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鑑賞ゲリラ Vol.45『end less』アーティストトーク 2024/5/12開催

開催情報

【開催日】2024年5月12日(日)
【会場】C7C gallery
【展覧会】前田明日美個展「emerge」
  会期 2024 年5月 11 日(土)~5 月 26 日(日)
【出品作家】前田明日美(MAEDA Asumi) 

内容 

作家の前田さんから《emerge》についてお話をしていただいた後、参加者やスタッフからの質問に答えていただきました。


1.《emerge》について

メインの作品は展覧会のタイトルにもなっている《emerge》とつけました。
昨年、札幌の彫刻美術館で「生命体の存在展」という企画展に参加させてもらいました。それが彫刻美術館ではあるのですが、彫刻ではない立体造形で、生命を表現している作家を集めた展覧会でした、
私の全体を通してのテーマは、生命力って何だろう・・・植物とか、自然の生き物が持つ美しさとか、特別なエネルギーとは何だろう・・・というものです。

(鑑賞中に)第一印象で編み物とおっしゃった方もいましたが、私の作品は、素材は素材でしかなくて、布のかたまり、糸のかたまりでしかない。だけど、無機物が寄せ集まった状態がなぜか有機的に見える。それは何によってそう感じるのだろう・・・自分でも説明できない、それを考えるために作っています。それが全体を通してのテーマになっています。

美術館で展示した作品《echo》は、今回横たわっているように、異なった状態で展示してあります。
その当時から今も、貝殻の模様が気になっていて、渦巻き模様、螺旋の閉じられた円ではなく、やまびこのように全く同じものが返ってくるのではなく・・・少しずつ反響していく、少しずつずれながら同じような軌道をとっていくのが、時間を感じて、いのちっぽいインスピレーションを感じます。2 年前くらいから、貝殻とか抜け殻をイメージした作品を作っています。

《emerge》手前の横たわっているものが《echo》

今回《emerge》として新作を発表するのにあたって、完全な新作は立ち上がっている作品です。
螺旋への興味があって、同じことを繰り返しているようで少しずつ違って、グラデーションでどんどん乱れていくというか、積み重ねのエネルギー、上昇するようなエネルギーから、パワーや生命力を表現できるかなと思って、このような造形にしてあります。
《emerge》というのは「あらわれる」という意味なのですが、未知の生物、新しい生命力みたいなものが現れて欲しい、現れるというのをタイトルにしました。


Q:鑑賞中に、下のブロックについて意図があるのではないかという意見が出ましたが。
A:皆さん、そこが気になるんだ・・・と改めて思いました。
今回、このブロックは愛知で調達したのですが、もともと私の地元(札幌)に札幌軟石という建材があります。その軟石で建てられた古い建築が身近にあるのですが、石切り場も近くにあって、使えない瓦礫があります。そのかたちがおもしろいので、学生の時から什器というか、そういうものの一部として使っていた経緯があって、自分にとっては当たり前のモチーフというか、自然と近いけれど建材という人の手が入った痕跡、人を感じる、人工的なものです。私の有機的なものが作りたいという、複雑な作品と無機質だけど個性があるというのが自分的にしっくりきていて、自然に選んだ素材でした。特別メッセージを込めたわけではなかったので、感想を聞いていて、皆さんのインスピレーションになっているのがおもしろかったです。
鑑賞中に「必要ではないものが、また必要になった感じ」とおっしゃってくださいましたが、私の選んでいる素材自体が、学生時代から持っている素材がほとんどです。洋裁をしていた祖母が使わなくなった糸などをもらって使ったり、前の職場で廃棄になったサンプル生地を使っていたり、制作中に出た糸くずなどを集めて花びらを作ったり・・・再利用する感じで、ゴミとか使い道のないものを集めて作ったものだったので、まさにその通りだと思って聞いていました。

Q:海の生物をイメージするような意見がいくつか出たのですが、イメージしたものや影響を受けたこと、体験があるのでしょうか。
A:海の生き物にも興味があって、深海魚などの図鑑を見るのが好きなのですが、水族館は怖くて入れないんです。
小学1年生くらいの頃、教室にグッピーを飼っている水槽があって、顔を思いっきり水槽にくっつけて見ていた時に、水中に入ってしまった感覚になって怖くなってから、水族館や大きいガラスケースのある博物館も怖くなってしまいました。
だけど、昨年水槽のシリーズを作った時に、ガラス1枚隔てて知らない自分とは違う生態系があるということに興奮しました。サイズの違いなどで受け入れられる要因があったとは思いますが、やっぱり好きかもしれない・・・未知の生態系、自分が入り込めない世界に対する恐怖と興味、興奮が表裏一体であることに気づきました。海の生物の持つ独特のグラデーションとか、陸で生きいて出会えない色合いとかテクスチャーとか。友達になるタイミングはなくて、一生分かり合えないけれど、同じ地球に生きている距離感とか、ワクワクして、海の生物に執着があります。
素材は、白とか透明なものにグラデーションも自分で染めて色を付けているのですが、絶妙なグラデーションとか、ぬるっとしたり、所々キラッとするものに、表現したい憧れがあります。

