Google、Spotify参入で超進化する音声メディア『ポッドキャスト』のヤバさを3つの変化から解説する
今世界的に注目され進化を遂げる音声メディアの配信方法『ポッドキャスト(Podcast)』。最近ではGoogleやSpotifyの参入でさらに盛り上がりを見せています。
私が普段オトナルという会社で音声メディアや音声広告周りで動いている中で、ポッドキャストのその優れた音声メディアとしての特徴やポテンシャルがあまり理解されてないように感じています。
そこで、今回はできるだけその特徴とここ最近の進化の具合、要するに「なにがどう変化していてヤバいのか」を解説をしていきたいと思います。
..ということで飛躍的に進化を遂げる音声メディア『ポッドキャスト』について、最近のGAFA(FBは除く)+Spotifyの動向もまじえて、できるだけわかりやすく説明していきます。
※チャネル、配信手法、マネタイズの3点についてを記載しているためそれなりの長文です。
ポッドキャスト(Podcast)とは?
ポッドキャストとはインターネット上で音声コンテンツを公開する方法の1つです。
具体的にはmp3ファイルをアップロードして、ユーザーがそれをダウンロードもしくはストリーミングで再生することができる仕組みです。Appleの「iPod(アイポッド)」と、放送を意味する「ブロードキャスト」が由来で、2005年頃にブログサービスに組み込まれる形で新サービスがスタートしました。
日本では10年近く前に一度ブームがあり、それ以降はあまり普及していない印象がある人もいるかもしれません。
このポッドキャストという仕組みの素晴らしさは、アップした音声ファイルをRSSで配信できることにあります。
こう書いてしまうとシステムに明るくない人はちょっと複雑に感じてしまうかもしれないので、図にわかりやすく書くと以下のような感じです。
ひとつの音声コンテンツをアップするとRSSにてソースコード化され、それを経由してデジタルメディアとして複数の配信チャネルに自動反映されるしくみです。その先のコンテンツの広がりについても以下で説明してきます。
ポッドキャストはパブリッシャーやコンテンツ制作者主導の優れた音声配信手法である。
ポッドキャストを活用した音声コンテンツの素晴らしさは、ひとつのプラットフォームにとらわれずコンテンツをマルチプラットフォームに配信できるため、コンテンツを保有するパブリッシャーやクリエイター側主導で運用ができる点にあります。
たとえば国内の動画プラットフォームと比較して考えるとわかりやすいかなと思うので図にしてみるとこんな感じです。
私はWebメディア出身です。ウェブサイトの場合、パブリッシャーはコンテンツを自社のメディアサイトにアップし保有することで、コンテンツホルダーとしての独立性を保ってきました。
現在の日本における動画のように、ひとつのプラットフォームで情報の寡占状態が起きること(つまり動画におけるyoutubeのような状態)はユーザーにとっては利便性を生み出しますが、パブリッシャー側からすると自社でコンテンツの流通をコントロールできず、そのプラットフォーム限定のコンテンツ供給者に成り下がる危険性を秘めています。
その点ポッドキャストは、現時点の音声コンテンツとしてその独立性、流通性能において音声パブリッシャーが実施すべきもっとも優れた配信方法のひとつです。マネタイズについても後述します。
ポッドキャストのヤバさを語る前に、これまでの3つの課題をおさらい。
そんなポッドキャストですが、2005年の登場以降、普及には3つの課題があったと考えています。
1.チャネル(聴く方法が限定的でハードルが高かった)
2.コンテンツ配信(コンテンツを提供する側のハードルが高かった)
3.マネタイズ(収益化する方法がなかった)
簡単に1つずつ説明していきます。
1.チャネルが限定的(聴く方法がハードルが高かった)
これまでポッドキャストがどこで聴けるのかが非常に分かりづらいものでした。
本家Appleの、機能もりもりのitunesはユーザーからは決して使いやすいものではなく、またAndroidはポッドキャスト用のアプリを個別に入れる必要がありました。
そのため一部の情報リテラシー高いの層や一部のコンテンツのファンでなければ、聴き始めることにハードルがあるという点が課題でした。
2.コンテンツ配信(コンテンツを提供する側のハードルが高かった)
一方、コンテンツ配信のほうにも課題は2つありました。
1つ目は配信の手法が限られたものであったことです。こちらも一部のITリテラシーの高い層にしか始めることが難しい側面がありました。
2つ目はサーバー費用の負荷によるコストの問題です。音声コンテンツは動画ほどではありませんがサーバーからのデータ転送に容量を食うため、トラフィックが増大すると非常に膨大なランニングコストがかかることも課題でした。
2016年まで人気ポッドキャストを運営していたTBSラジオが月間300万再生されるなどユーザー数の増加にも関わらずサーバーコストが見合わずサービスを停止したことはこちらの記事にも詳しく書かれています。
