白磁のアイアンメイデン外伝 タイーラとデンダ〈外伝〉 #AKDBC #ppslgr
「いやー、良かったよ『全プリキュア大投票』」
「ちぇっ、俺はまだ見てないってのに」
胡乱の香り漂う店内に、間の抜けた声が響き渡った。
超巨大自由売買商業施設”Note”。多くの人で賑わうキラキラした大通りから少し入り込んだ裏通りに、ひっそりと存在する店がある。
西部劇風の内装を、数え切れぬほどの弾痕で飾り立てた、真の男、または女のための店。その名を「バー・メキシコ」という。
その店内で、二人の男がCORONA片手にくだを巻いていた。
「残念ながら僕のイチオシ『GO!プリンセスプリキュア』は作品部門7位……でも、僕はプリキュアに関しては『箱推し』ってやつだしね。ん? 『DD』だっけ? まあ良いや。いやーそれにしても素晴らしい番組でした。これなら受信料を払う甲斐があるってもんです」
灰色の髪、灰色の上品なスーツに身を包み、微かに紅い顔で語り続ける男、彼の名はT・D。創作者でありながらソウルアバターなる巨大ロボットを操る、通称「パルプスリンガーズ」の一人である。
「だから俺は見てないって言ってんだろ! ……ちなみに『魔法つかいプリキュア』は何位だった?」
「10位」
「はあーーーーーーーーーーー!?!?!?! ありえねーだろ~~~~~!!!?!!?!?!」
T・Dの向かい、店中に響き渡る声で喚き立てる男は、その名をA・Kという。黒い馬掛(男性用の中国衣装)と縁のない丸い帽子、清末頃らしい装いの中に屈強な体を隠す、そんな彼もパルプスリンガーである。
優男風のT・Dと彼は全くもって対照的であったが、彼らには一つの共通点があった。すなわち、「女児向けアニメをけっこう本気で愛している」という一点だ。(A・Kは「アイカツ!」派ではあったが)
「うるさいぞいA・K。静かにせんか」
近くの席で愛用の斧を手入れしていたJ・Qがボソリとつぶやく。首をすくめるA・K。
「こえーJ・Qこえー。それにしても10位かー。もうちょっと上かと思ってたぜ」
「ランク外じゃないからよかったじゃないA・K。そもそもこの企画は作品間の優劣をつけるためじゃなく、ファンのみんなの熱い思いをぶつけ合おうって趣旨で実施されたものですからね。結果見て落ち込んだりサツバツとしちゃあいけない」
「そんなことわかってるけどよー。でもやっぱ推しには上位に食い込んでもらいたいってのも人情だろー?」
CORONAをあおりながらA・Kが愚痴る。
「そりゃわかるけどね……ここはクールに構え」
KA-BOOOOOOOOOOOM!!!!!!!
衝撃、破壊、爆発!
「なんだーーーーー!?!?!?」
「ファーーーーーーーック!?!?!?」
非日常性の坩堝にて、胡乱の巣窟「バー・メキシコ」。ここでは確かに小規模爆発や、ふとしたはずみで引き起こされる銃撃戦程度は日常茶飯事である。
だが今回は、少々度が過ぎていた。(傍点早く実装して)
幸いなことに客は少ない時間帯であり、なおかつ全員が手練のパルプスリンガーたちであったため、人的被害は皆無――店は見事に半壊していたが。
とっさにふせて難を逃れていたバーのマスターが、無表情のままショットガン片手に立ち上がる。
「な、何が起こったんじゃ……?」
すぐさま体勢を整えたJ・Qは、両手の斧を数度振るった。舞い上がる多量のチリとホコリが風圧で吹き飛び、視界が晴れる。
「……は?」
J・Qの目の前に、超巨大トラックが鎮座していた。
Pre-cure! ふたりはPre-cure!
未然を防ぎ、ハッピーなフューチャー
ふたりはPre-cure!
Pre-cure! Two guys are Pre-cure(Pre-cure!)
Pre-cure! Two guys are Pre-cure(Pre-cure!)
