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太宰のゆかりの土地で朗読。『富嶽百景』音源公開!
こんにちは!
大正大学の朗読団体【fukiya】です。
フリーアナウンサーとしての顔も持つ外川教授と、大正大学表現学部で学ぶ有志学生で、朗読の練習や収録を行なっています。
猛暑の日々も過ぎ、夏休みもそろそろおしまいです。
【fukiya】も秋学期から、活動を本格的に再開いたします。
太宰治と天下茶屋
さて、本日は9月22日です。最近大きな台風が来て大変でしたね。
大学のある巣鴨でも、風雨が激しかったです。
1938年の9月18日、太宰は後の妻である石原美知子とお見合いをしています。
台風の来た今年とは違い、よく富士も見えるほど晴れていたようです。
当時の太宰の心象は、山梨・天下茶屋にて執筆された『富嶽百景』の中からも窺うことができます。
井伏氏は、御坂峠を引きあげることになつて、私も甲府までおともした。
甲府で私は、或る娘さんと見合ひすることになつてゐた。井伏氏に連れられて甲府のまちはづれの、その娘さんのお家へお伺ひした。井伏氏は、無雑作な登山服姿である。私は、角帯に、夏羽織を着てゐた。娘さんの家のお庭には、薔薇がたくさん植ゑられてゐた。母堂に迎へられて客間に通され、挨拶して、そのうちに娘さんも出て来て、私は、娘さんの顔を見なかつた。
井伏氏と母堂とは、おとな同士の、よもやまの話をして、ふと、井伏氏が、
「おや、富士。」と呟いて、私の背後の長押(なげし)を見あげた。私も、からだを捻(ね)ぢ曲げて、うしろの長押を見上げた。富士山頂大噴火口の鳥瞰(てうかん)写真が、額縁にいれられて、かけられてゐた。まつしろい睡蓮(すゐれん)の花に似てゐた。
私は、それを見とどけ、また、ゆつくりからだを捻ぢ戻すとき、娘さんを、ちらと見た。きめた。多少の困難があつても、このひとと結婚したいものだと思つた。あの富士は、ありがたかつた。
このとき太宰が逗留していた御坂峠の天下茶屋は、なんと朗読団体【fukiya】の発起人である外川教授のご実家なんです。
〈外川教授にご寄稿いただいた記事はこちら〉
山梨桜桃忌で、『富嶽百景』を朗読
その天下茶屋にて、太宰の忌日を前に山梨桜桃忌が開催されました。
例年は太宰ファンの集う機会となっていましたが、感染拡大を鑑み、2年前から関係者のみで開催しています。
私たちは、山梨桜桃忌で『富嶽百景』を朗読する機会をいただきました。
太宰が使用した机や火鉢の前で、太宰の作品を朗読する……とても文学的で、貴重な体験でした。
夏を前に緑も鮮やかな天下茶屋。
撮影・録音後、学生を中心に編集を行った動画が公開されています!
(いい笑顔です)
『富嶽百景』の中から3か所を抜粋して朗読しました。
ぜひご覧ください!
ご感想などいただけますと、とても嬉しいです。
この朗読をきっかけに、他団体様からもお声がけをいただきました。
アーカイブを行うと共に、イベントなどでの朗読も少しずつ挑戦していけたら、と考えています。
〈山梨桜桃忌の様子は、朝日新聞山梨版でも掲載していただきました〉
* * *
朗読団体【fukiya】では、『富嶽百景』はもちろん、太宰治の作品を朗読してアーカイブする活動を行っています。
今後このnoteでは、他作品を朗読し終えた学生の声や、山梨桜桃忌を期に『富嶽百景』を見つめ直した学生の評論などもご紹介していきます。
どうぞお楽しみに!
(執筆・3年生 長岡)