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『葉桜と魔笛』と朗読と私
ご覧いただきありがとうございます!
大正大学 朗読団体「fukiya」の、小倉と申します。
先日、私が朗読した『葉桜と魔笛』が、山梨桜桃忌のYouTubeチャンネルにアップされました。
今回は、公開に至るまでの稽古・収録・編集についての感想を中心に書いていこうと思います。
▼音源もぜひご覧ください▼
今回私が朗読した、太宰治の『葉桜と魔笛』は、1939年初出の短編小説です。
老夫人が、35年前の葉桜のころに体験した不思議な出来事を語るところから始まります。
女性独白体で書かれており、読みやすいと感じました。
桜が散って、このように葉桜のころになれば、私は、きっと思い出します。――と、その老夫人は物語る。
暖かな日差しの差し込む、縁側に面した和室。聴き手と向かい合い、大切な思い出を懐かしみながら物語る老夫人。老夫人は上品な和装で、背筋を伸ばして正座をしている。開いた障子の間から、爽やかな5月の風が吹き抜けていく……。
私は冒頭部分から、こんな印象を受けました。
朗読するにあたり、私は、頭に浮かんだイメージを伝えることを意識しています。
作品の解釈・イメージを、自分の声で表現できること。
これこそが、私が考える朗読の魅力です。
* * *
今回、太宰の作品を初めて朗読し、読点の間合いをとても難しく感じました。
私の一家、と言いましても、母はその七年まえ私が十三のときに、もう他界なされて、あとは、父と、私と妹と三人きりの家庭でございましたが、父は、私十八、妹十六のときに島根県の日本海に沿った人口二万余りの或るお城下まちに、中学校長として赴任して来て、……
句点で2つの文に分けても良いんじゃないか、と思うような箇所を、太宰は読点で区切って書いています。
これが太宰特有のリズムを生み出しているのですが、声に出して読むととても難しいです。
均等な間で読むと平坦に聞こえてしまいますし、かといって間を取り過ぎるとひとつの文として成立しなくなってしまいます。また、一息で読むには長く、息が続かなくなってしまう箇所もありました。
自分の朗読の課題を認識し、稽古を重ねる中で、間や抑揚といった"表現力"と、発声・滑舌・イントネーションなどの"技術"を鍛える必要があると思うようになりました。
放送部をきっかけに朗読を始めた高校時代、私はどちらかというと前者の“表現力”を重視して稽古をしていました。
そして今回は、プロとして活躍されている外川先生と望月先生に稽古していただく中で、後者の“技術”、特に「聴き手にストレスを与えない朗読」を強く意識しました。
ほんの少しの文末の上がり具合や、表現しようとするあまりについてしまう抑揚のうねりなどが、朗読全体の印象を大きく変えると知り、目から鱗でした。
そして私は、「自分の読み方の癖を理解し、聴き手を思いやった朗読ができるようになりたい」という新たな目標を見つけました。
* * *
朗読の録音は、大学の一般教室で行いました。
広い場所で収録する際には、読み手の周囲をパーテーションなどで囲うと、反響を抑えられるそうです。「fukiya」のメンバーが設営を手伝ってくれました。
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実は、録音日は大学の卒業式で、振り袖と袴で収録を行いました。
一生に一度の、とても良い思い出になりました。
編集の際には、それぞれの場面で思い浮かべていたイメージを言語化して編集担当に伝え、近い画像を選んでもらいました。
この“イメージの言語化”がとても大変でした。しかしその甲斐あって、映像作品としてもとても素敵な動画になったと思います。
画像にも注目してご覧いただけたら嬉しいです。
前述の通り、私は今年の3月に大学を卒業しています。
所属や生活環境が変わったことで、今までと同じように「fukiya」の活動に参加することは難しいかもしれません。
先のことはわかりませんが、関わる形が変わったとしても、朗読はライフワークとして続けていきたいと考えています。そして、母校の朗読団体で活動する後輩たちを応援していきたいと思います。
朗読団体「fukiya」は、今後も太宰作品を中心に、動画や記事を投稿していく予定です。
すでに投稿された作品と合わせて、楽しんでいただけたら嬉しいです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
(執筆・卒業生 小倉)
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