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What happened in New Kalein? #パルプアドベントカレンダー2019 #飛び入り参加

 ……あ? なんだアンタ、俺に何か用か。

 ……聞きたいこと? ニュー・カルインで何があったか、だと?
 そうかそうか、アンタは俺に聞きたいことがあるのか。そりゃ良かったな。だが生憎、俺の方には話したいことが無え。残念だったな兄ちゃん。

 ……なんだ、まだ居たのか。賢そうなツラの割には物分かりが悪いんだな。はっきり「失せろ」って言ってもらわないと分かんねえのかよ?
じゃあ言ってやるよ、「失せ」……。

 おいアンタ、それ、それだ、その、手に持ってる奴。それ、なんだよ? おい、まさかとは思うが、そのラベル、「28年もの」じゃ無いよな? そんな酒、持ってる訳ないよな? アンタみたいな若造が、おいそれと買える代物じゃねえしなあ。そりゃそうだよなあ。ヤベエな、思ったより酒回っちまってるみたいだ……。

 マジかよ。

 おいアンタ、まさか、まさかとは思うが一応聞いてみるぜ。その酒、まさか俺にくれるってんじゃないよな?

 マジかよ。

 あーあー、わかってるよ。話と引き換えにってんだろ? 全く、信じられねえよ。確かに凄え体験だったが、そんなもんと引き換えになるとは思えねえがな……おいアンタ、話終わった後で気が変わったりすんなよ?

 ……俺の話次第だと? 糞、プレッシャーかけてくれるじゃねえか。

 あーもう、わかったわかった。そんじゃ話してやるからよく聞けよ。全部話してやるからよう、あの日、俺の町――ニュー・カルインで何が起こったのか、包み隠さず、全部な!

 ……マジでくれるんだよな。約束してくれよ。

◇ ◇ ◇ ◇

 ニュー・カルインはシケた町だった。人はいない、仕事は無い、だからどいつもこいつも金が無い。金がないから夢も希望もない。どうしようもない土地さ。

 あるのは半分腐ったような住人と――そうだな、街の中心にあるバカでかい教会だけだ。この教会はなんでも、結構古い時代からあるそれなりに貴重な建物だったらしい。

 ん? ああ、「だった」ってのはアレだ。おれが知ってる教会はもう”元”教会って感じだったからだ。だれも面倒見る奴がいなかったせいでボロボロの荒れ放題。十字架背負った”救世主様”も誰だかわからねえくらいに薄汚れてたっけな。

 ……なんでそんなことにって、あのなあアンタ。

 あの町の住人は、俺も含めて自分の面倒見るのに精一杯な連中ばかりだったんだ。いるかどうかも怪しいカミサマの面倒見てる余裕なんか、あるわけねえだろ。

 まあ、それはともかくだ。そんなときにあいつらがやってきたんだ。

 「イブの子どもたち」って名前だった。一言で言っちまえばクソカルトさ。どこからともなくニュー・カレインにやってきて、いつの間にか居座って、怪しい動きをしてやがったんだ。

 ……そうだな。アンタの言うとおりだ。怪しいのに放ったらかしにしていたからあんな事が起きたんだ。その前に、どうにかすべきだったんだろうさ。

 ただ……はっきり言っちまえば、どうでも良かったんだと思う。もう俺も、他のみんなも、何か行動を起こすには疲れ果てていたんだ……日々の暮らしだけで、一杯一杯だったのさ。

 あいつらは、住人たちに何かちょっかいをだすようなことも無かった。町の隅っこで、何かコソコソやってるだけだった。だから本当に、俺達にとってはどうでもいい奴らだったんだ。あの日、あんなことが起こるまでは――ああ、今から話すから慌てなさんな。

 ええと、そうだな。

「クリスマスを数日後に控えたニュー・カルインに、ひとひらの雪が舞い落ちた。続けてもう一つ、さらにもう一つ。やがてそれは無数のカケラとなって、あれよあれよという間に町を埋め尽くしていった……」

 って感じかな。さて、これを聞いてアンタどう思った? いかにも聖夜にお似合いの、素敵な出来事が起こりそうな気がするかい?

