プロレスラー

人は見た目が1000割

先日、図書館へ行こうと思い、家を出て昼間の住宅街の中をぶらぶら歩いていた。

気持ち良く晴れた午後。

とても爽やかな気持ちだった。

道行くおばあさんにこんにちは(心の中で)
すれ違うガキンチョにこんにちは(心の中で)
立派に咲いた紫陽花にこんにちは(これは言った)

僕は平和な午後のひと時をかみしめていた。

ああ、幸せだなぁ…。

梅雨時の晴れた日というのは、何割か増しで清々しい気持ちになるもの。

せっかくなので、僕は少し遠回りをして、住宅街の中を歩くことにした。

僕の家は少し歩くと高級住宅街と言われる場所に差し掛かり、やけに大きな家々が軒を連ねている。

その豪華な家を見ながら、どうやったらこんな家に住めるんだろう、どんな人が住んでいるのだろうなんて、想像をしていたんです。

すると、その時、後方からパトカーのサイレンが一瞬聞こえた。

「そこの…………さい」

警官が何かを言っている。何か事件でもあったのだろうか?

僕は音のなる方を見る。

後ろにはだれもいない。

パトカーの先にいるのは、僕だけだったのだ。

パトカーから何かまた言葉が発せられる。

僕は注意深くその声を聞いた。

「そこのきみ、止まりなさい。」

そう、それは、僕へのメッセージだったのだ。

僕は立ち止まる。

パトカーは僕の後ろに止まると、警官が2人出てくるや否や、挨拶もなしに僕の体中を触り始めた。

「い、いきなりですか…!?」

股間を触られた時なんか、思わず変な声が出ちゃったわよ、あたしゃ。

ていうか、いやいや、何もしてないんですけど!

家を見ながら歩いていただけなんですけども!!!!

そう思ったけど、胸に手を当てて、本当に何もしていないのか、と言われると、何かしたような気にもなってきて、いや、何もしていないけど、知らない間に自分が何かしたような、変な気持ちになった。

結果的に僕は何もしていないし何も持っていなかった。

何もしていないのに安心した。

僕は聞いてみた。

「どうして僕を止めたんですか?」

すると、警察官は悪びれる様子もなく、



「いやー、お兄さん、おっかないからさ!」

アハハ!と笑いながらそう言った。


あ、あなた…随分とハッキリと言いますね…。


「ここらへん空き巣が多いからさ!間違えちゃった!アハハ!協力ありがとうね!」

そう言ってパトカーに乗り込むと、悠々と遠くへと行ってしまった。

僕はその後ろ姿を眺めながら、警察官の言葉を噛み締める。

おっかない。

おっかない……

お、おっかない……。

なんなんだ!!あの警官は!!

後になってめちゃくちゃムカついてきたぞ!あいつ!ちっくしょー!!

善良な市民の最高な散歩を止めて、善良な市民の体中を好きなように触るだけ触って、善良な市民のことをおっかないって言って善良な市民を傷つけて……

まじでなんなんだ!!あいつは!!!

そして、僕は悲しくなった。

ああ!そうですよ!!僕はどうせおっかない顔をしておりますよ!!

空き巣だと思われたのも心外だ!こんな真昼間に堂々と下見するアホな空き巣がいるかよ!!ちっとは頭つかいなはれ!アホ!

昔からこうである。もはや慣れたわ!




大学生の時、バイト帰りに自転車に乗っていたら道端に酔いつぶれているお姉さんがいた。

僕は水を買ってあげてタクシーまで捕まえてあげた。

なのに、タクシーに乗るときに

「あの!本当に!勘弁してください!」

とお姉さんに大声で言われたのだ。

タクシーの運ちゃんに睨まれて気まずくなったわ!

お前めっちゃ水がぶ飲みしとるやんけ!ふざけんな!



そのことを思い出し、僕は悲しくなった。

楽しい散歩は一気に味気ないものへと変わってしまった…。

そのあと、僕は無事図書館にたどり着き、夕方くらいまで作業をしていた。






作業もひと段落ついた頃、お腹が空いたのでおうちに帰ることにした。

その帰り道のこと。

狭い路地を歩いていると、

向こう側から帰宅途中と思しき女子小学生と鉢合わせた。

普通の人だったら、何も言わずに通り過ぎていくと思うけれども、

その子は僕を見るなり、立ち止まり、

明らかに、いやそこまでする!?って突っ込みたくなるほどに、僕を警戒し始めた。

中腰になり、いつでも逃げられる姿勢に入る彼女。

そして、僕にバレない様にゆっくりと右手を背負っているカバンの方に動かしていく。

その瞬間に僕は勘付いた。



その指の先にあるものって…

あわわわわわ!!!!




ぼ、ぼ、防犯ブザー!





それはまずい!なんかよくわからんけどそれはまずい!!!

気付くと僕は、走っていた。

何もしていないのに、彼女から逃げようと道路を全力疾走していた。

走っていて自分でもわけがわからなかった。

弁解させてくれ!

俺は!何もしてないし!何かをするつもりも毛頭ない!

なのに!なぜ!なぜ!俺は走っている!?

なぜ!俺の心の中には罪の意識がある!?

わからなかった。なのに、ただがむしゃらに走っていた。

そして、僕は「そんなに顔が怖かった!?ええええええ、ごめん!!!」と心の中で女児に謝った。






あの、だから、言われなくても、わかっています。

僕の顔が怖いことは。

あなたはありますか?

中2の頃、登校していたら幼稚園児に指を指されて「殺される!」と言われたこと。

取引先の部長に「エキゾチックな顔立ちだね!」と言われたこと。

引退した部活の先輩にもらった手紙の最後の言葉で「お前の顔、怖くて苦手やった」って言われたこと。

ありますか!?

僕はありますよ!バーカ!あるよ!あるんだよ!!




ただ、まじで、今まで生きてきて、他人を殺そうとか思ったことは一度もないですし、

むしろ、僕は他人を楽しませたい一心で今、毎日を生きています。



だから、誤解を解くために自分から働きかけることも必要かもしれないですね。

ということで、




今度から、不審者扱いされたらそいつを追いかけ回して、首根っこをつかみ上げて、耳元で僕のnoteのURLを大声で教えてあげようと思う。

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小林泰輔
生きます。