余談ですが、TBSラジオは2019年11月、音で観る映画「AudioMovie(オーディオムービー)」という臨場感あふれるポッドキャストコンテンツを新たに配信し始めています。
3.マネタイズ(収益化する方法がなかった)
ポッドキャストの音声コンテンツのマネタイズは現在では広告ビジネス(BtoB)かコンテンツに対するユーザー課金(BtoC)の2つに別れます。
これまで、これらを実現する手段がほとんど確立されておらず、広告を載せたコンテンツの制作運用やそのメディアとしての価値から大きくスケールが難しいという点がありました。
以上の3点がこれまでポッドキャストが抱えていた課題です。ポッドキャストは技術的にもそこまで新しいものではありません。ではなぜ今ふたたび盛り上がっているのか。
さきほどの課題と適応させた3つの変化のポイントから説明していきたいと思います。
1.ポッドキャストのチャネルの進化とGAFA(FBは除く)+Spotifyの動き(2019年12月現在)
〜配信チャネルの変化〜
まず各プレイヤーの動きを見る前に米国におけるポッドキャストの聴取ユーザーの成長についても触れておきます。現在アメリカのポッドキャストのユーザーは以下のように成長しています。
米国ではポッドキャスターと呼ばれる人たちが生計を立てており、ポッドキャストをきっかけとしたその他メディアでのコンテンツ展開なども行わわれています。
▼Appleのポッドキャストにおける最近の動向
まずはポッドキャストの生みの親でもあるiTunesを展開するAppleの動きです。
Appleは2019年の6月にこれまで機能が闇鍋のようにごった煮状態だったitunesからポッドキャストを分離し、独立したアプリとして展開を開始しました。(現在の『Apple Podcasts』です。)
これまでポッドキャストはAppleのハードウェアで聴く場合、iTunesで聴く形をとっていました。それが2019年の6月にITunesからポッドキャスト、TV、ミュージックの3つのアプリを分離しました。これによりポッドキャストコンテンツ単体をユーザーが探しやすくなり聴きやすくなりました。
▼Googleのポッドキャストにおける最近の動向
Googleに関しては2つ大きな動きがありました。
1つ目は2018年6月にローンチされた『Googleポッドキャスト』です。
Androidのスマートフォンでポッドキャストを聴く場合これまではGoogle公式のアプリは存在していませんでした。(自社製アプリとしては「GoogleListen」2012年に終了しています。)そのGoogleが自社製のポッドキャストアプリとして『Googleポッドキャスト』の展開を開始しました。これによりgoogleの他サービスとポッドキャストが連携されはじめました。
2つ目の大きな動きは、2019年の8月に米国でGoogleが検索エンジン上に『ポッドキャスト検索』を実装したことです。
なお特に発表はされていませんが既に日本でも実装されており、「テクノロジー ポッドキャスト」などと検索すると検索結果上にポッドキャストが現れ検索結果の次のページで再生することができます。
Googleポッドキャストの配信を登録すると検索結果画面に掲載されるのはもちろんのこと、Googleポッドキャストに配信登録をしていなくても検索結果に現れると言う事象が確認されているため(知り合いのポットキャスター談)おそらくポッドキャストが吐き出すRSSかホスティングサービスをGoogleがクローリングしているものと思われます。
これはHTMLでWebページを公開してGoogleがクローリングし検索結果にあらわれるのと同じ原理です。
ちなみに、すでにGoogleアシスタントとGoogleHomeでは「OKGoogle、ポッドキャストで(ポッドキャスト名)を再生して」と話しかけることで、ポッドキャストに配信された番組を再生することができます。
▼Spotifyのポッドキャストにおける最近の動向
世界2億人以上のユーザーを誇る音声配信サービスであるSpotifyもポッドキャストプラットフォームとしての強化に力を入れています。
Spotifyは2019年に入って3社のポッドキャスト関連スタートアップを買収しています。
買収されたのは、
・2019年の2月にオリジナルポッドキャストシリーズを配信する制作スタジオであるGimlet Media(ギムレットメディア)、ポッドキャスト制作プラットフォームであるAnchor(アンカー)、そして2019年3月に買収されたのがポッドキャスト制作スタートアップのParcast(パーキャスト)です。
Spotifyのダニエル・エクCEOは、「近い将来Spotifyが配信するコンテンツの20%以上が非音楽コンテンツになるだろう」という発言をしています。
日本の動向の例としては、2019年の6月にはラジオ日経が30番組をSpotify上でポッドキャストとして公開するなど、ラジオ局との連携の動きも強まっています。
2019年の8月にはSpotifyポッドキャストをアップロードするための『Spotify for Podcasters』をローンチし、一般のユーザーが簡単にSpotifyに音声番組をアップロードできるようになりました。