 まあ、しねえよな。

 この後はこうだ。

「町を埋め尽くした“黒い”雪は、逃げ惑う住人にまとわりつき、窒息させ、数多の命を奪った。それと同時に空では、顔のない魔物が我が物顔で飛び回リ始めた。あまつさえ、死者となったはずの住人たちがおぞましくも自ら動き出し、黒い雪から逃れた一握りの人々を喰らおうと襲いかかった……」

 自分で言っておいてなんだが、こりゃダメだな。いかにもB級ホラーの粗筋じゃねえか。

 でもホントなんだ。やばかったんだ。この世の地獄だったんだ。

 生き残った俺達は、みんな自然と教会に集まっていた。あんなボロい教会に集まっちまったの、今でもなんでかは分からねえが。

 当然、どうしようもなくなっちまった。壁を破ってゾンビ共が、天窓からは空飛ぶ化け物共が襲いかかってきた。俺たちに残されたのはたった一つ、全力で祈ることだけだった……あ、いや、俺はもう一つやってたな。

 何って、愚痴ってたんだよ。

 ”救世主様”相手に、心のなかで。なにが救世主だ、俺たちの目の前に地獄が広がってるってのに、何もしないでいるつもりかよ、ってね……。

 そしたら――声がしたんだ!「お前の言うとおりだ。だから私は来た」って声が! 頭の中に、直接!

 すげえ光だった。眩しくて目が開けられなかったぜ。光は、教会の奥側――”救世主様”の像から出てやがったんだ。

 しばらくすると光が弱まったんで、恐る恐るそっちを見たんだ。おいアンタ、俺は一体何を見たと思う……!?

 いたんだよ。”救世主様”が!

 頭の後ろが、凄え光ってた。髪はボサボサで髭面で、ボロボロの服を着て……だけど、なんかいい匂いがして……要するに、ガキの頃から見たり聞いたりしてた、そのまんまの姿でそこに居たんだ……。

 あ?なんだアンタ、疑うってのか。そりゃアンタ、アンタは見てないからだよ! 見りゃ分かる、絶対わかる……ありゃあ、間違いなく、「本物」だった。神様に誓ってもいい。

 なんでそんなに怒ってるんだアンタ。話、続けてもいいか?

 でな、“救世主様”は言ったのさ、凄えいい声で。「死者の穏やかな眠りを妨げてはならぬ」ってな。そしたらどうなったと思う? ゾンビどもが――町の奴らのことだけどな、畜生――一斉にバタバタ倒れやがったんだ。そいつらみんな……死んでんのに、凄えいい顔してやがったぜ。

 そしたら今度は、顔なしのバケモノどもが何匹も“救世主様”に襲い掛かってきやがった! コイツはヤベエ、その場の全員が思ったね――多分、“救世主様”以外は。

「異教の異形たちよ」

 “救世主様”は全然ビビってない声で言ったんだ。

「このままこの場を去れば、危害は加えぬ」

 ……信じられるか、おい? 襲いかかってくるバケモンに向かって、「危害は加えぬ」だってよ! 

 ただやっぱり、相手はバケモンだ。そんなこと言われたって止まるわけない。まず二匹、”救世主様”に物凄い速さで爪を振るいやがった……どうなったと思う?

 跳んだんだ、”救世主様”が! 引き裂かれそうになる瞬間、後ろに、こう、ぐるっと! なんかガキの頃見た映画の、スーパーヒーローみたいに!

 ”救世主様”はそのまま何事もなかったみたいに着地すると、ため息付きながらこう言ったんだ――「そうか、では致し方あるまい」ってな。そしたら、そしたら、ああ、今思い出しても信じられねえ……生えてきたんだ、地面から。

 何がって、十字架がだよ!

