棒ノ折山単独行記
先日、金谷のvoidoで開発合宿をした際に、奥多摩にある棒ノ折山が沢の横を登っていくルートがあっておすすめですよ、と教えていただいた。
去年は計20日くらいは登山をしていたけれど、今年は全くといっていいほど山に登っていなかったので、感覚を取り戻すために登ってみることにした。
最近は登山ブームということもあってか、人気の山では登山道で渋滞が起こるくらい人で溢れている。仕方ないけれど、自然を感じるには少し情緒を逸してしまう。本当はパーティで山に登ったほうが楽しいのだけど、空いている平日に単独で登ることにした。
棒ノ折山の登山前日は、大変美味しいワインをごちそうになっていたのもあり、少し寝坊しながらの出発になった。改めて日の入り前に余裕を持って下山できるかをYAMAPでコースタイムを確認しながら飯能駅に向かった。
そこからバスに45分ゆられて、ようやくさわらびの湯に到着した。
一人であるのと、バスから見える昔ながらの町並みが合わさって、侘しさで帰りたくなる気持ちに襲われる。
しかもあいにくの曇り空である。
天気予報では晴れだったはずなのになぁ。
なぜ僕は、苦しいとわかっていながら、山に登らないといけないのか。
そんなことも頭によぎりつつ、有間ダムを横切っていく。
稜線にでたところで晴れていれば万事問題ないのである。
白谷橋登山口につくと、登山届の提出箱があった。
QRコードを読み取ってWeb画面で提出できる仕組みになっていたので、スマフォを取り出していそいそと入力する。
眼の前には少し急な登山道が見えた。
単独行の心細さと、久しぶりの登山で緊張感を覚えつつ登り始めた。
気持ちが落ち着かず、足が先に先にとはやる。
日が落ちる前に下山できるとわかっていても、不安を隠せないでいる。
そうこうしていると、左手にずっと流れていた沢が滝に変わった。
足を止め、シャッタースピードを少し遅めにして何枚も撮った。
一眼レフ持ちは、水辺を見るとカメラの性能を試すかのごとく露光時間を弄りながらシャッターを切ってしまうものだとhighwideさんが言っていたが、僕も例に漏れなかった。
とはいえ、このおかげで気も紛れてペースを落ち着けることができた。
棒ノ折山の白谷橋からのルートはなかなか面白く、沢を何度も横切ったり、滝の横をよじ登ったり鎖場もあったりと、変化に飛んでいた。
水場を歩く途中で、下山中のご夫婦とすれ違った。
挨拶をすると、この先で崩落があるので、林道をずっと進むと別の登山道にでて山頂に行けるよ、と教えていただいた。
前日の雨による増水で川をよぎれなかったり、巨木が倒れていて避けないといけなかったり、階段が崩れていてけもの道を通ったり、そういったイレギュラーは登山につきものである。
岩場を登り切ると、聞いていたとおり崩落の警告と迂回路の案内が出ていた。ご夫婦に教えていただいた通り、林道を歩いていく。
林道は、舗装がされていないものの車が通れるような道だった。
登山道と違って趣がないなと思いつつ、一方で趣ってなんだろうなと考えていた。登山をしていると、自然を感じ、自然と向き合うような感覚があるけれど、はてどうしたものか、登山道も整備されているので人工的である。
答えがでないまま歩いていると、舗装工事をしているショベルカーが道を塞いでいた。
大きな鉄の塊をすり抜けていくと、ようやく登山道が見つかった。
なるほど、帰りのルートで歩こうとしていた河又口の道だった。
もうそろそろ山頂を意識するくらいまで来ている。
道路工事の音を遠くで聞きながらどんどん登っていく。
山は静かだ。
山を登っていると聞こえる音がある。
木々のささめき、鳥のさえずり、熊鈴の響き、そしてジェット機のエンジン音、ヘリコプターのローター音である。
機械的な2種類の音も、日常的によく聞く音だ。
この騒がしい音を聞くと、つい習性でどこを飛んでいるのか上空を探してしまうが、普段から慣れているせいで違和感があまり感じられない。
とりとめのないことを考えながら、根の張り巡らされた道を登っていく。
うまく土の部分を踏むように、足の向きや腰の向きをあっちこっちに向けていくうちに、登ることに自然と集中していく。
疲れも溜まってきて、息を切らせながら崩れた階段の道を登りきるとようやく山頂に到着した。少し急いでいたことも合って、予定よりも30分ほど巻いていた。
眼の前に広がる景色は、
残念ながら見通しの悪いどんよりとした曇り空だ。
写真撮影のテクニックの低さもあるかもしれないが、ある意味そのままのなんとも言えない残念さを共有したい。これもまた登山なのだろう。
次は晴れた日に登れますようにと、なんとなく何かに祈って少し遅めのお昼ご飯を食べた。下山をすれば、さわらびの湯で汗を流せる。そんなことを考えながら山頂をあとにした。