白磁のアイアンメイデン外伝
タイーラとデンダ〈外伝〉
「ふたりはPre-cure」
◇ ◇ ◇ ◇
「ひえーーーーー!???!!?」「ウワーーーーーーッ!??」
浮遊。落下。激突。暗転。
◇ ◇ ◇ ◇
――目を覚ましたT・Dは、自分が地面に横たわっていることに気づいた。
すぐさま体の状態を確認する。骨、問題なし。腱、問題なし。視線を空へ。目に入ってくるのは生い茂る森の木々。かなりの高所から落ちてきた割には軽症で済んだのは、大量の枝葉が衝撃をやわらげてくれたおかげか。
落ちてきた? T・Dの心に疑問が浮かぶ。自分は先程までバーでCORONAを引っ掛けていたではないか。一体、どこから落ちたというのか?
すぐさま疑問を打ち消す。まずは状況把握が先だろう。
視線を横へ。自分と同じ様に地面に横たわるA・Kの姿を確認する。彼の意識はまだ戻ってないらしく、しきりにうわ言めいた言葉を発していた。
「ここは……どこだろう……?」
T・Dは記憶をたぐる。バー・メキシコでプリキュア談義に花を咲かせていたところまでは覚えている。そのあとは? 確か、いきなり何かが突っ込んできて――
「ゴエーケッホ!ウェーケホッ!タアホ、ベンデホォー!ブェエエエーエスホール!!クホ、クホ!シンオオクボォ!」
「あ、起きた」
◇ ◇ ◇ ◇
「一体、何が起きたっていうんだ」「さっぱりわからん」
巨大トラックを前に腕を組み、思案顔を見せるのはR・V。生粋のパルプスリンガーであり、腕利きのトラブルハンターでもある。
「このデカブツがいきなり突っ込んできおったのよ。それで」
「気がついたらA・KとT・Dが姿を消していたってわけか」
R・Vはトラックの運転席を見る。人の気配はない。J・Qいわく、「何者かが逃げ出したような様子もなかった」。ということは何か? 最初から無人だとでも?
続けてトラックのコンテナ部分、そこに描かれている印象的な紋様に目をやる。上下逆さまの歪んだ五芒星が、これまた歪んだ円の中に描かれているという代物だ。赤黒いラインが、見るものの不快感を煽ってくる。
「なんだこのマーク、見たことあるかJ・Q」「いや、ないね」
「……チャーチ・オブ・スター・イリュージョン」
突如後方から聞こえてきた声に、振り向くR・V。
そこにいたのは、白衣を着た中性的な顔立ちの青年。みつあみにまとめた長い黒髪に丸メガネ。瞳に浮かぶ確かな知性の光。
彼の名はM・T。彼もまた、パルプスリンガーの一人だ。
「チャー……ハン……なんだって?」
「チャーチ・オブ・スター・イリュージョン。『星の創幻教会』。通称CSI」
「なんか科学捜査が得意そうな名前じゃね」
「最近勢力を伸ばしつつある新興宗教。異界の神を信奉し、その見返りに『創幻力』を得よう、というのが教義」
J・Qの軽口に表情も変えず、M・Tは淡々と語る。
「『創幻力』?」
「簡単に言えば、世界を思うままに産み出し、思うままに干渉し操る異能」
「……簡単に言っちゃいけない能力じゃろソレ」
「ようするに、『君もカミサマになれます』ってことか」
R・VとJ・Qが、シンクロしたように腕組みをし、渋面を作る。
「カルト怖えな」「まったく」
「もちろん、簡単に手に入れられる能力じゃない。だから、彼らは自らの信じるに従い、精力的に事を為そうとする」
「何しようってんだ。どうせろくなことじゃないんだろうが」
「彼らの教義はこう。『大いなる恩寵には、ふさわしき供物を。世界を紡ぐ力を得るには、世界を紡ぐ者たちを。世界の扉を開き、神の御下へ送らしめよ』」
「……つまり?」
「『創作に励む人々を、異世界に送りまくれ』」
◇ ◇ ◇ ◇
「痛え! 体中が痛え! ってか、どこだここ? おっそこにいるのはT・Dか? どうなってんだなんなんだこりゃ!? ……っていうか、お前何やってんの?」
A・Kの問いを無視して、T・Dはしきりに鼻を鳴らしていた。
「いやね……自分でも変だとは思うんだけど……知ってる匂いがするんだ」
「匂い……って、なんのだよ」
「アリアケ・ノリ」
「は? 何だそれ」
T・Dは遠くに目をやった。遥か彼方、森の木々の隙間に特徴的な建造物が見える。
「海苔だよノリ。SAGA県の名産品。知らないの? ああ、そしてあれはSAGA城か」