 それでな、自分の背丈の倍はある高さの十字架をひょいって感じで肩に担ぐと、涙を一筋流しながら”救世主様”はこう言ったんだ。

「”天国の門”よ、開け」

 ……その後起こったことは、正直今でも信じられねえ。夢じゃないかって疑いたくなる。確かに”救世主様”はあの場にいた。それは間違いないんだ。それでも、信じられないんだ。

 十字架が、凄え勢いで変形し始めたんだ。

 まず真ん中から縦に2つ、パカっと分かれた……いや、真っ二つというよりは、「開いた」って感じだった……それで、横の棒もなんだかガチャガチャいいながら形を変えて……パカッと開いたところから銃口みたいなもんがいくつも見えて……気がついたら、十字架は弓のような銃のような、でもその2つとも微妙に違うモンになってやがったんだ。

 ”救世主様”は、涙を流しながらこう言った――「光よ」

 途端、閃光が走った。

 目も開けていられねえ光の洪水が、何本も何十本も十字架から撃ち出された。光は目の前のバケモノ二匹を手始めに、数え切れないほどいたバケモン共に襲いかかり、撃ち落としていった。

 すごかったぜ。それこそテレビでやってた映画みたいだった。光の届かねえ空高くに逃げたバケモン共もいたが、連中逃げられなかった……なんせ、光はどこまでも連中を追いかけていってたからな……アイツラが貫かれてくたばるまで。

 気がついたときには、あれだけいたバケモン共は一匹もいなくなってた。
正直、助かったと思ったそのときだ。ぱち、ぱち、ぱち、って感じで人を小馬鹿にしたみてえな拍手が聞こえてきたのは。

 やってきたのは、黒いローブを着てフードで顔をほとんど隠した、まあ見るからに「わるいまほうつかいです」って感じのやつだった。

 そっからそいつと”救世主様”はなんか話し始めた。話の中身? ああ、すまねえ。正直なんか小難しすぎて俺にはさっぱりだったし、さっき見た光景が凄すぎて全然覚えちゃいねえんだ。悪かったな。

 なんだ、すげえ落ち込んじまったな。そんなに知りたかったのか? 話の中身。でも本当に覚えてねえんだ。

 ともかく、まあ当然のように話はこじれちまったみたいだった。そしたら悪い魔法使いは何か不気味な感じの呪文? を唱え始めたんだ。

 で、信じられねえ光景、第2段だ。

 魔法使いの体が、みるみる膨らんでいった。皮膚がズタズタに破れて、中からきたねえ色の肉の塊が飛び出してきた。コウモリみたいな羽やら、鋭い爪やらが生えて……そうしているうちに、野郎の顔が、ずるりと、落ちちまったんだ。

 出来上がったのはさっきまで空を飛んでいたバケモノ……そのでかすぎる親玉だ。40メートルくらい、あったんじゃないかな? 知らねえけど。そいつは教会の屋根を突き破り、空高くへ飛び上がった。

 え? ああ、俺たちは無事だったよ。なんか綺麗な光が、落ちてくる瓦礫から守ってくれたんだ。”救世主様”がやってくれたのさ。

 それで、”救世主様”は俺たちにここを離れるように言うと、すっげえいい声で――あんな声で説教されたら、そりゃあ信じたくなるよなあ――叫んだんだ。

コルコバード!」ってな。

 ここで間髪入れずに第3段だ。信じられない光景、第3段。

 そいつはどこからともなく、光とともに飛んできた……でかい、とにかくでかい、”救世主様”の像だった。

 ”救世主様”は胸の前で十字を切った。そしたら、巨像の胸から光の……”天国への階段”が降りてきて、”救世主様”を吸い込んじまったんだ。

 そしたら――巨像がまるで、生きているみたいに、動き出しやがった。コンクリートの像が、だぜ。像と顔無しのバケモノは、ニュー・カルインの空で睨み合っていた。

 そこから先は、空中戦だ。

 どちらもあのデカさなのに、信じられねえスピードで空を飛び回り、ぶつかり合っていた。鉤爪とチョップがぶつかり合い、火花が――おかしな話だけど、俺には見えたんだ――飛び散っていた。戦いはどんどん激しくなって、まるで2つのハリケーンがぶつかり合っているみてえだった……。

 それで、どうなったかって? そんなもん、決まってるじゃねえか。

 決着はついた。空から叩き落されたのは――バケモンのほうだった。バケモンはそれでも抵抗しそうな勢いだったが、十字に交差した巨像の両手から放たれた光線を受けて、とうとう爆散しちまったんだ。

 それで……ああ、この後はできれば話したくねえんだけど、ダメか?

