広がることで次が繋がるものづくりを ┃株式会社SECDENさん インタビュー
東京TASKものづくりアワードで優秀賞・多慶屋特別賞の二冠を受賞した、「花活布」(はなかっぷ)の開発者(株)SECDEN 代表 節句田恵美さんにお話を伺いました。
花活布プロジェクトの始まり
―――花活布プロジェクトはどのようにして始まったのですか?
始まりは、約13年前です。当時、大手学生服メーカーのトンボという会社で、展示会の企画や社内報を担当していました。その頃、未使用なのに毎年、何トンも廃棄されていた制服の布地を見て「もったいない」と思い、リサイクル方法がないかと私個人で研究を始めました。
最初は会社も応援してくれましたが、研究開発の途中で社長が交代し、経営方針が変わり、社内でプロジェクトを進めることはできなくなりました。そのため、会社を辞めて自分でプロジェクトを進めることにしました。会社を辞めてからは研究仲間と「花活布プロジェクト」という団体を2015年4月に設立し、これまで継続しています。
―――花苗を布で包むという構想は、トンボさんにいらっしゃったときからありましたか?
私がリサイクルの研究を始めた頃は、廃棄していた布を「農業用マルチ(雑草が伸びないようにかぶせる布)」に使えないかと考え、東京都の農業総合研究センターさん(以下農総研さん)と協働してプロジェクトを進めていました。ただ、コストなどの問題があって苦戦しており、何か他に布を活かせる方法はないかと模索していました。
そんな頃、農総研さんが壁面緑化用に花苗を植えた30センチくらいのマットを作っていることを知り、「制服の布で、花苗を包むものを作ってみたら」というアイデアが浮かびました。そこで、「これ、布で作ったらどうですか?」と提案したところ、賛同を得ることができました。
布は縫製するだけで様々な形ができるのですが、制服の生地は丈夫で硬いので自由な形を作るのが難しく、バケツ型、座布団型などコストも考慮しながら試作を繰り返しました。
後に学生服メーカーを辞め、制服の布にこだわる必要がなくなったので、プリント柄などの綿の端材を使うことにしました。綿素材なら巾着型ができます。製作を依頼している福祉授産施設でも縫いやすいようにと仕様を考え、現在の形になりました。
――トンボさんにいらした頃の研究と、農総研さんの構想が合致してできたのが、花活布だったのですね。お互いプラスとなるマッチングの仕方ですね。
そうですね。人といろんな意見を交わしながらものづくりのアイデアが広がっていくというタイプなので、自分で全部進めるよりも協働する方が向いています。デザインの仕事をしていた時も、印刷物をつくる際にデザイナーや、営業担当、それぞれが持っている得意分野を生かしながらものづくりをしていました。
「多くの人と協働したほうが、それぞれの持っているものを活かせる。広がることで次が繋がる」というのがポリシーです。
――今の花活布を見ていると、最初は全然違うものから始まったのだと不思議な気持ちです。ところで、大学にも通って花活布に関する研究をしていましたよね?
はい。「個人でやるなら大学で研究した方が説得力がある」と勧められ、トンボにいる時に岩手大学大学院の社会人コースに3年間通い、農学の博士号を取得しました。布の中に入れる培地(※)は、その時に論文でも発表しました。
―――台東区には、どのようなご縁があって起業されたのですか?
主人が、東京藝術大学卒で学生時代を過ごした台東区が大好きだったので、私も台東区に親近感がありました。起業当初は別の場所でしたが、縁あって戻ってくることができました。
――多慶屋さんで行われた花活布の販売会が好評だったそうですね。
購入者の多くはやはり女性でしたが、男性にも好評でした。コンパクトなので、持ち運びに抵抗が無く、手軽に買えるようです。また、外国人がとても興味を持ってくれるのは驚きでした。多慶屋顧客の高齢婦人の数名には「いままで多慶屋にない商品ですね」とお褒めの言葉もいただきました。
また、最近作成した商品の紹介動画は材料を提供しただけで、多慶屋さんの企画の方がわかりやすい動画にしてくださり、さすがだなと思いました。
\ 商品紹介動画はこちら /
――TASKものづくりアワードでは、時代にマッチしているという評価でした。
リモートワークやおうち時間が増えて、需要が増えたと思います。花活布は置く場所がなければぶら下げることもできるし、ひっくり返っても水や土が溢れないので、パソコンの事故も避けられます。
また、使っているヤシ柄の培地は衛生的なのでキッチンにも置くことができ、捨てる時も燃えるごみとして捨てられたりと使いやすさを追求しています。
花活布にこめた思い
――花活布をどのような方に使ってほしいですか?