Q:ひも先が白い塊の素材が気になります。あれがあることで、海の生物のヌルっとした感じが出ている気がします。
A:チューブ状の糸を染めて、白い部分は粘土です。
Q:真ん中の白い部分は?
A:具体的に生き物が中に入っているわけではなく、何かが入っているという可能性を表現したくって。(横たわったほうが)抜け殻で、(立っている方が)稼働している・・・中の宿主の可能性を表したくて。

Q:小さいのは?
A:幼体みたいな・・・

Q:進行方向はあるのでしょうか。
A:動きは意識しました。ナメクジの軌道みたいな、這っているようにしたいなとは思って。
高さのあるものが好きで、上方向は意識しました。上から下への落下よりも、下から上へ向かうエネルギーが気になっています。風には揺れるけど上方向に向かって立っていられる植物の繊細さと力強さのバランスとか。立っている植物を作ろうと思うと、針金とか強いものを使わなくてはいけないのですけど、植物は繊細ですよね。

Q:作品を動かしたい気持ちはありますか。
A:これ自体も、パーツ自体も動いて欲しいなと思います。

Q:生命力を追求していく中で、考え方が変わっていくと思うのですが、どこかで止めたいなというのはありますか。
A:止まるときは来るんじゃないかなとは思っています。昨年、半年間野ざらしで作品を展示していたことがあったのですが、良い感じにエイジングされたものと、汚らしくなってしまったものとがあって。はっきりそう思ったのは説明できないけれど、どの素材もその瞬間があると思います。

Q:新陳代謝みたいな?
学校を卒業したときの作品のタイトルを、英語で提出しなければいけなかったので「reincarnation(輪廻)」とつけました。鑑賞中に「輪廻」とおっしゃっていた方もいましたが、ずっと「輪廻転生」もテーマにしていました。

Q:これって編み物なんでしょうか
A:割いた布をひも状に編んで、これを布状に縫い合わせてあります。全部らせん状で繋がっていたんですが、部分的に裂きました。

Q:顔が無いのはなぜ?
人の要素、顔は感情移入してしまうかなと思って。まったく生き物かどうかも分からない存在にしたくって。具体的な生き物につながる手足なんかもつけていないです。

2.水槽シリーズ《colony》について

Q:真ん中の作品に、みなさん惹かれていましたが。
A:私もとても気に入っていて、いろんな展示に連れまわしています(笑)
昨年の初めに作って、その時は屋外で水を入れて展示をしていて、その後も何度か水に入れて展示をして、終わったら出して洗って乾燥して・・・というのを繰り返していくうちに、部分的に錆びたり、ちょっと塗装が剝げたりカビたり。最初はフレッシュな赤だったのが、色が褪せていく部分があったりして。自分が最初はこうしようと思って作りましたが、その後は予期せぬアンコントロールな存在になって、自分でも色合いとかびっくりするような、狂い咲き状態というか。
(鑑賞中に)死とか終わりを感じるとかというのも、これまでの過程やその要素が自然に出ているのだろうなと思います。それが不思議で、まだ言葉にできなくて、それをテーマにして作品を作っています。
この作品は、これで完成したと思っているので、もう水に浸けたりしないで時をここで止める予定で、ゴールかなと思っています。なんでそう思っているのかも自分で不思議です。

Q:他の作品に比べて時間の経過を感じるので、そこからストーリーを感じているようです。手前のものはブロックからイソギンチャクのようなものが出ているという感想がありました。
A:あれが札幌軟石の実物です。瓦礫とかからも新しい生命のサイクルが始まっていく、人の痕跡を感じるものから新しいサイクルが始まるのが好き、ワクワクする気持ちで作っています。一番新しい作品で、フレッシュで鮮
やかな状態です。

Q:我々の世がいったん終わって、また新しく始まった・・・そんなときにあるようなものたちというようなイメージがあったと感想がありました。
A:人間の世界や文明とは設定していないのですが、そういうのが好きす。いったん終わってまた始まるサイクルとか。


前田さんがお話する中で、ところどころ鑑賞者の言葉を引用されるのを聞いて、注意深く感想を聴いてくださったのが伝わってきました。
鑑賞内容の感想を作家さんから聞く・・・面白い体験です。

【レポート】富樫水奈子

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