 そうかよ。畜生。

 決着がついた後、みんなで”救世主様”のところへ――そのときはもう巨像から降りて、バケモノが爆散した場所を見つめていた――向かったんだ。礼の一つも言うべきだとみんな思ってたからな。

 俺はその場で、情けねえ悲鳴を上げちまった。そこで黒焦げになってた死体は、俺の……親父のもんだったんだ。

 ……親父がなんでクソカルトに関わっていたのか、今となっては分からねえし知りたくもねえ。だけど、親父のせいで俺らの町が――あのクソッタレのニュー・カレインがボロボロになっちまったのは事実だ。

 俺は、そのまま町を離れちまった。

 あの町は、たしかに半分死んだような町だった。このまま行けば、それが半分じゃなくなっちまうのは目に見えていた。確かにそうだ。

 けど、止めを刺されるにはまだ早かったんじゃねえか。もっと、なんとかできたこともあったんじゃねえか。いや、多分あったはずなんだ……その可能性も、親父のせいで吹っ飛んじまった。親父の……せいで……!

 は?
 何言ってんだアンタ?

 ……マジかよ。

 親父は「町のために」、あんなクソカルトを呼び寄せたってのか? バケモノの力を借りてまで、死にかけの町をなんとかしようと思って……それで、あんなことを?

 だけどバケモノ共に、アイツラの「カミサマ」に騙されて、取り込まれて……それで、町をあんな風にしちまっただと、アイツラと同じバケモンになっちまったんだと。

 アンタは、そう、言いたいのか。

 マジかよ。マジかよ。マジかよ!

 いや。もう、マジかどうかなんてどうでもいいな。思いがどうだったとしても、ニュー・カレインがぼろぼろになっちまったって事実は変わらねえ。要は親父のやり方が間違ってたんだ。で、それにふさわしい罰を受けたってわけだ――”救世主様”直々に、な。死に方としちゃあ、悪くない気がするぜ。

 さて、俺の話はここでおしまいだ……アンタ、感謝するぜ。俺は親父がやらかしたことの重さに町を逃げ出して、こんなところで飲んだくれてたんだが、なんというか、酔いが覚めたっつーか、目に張り付いてた魚のウロコが落ちたっつーか、まあとにかく頭がスッキリしてきやがったぜ。

 俺がやるべきことは、こんなところで飲んだくれていることじゃあねえ。

 町に戻るよ。今更戻って何になるか、何ができるかは分からねえが、親父のやらかしたことから逃げないようにしようと思う。できれば、町を元通りにしてやりたいな……何年かかるか分からねえが。

 あ、けど、酒は約束通り頂いていくぜ。へへ、ありがとうな。

 そう言えばアンタの名前を聞いてなかったな。これもなにかの縁だ、教えてくれよ。

 あん? ピーター? ペーター? へえ、いい名前じゃねえか。ちょっとありきたりだけどな。

 んじゃあ、縁があればまたどこかで……あ、そうだ。

メリー・クリスマス」! 

 ちょっと早いか。

【完】 

◇ ◇ ◇ ◇

この作品は、以下の企画に飛び入り参加させていただいたものです。

また、参考資料として以下の記事に目を通されると良いのではないかと思います。

最後に、この作品は「逆噴射小説大賞2019」に投稿した拙作を下敷きにして書かれております。よろしければこちらもどうぞ。【PR】

◇いじょうです◇

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タイラダでん
そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