特に若い方に使ってほしいです。若い方はお花や植物をかわいいと思っても、自分で育てる人が少ないですよね。以前、頼まれてある大学で花活布のデザインコンセプトを考えるという授業をしたときに、学生に「お花や緑を育てていますか?」と聞いたら、「水やりのタイミングが分からない」「土が苦手」という理由で育てていないと返事がありました。
「若い人たちがこれから花や緑に親しんでもらえるようになってほしい」という思いでできたのが花活布だったんです。
「水だけで育てられる」「花でも約3週間もつ」「土を使っていないため燃えるゴミで簡単に捨てることができる」と、植物を育てる際の障壁がクリアできていると思います。
――実際に、若い方もプロジェクトに参加されていますね。
はい。若い人に親しんでほしいという思いから、学生さんにもプロジェクトに参加してもらっています。学生さんの考えは新鮮で、プロジェクトメンバーも刺激を受けています。
サレジオ高専では、これまでに三人の学生さんが卒業制作で花活布を題材にしてくれました。実際に販売や什器の作成にも参加してもらいました。サレジオ高専の子たちは行動力があって、一人でも声掛けして、アンケートを取ったり販売会に来て一緒に売ることもありました。
デザインは、社会との繋がりが必要なんですが、学生さんだとそこまでできないです。ビジネスは、結果に手早くつながることを優先して考えますが、学生さんには効率重視だけではなく、自分の発想を優先して考えてね、と伝えています。
――様々な方がプロジェクトに携わっていますが、どのようにして参画する方たちが増えたのですか?
以前からの友人知人が参加してくれたり、その知人が友人を紹介してくれたりして、共感して応援してくれる人の輪が拡がってきました。
例えば、農総研さんは、共同研究者の紹介です。研究仲間から紹介されたサレジオ高専の教授は、実は大学の後輩だとわかり、親身になって協力してくれるようになりました。抗菌性のアドバイスを受けている方は大学で細菌学を研究している医学博士で、たまたま共通の趣味を通して親しい友人になり、何でも手伝ってくれます。
――研究やプロジェクトをずっと継続できた理由を教えてください。
常々、花活布という商品はこの世の中に存在する意義があるのではないかと思い、社会への恩返しという気持ちで続けてきました。花活布自体が他に類を見ない商品だから、ここで私が諦めると、もう世の中には出てこないんじゃないかという自負もありました。
ついてくる人、応援してくれる人がいて、せっかくみんなでやってきたので、何とか形にしたいという思いもありました。
――ありがとうございました。最後に、今後こうなってほしいという希望はありますか?
日本は欧米と比べて、若い人たちに花離れ、緑離れの傾向が顕著だと聞いています。ですから都会に住む若い人たちに、日々の生活の中で生きた花や緑に親しんで、生活を潤いのあるものにして欲しいと思います。
子供の時から花や緑に親しんでいれば、自然と育て方などの知識が身につきます。小学生などの情操教育の中で、あるいは課外教育で花や緑の大切さを教えていって欲しいと願っています。
そう考えて、花活布を1時間足らずで子供たちが楽しみながら製作できる課外授業用の教材セットを作ってみました。花活布製作を通じて子供たちが花や緑に自然に触れ合い、心の豊かさを育んでもらえたらと願っています。
また花活布は使い方が自由にできますから、今後、お取引できる販売店等にオリジナル性を加味していただければ嬉しいです。「こんな風にカスタマイズして使いたい」というアイデアがあると、隠れた需要が出てくるのかなと思います。
カスタマイズ、ドンと来いです!
節句田さん、お忙しいところ、インタビューにご協力いただきありがとうございました。
節句田さんのものづくりに対するポリシー・世の中に貢献をしたいという思いがこのプロジェクトに参画する人を増やす求心力になったのだと、お話を伺う中で感じました。
花活布は台東区中小企業振興センターにも飾っており、日々癒しを与えてくれています。立ち寄った際は、ぜひご覧ください。
企業情報
企業名(株)SECDEN
web http://hanacup.info/
Instagram https://www.instagram.com/hanacup_project/
facebook https://www.facebook.com/hanacuppj/
学生さんたちの取り組み
http://hanacup.info/link/project/sarejio1/
http://hanacup.info/link/project/sarejio2/
http://hanacup.info/link/project/sarejio3/
《たいとう産業ナビ》
台東区の産業の情報を発信中!是非フォロー・登録お願いします!
🚩Instagram:http://instagram.com/taito.sangyo.navi/
🚩Twitter:https://twitter.com/taitosangyonavi
🚩Mailmagazin:https://www.taito-sangyo.jp/01-keiei/merumagaback.html
この記事は台東区産業振興事業団 中川が担当いたしました。