一人で勝手に突っ走らない
ケヴィン・デイヴィス著、「ゲノム編集の世紀: 「クリスパー革命」は人類をどこまで変えるのか」(早川書房)を読んだ。
本屋さんに行って何か科学系、特に生物系についての本を読みたいなと思って探しているときに見つけた。ゲノムって遺伝子に関連したものなのか、くらいの知識しか私は持ってなくて、そもそも私は生物に全く詳しくない。それでも本の表紙がかっこいいのと、遺伝子を操作するってどういうことなんだろうという疑問からこの本を買った。
この先ネタバレあり。
とても長かった。最後の参考文献を含めなくても600ページ近くある。そのうえ科学的説明は私にはほとんどよくわからなかった。そしてかなりたくさんの科学者が出てきて、どのような研究を行っていたのかかなり詳しく書かれている。正直、そんなに必要ないかなという情報もかなり入っていたため読み飛ばした部分もあった。
全体としては、遺伝子の情報?を持っているゲノムを編集する技術を「クリスパー」と言い、その技術がどのように出来て、どのように現在認識されていて、これからどのように使われていくと考えられるのか、について述べている。
このクリスパーという技術が一見関係なさそうな基礎研究から始まっているらしい。ここでどんな基礎研究がクリスパーにつながっていくのかを本書では書かれているのだが、それぞれの科学者がどんな風におのおのの基礎研究を行っていたのか紹介される。ここが個人的にはかっこいいのだ。何がかっこいいのかというと、科学者ってやっぱりすごい、かっこいいと思わせてくれるのだ。それぞれの科学者がどんなことに興味を持って地道に研究して人類が知らなかった知識を少しずつ解明してくれる。その研究成果は最初はあまり評価されていなくても後世になって評価される場合もある。(もちろん最初から評価されることもあるし未だに評価されていないものもあるはず)科学者ってかっこいいんだなと思わせてくれる。
クリスパーという技術はゲノムを編集する技術なのだが、これの何がすごいのかというと文字通りゲノムを編集することが出来ることだ。例えば、癌にならない人間をゲノム編集によって作りだせるかもしれない。必ず絶対音感を持つ人間も生み出せるかもしれない。そういう技術なのだ。ただまだ人間に適用するには色々と準備が足りていない。そのはずだったがある中国人科学者がこの技術を使って人間を生み出してしまった。クリスパーベイビーと呼ばれる。さらに、この実験が成功しているのかどうかもわからない、ということだ。これが倫理的規範に則していないのではないかと問題になってしまったのだ。
そしてクリスパーは将来的に様々な可能性を秘めている。クリスパーによって絶滅した生き物も蘇らせることもできるかもしれないと言われている。また先ほど申したとおり、人間の欠陥的部分を補うだけでなく、さらなる能力の向上も見込めるかもしれないのだ。しかし、先述した問題も相まって現在人類はこの技術の開発を本当に推し進めていいのか議論が交わされているのだ。
この大きすぎる問題に対して私は簡単な解決策などもちろん持ち合わせていないし、どういう意見を持つべきなのかも正直見当もつかない。ただ言えることは科学的信頼を失った分野は、その分野の研究を進めにくくなるということがわかった、ということだ。倫理的規範に違反しながら強行で人間のゲノム編集の研究を進め、さらにそれが失敗しているかもしれないとわかった今では、研究者たちがゲノム編集の研究を以前よりしにくくなっているということだ。もしも順番を守ってきちんと研究を進めていれば順調に技術が進歩して現在の不治の病を治すことも出来ていた可能性がある、ということだ。仮に私利私欲のためではないとしても、それでも一人で勝手に突っ走ると周りに多大な迷惑がかかるかもしれないということだ。特に人権や人命がかかっているときはなおさらだ。まあこの規模のプロジェクトを一人で独断で遂行したとは思えないけれど。この教訓をもとに私たちは同じ間違いを犯さないように気を付けなければならないのかもしれない。