先日12/20にSpotify協賛にてニッポン放送主催の『JAPANポッドキャストAWARDS』が開催が発表されたことからも日本市場におけるポッドキャストへの本気度が伺えます。
▼Amazonのポッドキャストにおける最近の動向
Amazonは2019年12月に同社の音声アシスタントAlexaを搭載するスマートスピーカーAmazon Echoシリーズで、AppleポッドキャストとSpotifyのポッドキャストを再生できるようになったと発表しました。
これまでAmazonAlexaで音声コンテンツを再生する場合、Amazon Alexa用に開発した「alexaスキル」(スマホでいうとスマホアプリのようなもの)を開発する必要がありました。そのためAmazonAlexaに音声コンテンツを配信する場合には一部の企業や開発のできるエンジニアなどしか実現することができませんでした。
それが今回の新機能により、ポッドキャストさえ配信していれば、誰でもAmazon Alexaで音声コンテンツが再生されるようになりました。
現時点(2019.12月)では米国のみの対応のようですが、数ヶ月で日本にも同機能が実装されると思われます。
これによりポッドキャストを配信していれば、Amazon echoとGoogle Homeという2大スマートスピーカーで誰でも再生ができるようになります。
▼ポッドキャストの配信チャネルのまとめ
上記の全体をまとめるとポッドキャストの配信チャネルは以下のようになります。
上記の図を見ていただくとポッドキャストで音声コンテンツを配信することが、いかにコンテンツとしての広がりがあることかを理解できるかと思います。
2.コンテンツを配信するためのハードルの変化(ポッドキャストをアップする方法が多様化)
〜配信手法の変化〜
前述の通りポッドキャストは一つのホスティングサービス(配信サービス)から複数のプラットフォームおよび配信チャネルにコンテンツを展開できることが特徴です。
これまではこの点もハードルの高さから普及が進みにくい側面がありました。
課題の部分でも触れましたが、以下の2つのハードルがありました。
1つ目は配信の手法が限られたものであった。
2つ目は音声コンテンツはトラフィックが増えてくるとサーバー負荷が増大するためサーバーコストが増大する。
現在では配信連携されたプラットフォームやクラウドシステムを使うことでその部分のハードルが下がり、誰でも簡単に音声コンテンツをアップロードすることができます。
日本国内でも以下のような手法でコンテンツを配信することができます。
・Anchor(アンカー)
Spotifyが2019年の2月に買収したポッドキャスト配信サービスです。このシステムの素晴らしいところはクリエイターが音声コンテンツをスマートフォンから簡単に公開、配信できることです。アンカー側にホスティングがされるためサーバー費用などはかかりませんが、アンカーの持つ一部チャネルで広告が挿入される場合があります。
・SoundCloud(サウンドクラウド)
ドイツのベルリンに拠点を置く音声ファイル共有サービスです。音楽をやっていたことのある人からすると自分で作った楽曲を上げるサービスの印象が強いかと思いますが、ポッドキャスト配信にも対応しています。一定の使用量を超えると有料化が必要になります。
例を上げると、以下の番組などはSoundCloudから配信されているようです。
ドングリFM
pilotboatcast(パイロットボートキャスト)
・Radiotalk(ラジオトーク)
音声コンテンツのCGMことトーク配信アプリ『Radiotalk』もポッドキャストへの配信に対応しています。こちらもAnchor同様に手軽にスマートフォンから収録、編集、公開、ポッドキャストが可能で、無料で使用することができます。そのためRadiotalkに音声コンテンツをあげておけば自分たちが作った音声コンテンツを世界中に配信できることになります。
アプリ内にスタンプや投げ銭システムがあったり、コンテンツの配信を非常に手軽に行うことができるのが特徴です。
例を上げると、以下の番組などはRadiotalkから配信されています。
少女漫画喫茶
怪異伝播放送局
・himalaya(ヒマラヤ)
中国で6億ダウンロード(!)を誇る音声メディアプラットフォーム『himalaya』の日本版でもRSS配信が可能です。
こちらもAnchorやRadiotalkと同様にhimalayaで音声コンテンツをあげておけば外部のチャンネルに配信できることになります。こちらもサーバー費用がユーザーにかかることはありません。サイト上にアップしたコンテンツは有料販売を行うことも出来ます。
例を上げると、以下の番組などはhimalayaから配信されています。
世界一ゆる〜い幸せの帝王学
本田健の人生相談 〜Dear Ken〜
・WordPress(ワードプレス)
世界中で使用されるブロガー御用達のオープンソースCMS『WordPress』でもポッドキャスト配信が可能です。具体的にはポッドキャスト配信用のプラグインを使用することでポッドキャスト用の配信CMSとして使用することができます。ワードプレスを使用する場合はサーバー代は配信者負担となります。
