバーしようとし、不必要なダイビングキャッチで無駄な進塁を許したりという場面が見られる。
 昨年オフ、リーグのタイトル表彰式が行われる直前に樂天桃猿のチアガールだった倪瑄の浮気が一部メディアで報道され、その浮気相手が陳晨威だったため、一時期話題となった。

24 
陳傑憲(チェン・ジェーシェン 統一) CF 右左 173cm 73kg 29歳
22年成績 108試合 打率.309 6HR 42打点 17盗塁 OPS.802
首位打者(20年) 最多安打(18、20年) ベストナイン(17、18、20、21、22年)  ゴールデングラブ賞(22年)
『理想の一番打者として結果を残し続ける安打製造機』

 高校から岡山共生高に留学し、12年にはNPBにドラフト志望届を提出するも指名されず。卒業後は台湾の社会人強豪である台湾電力で走攻守三拍子揃った内外野を守れる選手として評価を高め、16年ドラフト2位で統一に入団。プロ入り後は2年目の17年から一番打者に定着し打率.387をマークすると、骨折による長期離脱があった19年以外は不動の一番打者として活躍しチームの顔に。センターから左方向に安打を量産し、17年から四球数>三振数とアプローチにも長けている。左投手を苦にしないのもプラス要素。足も速く、シーズン通して20盗塁前後を計算できる。守備はプロ入り後はSSでプレーも送球難に苦しみ、18年には32失策と守乱でシーズン終盤にLFにコンバート。20年は開幕こそSSに戻ったが守乱は解消されず、以降はCFでプレー。コンバート当初は不安もあった打球判断や送球も改善された。今大会はCFレギュラーの筆頭候補で、ムードメーカーとしての存在感にも期待したい。
 代表でチームメイトになった郭天信とは同じ公称173cmだが、Instagramのストーリーでお互い自分の方が高いと主張しあい、昨年5月に球場でメディアを前に公開測定。結果は幸いにも二人とも同じ高さということで和解(?)した。

35 
成晉(チェン・ジン 樂天桃猿) RF/CF/LF 右右 184cm 90kg 24歳
22年成績 100試合 打率.316 1HR 36打点 23盗塁 OPS.738
『走攻守バランス良しのいぶし銀外野手』

 
高校時代は外野手兼投手として強豪の平鎮高中でプレー。入団後は18年から二軍で2年連続打率3割と結果を残し、20年から一軍での出番が徐々に増加。昨季はレギュラーに定着し8月には一時首位打者となる活躍。主に1番林立の後の二番に入り、リーグ3人目の「20盗塁&20犠打」を達成し25犠打はリーグトップ。打撃はバットを寝かせて構えるフォームが特徴で、コンタクト能力が高く、センターから右方向の打球が多い。20年以降は年々K%、BB%が改善傾向にあるのは良い傾向。守備も安定しており、RF中心に外野3ポジションを守れる。24歳という若さながら外見には渋さもあり、プレースタイルとマッチしている感も。代表では外野手で唯一の右打者として小技、走力、作戦遂行能力を発揮し打線のアクセントとなりたい。
 応援歌は樂天桃猿ファンの舞台監督である王慕天の提供によるもので、曲名は「封王功成」。

2 
郭天信(グォ・ティエンシン 味全) CF 右左 173cm 70kg 22歳
22年成績 110試合 打率.301 2HR 32打点 25盗塁 OPS.688
ベストナイン(21、22年) ゴールデングラブ賞(21、22年)
『若いチームの象徴的存在、センター担うガッツマン』

 内外野守れるユーティリティーとして、大学1年時に19年ドラフト3巡目で味全入り。プロ入り後は外野手に専念し、20年に二軍で53試合 打率.335 11盗塁の好成績を残すと、21年からは21歳ながら味全のCFに開幕から定着。2年連続で規定打席に到達&打率3割&20盗塁以上と、一番打者として申し分ない活躍を見せている。小柄な体格ながら走攻守に溌溂としたプレースタイルで盛り上げるのが特徴。打撃は鋭いスイングで野手の間を抜く技術に長ける一方で、積極性が高いゆえに早打ちが多く選球眼が課題。また送りバントもやや苦手としている。走塁も積極性が光り、盗塁成功率は21年の.690から昨季は.810と改善を見せた。守備は打球判断が課題も範囲は非常に広く、強肩も兼備し昨季は12補殺をマーク。
 練習試合で走攻守にやや不振だったこともあり、今大会はベンチスタートの試合が多くなるとみられるが、守備固めや代走で持ち味を発揮したい。なお一軍定着後はほとんどCFしか守っていないが、練習試合ではRF、LFも守っている。
 試合終了後、グラウンドに向かって行う90度のお辞儀を大学生の頃から続けており、本人曰く「球場が怪我無くプレーさせてくれたことへの感謝」。

※参考
CPBL公式ホームページ:https://www.cpbl.com.tw
野球革命:https://www.rebas.tw
『2023プロ野球オール写真選手名鑑』(日本スポーツ企画出版社、2023年)


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