ちなみに安価なレンタルサーバーなどで人気ポッドキャストを運用した場合、転送量が大きすぎて、レンサバ会社から警告が来たりすることがあるようなのでご注意を...笑
例を上げると、以前以下の番組がワードプレスから配信されていました。
“MOOK STUDY”日本の歴史(ムックスタディー 日本の歴史)
▼配信手法と配信先チャネルの全体図まとめ
上記のポッドキャスト配信に対応したサービスを先程のチャネルの図に当てはめて見るとこのような形になります。
ポッドキャストは、RSS配信により複数のチャネルにコンテンツを配信できるため、コンテンツ制作者やパブリッシャー側がコンテンツの配信を少ない手間で効率的に行うことが出来ます。
ユーザー側からすると、ひとつの音声コンテンツを様々なプラットフォームで楽しむことが出来きるため、コンテンツを聴く際のハードルが下がり、音声コンテンツを楽しみやすくなります。
3.ポッドキャストのマネタイズの変化
〜収益化の変化〜
ポッドキャストの普及の課題の1つは、マネタイズにありました。
しかし現在アメリカの市場を見るとポッドキャストの音声広告市場は拡大しています。
この背景にはこの記事の上段で書いた
「1チャネル(聴く方法が限定的でハードルが高かった)」
「2コンテンツ配信(コンテンツを提供する側のハードルが高かった)」
の課題の解消により、聴取ユーザーと配信するパブリッシャーやクリエイターの増加しつつあること。また、テクノロジーの進化によるマネタイズ手法の確立が影響としていると考えられます。
ポッドキャストの広告には、タイアップ型のスポンサードコンテンツと、スポットで挿入される広告のタイプがあります。
この辺りはブログやウェブメディアの広告マネタイズと同じです。
・タイアップ型のスポンサードコンテンツ
タイアップ型のスポンサードコンテンツは番組内でスポンサーやスポンサー商品の紹介をして、番組自体が広告クライアントと一体化している形です。
ポッドキャストの音声広告はパーソナリティが紹介するようなホストリード型である場合、獲得型広告の性能も高いと言われています。この辺りはライブコマースやYouTuberに似ています。
・スポット広告
一方のスポットで挿入される広告の手法は音声番組のプレロール、ポストロール、ミッドロールに20秒から30秒程度の再生課金型の広告を挿入するスタイルが主流です。
米国やヨーロッパ、オーストラリアなどではすでにアドネットワークが発展しており、ポッドキャスト内の音声広告枠をシステム上で広告代理店や企業が買い付けられるようになっています。
この広告のメリットはデジタル広告の特徴である配信ターゲティングができるたため、ユーザーセグメントごとに広告メッセージを変えたり、配信時間やエリアをコントロールすることができるなど、広告としての配信精度が高い点が特徴です。
ちなみに広告マネタイズの部分に関しては長くなるのでまた別の機会に詳しく書きたいと思います。
またもう1つのマネタイズ方法はユーザー課金です。
米クラウドファンディング『パトレオン』では、リスナーからポッドキャスターへの月額課金システムが展開されており、犯罪やホラーもののポッドキャスト番組「Last Podcast On The Left」では、12684人のユーザーから一ヶ月に$59,333(約650万円)がファンであるリスナーから支払われています。(2019.12月現在)
なお、日本においても先のSoundCloudの箇所で紹介した『ドングリFM』が番組のファンコミュニティをCAMPFIRE上で展開しており、リスナー同士の交流の場、会員限定の配信などを提供しています。100人以上のファンからの支援によって運営費をまかなっているようです。(2019.12月現在)
このようなファンコミュニティ型のマネタイズが実現できるのも、声でコミュニケーションをとる音声メディアの特徴だと言えます。
まとめ:ポッドキャストはヤバい。
(グローバル規模で情報流通が確保された最もすぐれた音声コンテンツ配信手法である)
今回はポッドキャストの特徴や素晴らしさ(つまりヤバさ)について、あまり知られていないことがもったいないなと思ったので筆を取りました。
まとめると
・1.GAFA(FB以外)+Spotifyの参入により配信チャネルが拡大。
・2.配信方法の多様化によりハードルが一気に下がっている。
・3.マネタイズ方法が確立されつつある。
という3点になります。
可能な限りわかりやすく書いたつもりですがまだまだわかりにくい点がある場合はこれからも補足しつつ、ポッドキャストというものが現在進行系で進化を続けているため、また今後も情報を追加していきたいと思います。
ちなみに弊社オトナルでは、ラジオ局やプロの音声パブリッシャー向けにポッドキャストやインターネット音声コンテンツによるデジタル音声広告(オーディオアド)のマネタイズ支援を実施しています。
ポッドキャスト導入支援も可能なので、ご興味あれば「noteみた!」って感じでまずは気軽にお問い合わせください。
ツイッターもやってます↓