「……いやまじでなんなんだよ」
T・Dの顔に笑みが浮かぶ。だがその笑みは、一般的には「苦笑」と呼ばれるたぐいのものであった。
「ああ、わかってきたよA・K。懐かしい匂い。懐かしい景色。でも、こんな大森林はそこには存在しない。つまりここはSAGAであってSAGAではない」
「……結論言ってくれ。まわりくどい言い方は嫌いなんだよ」
「正直、僕もよくわかっていない、信じられないんだ。でもそうとしか考えられない」
「だーかーら! 結! 論!」
T・Dが前方を指差した。かすかに震える指先が指し示す先――粗末な立て看板。そこには日本語らしき文字で、こう記されていた。
■■■おいでませサッガの森 よかとこばい■■■
「ここはサッガの森。僕のパルプ小説の舞台だ」
「は?」
◇ ◇ ◇ ◇
よく分かる方言講座 よかとこばい……「良いところですよ」
◇ ◇ ◇ ◇
「「は?」」
一瞬、何を言われたのかわからず呆然とするR・VとJ・Q。だが、そこは手練のパルプスリンガーたちである。数多の修羅場をくぐり抜けて培われた精神的タフネスを駆使し、即座に自分を取り戻す。
「いや、いやいやちょっとまって。『世界を紡ぐ者』って、それ物書きのことじゃないだろー!?」
「だいたい、ナンデ創作者を異世界に送るとそんなゴイスーな力が手に入っちゃうの?」
「……カルトに一般の理屈は通用しない」「「うわあ……」」
◇ ◇ ◇ ◇
「T・D……今なんつった?」
「『ここはサッガの森。僕のパルプ小説の舞台だ』」
「マジか……信じらんねえぜ」「僕もだ」
キョロキョロとあたりを見回すA・K。
「まあ来ちまったもんはしょうがねえか! おい王子、どうやったら元の世界に戻れると思う?」
「私に聞かれても困るよ」
「ゲーー!? き、切り替え早いよ! もうちょっとこう、なんかないの!? そしていつの間にいたのエルフのおうじ!?」
A・Kはわざとらしく息を吐くと、これまたわざとらしく肩をすくめてみせた。
「生憎とだなT・D。俺、なんか知らないけどここ最近こんなことに巻き込まれてばっかりなんだぜ。正直慣れちまった。パルプの舞台と俺らの世界がつながるってのも、ついこの間、似たようなことがあったばかりだしな」
「ということだそうだ」
A・Kの横に立つ美形のエルフは、通称「エルフのおうじ」。A・Kがその類まれなるイマジネーションで産み出したイマジナリ・フレンドである。出自がそうであるとは言え、彼は確固とした自我を持つ一個体であり、何度もA・Kの窮地を救ってきた頼りになる戦士なのだ。
なぜそんな存在を生み出せるのか、誰にもわからない。A・K自身にすら。
「あー、そう言えばそうだったね……大変だったねA・K」
「いやあ、人気者はツライぜ!」
◇ ◇ ◇ ◇
「あー。と、いうことはつまり、だ」
R・Vが目の前のトラック、そのコンテナを2回ノックしながら言う。
「そのカルト連中がよこしたこのデカブツに轢かれて、二人は異世界に飛ばされたってことか」
「轢ーーッ! ってやつだね!」「「うわあっ!?」」
「いやいや、ごめんごめん」「……O・Dか。やめてくれよ心臓に悪い」
O・Dと呼ばれたのは、急にトラックの運転席から顔を出した赤ら顔の男である。腕利きのパルプスリンガーたちに、出現まで一切の気配を悟らせなかったほどの手練であり――
「いやね、『A』が飛ばされた二人の気配を捉えたんで、とりあいず伝えておこうと思って」
――「F」「A」「Z」「GT」などの各個人が合わさり一人の「O・D」を形作る……という理解が正しいかどうかすら定かではない、存在自体が謎そのもののパルプスリンガーであった。
「それは本当か。で、今彼らは一体どこに?」
「サッガの森。T・Dのパルプのなか」
「「は?」」
◇ ◇ ◇ ◇
「ここが本当に『サッガの森』だとすれば、元の世界に戻る方法がわかるかもしれない」
とりあえず人がいそうな場所に出てみては、というエルフの王子の提案を受けて歩きながら、T・Dが自信なさげにつぶやいた。
「マジか。さすがは作者だぜ。で、どうすんだ」
「この『サッガの森』は僕がプリキュア絡みの話を書くためだけに作り上げた世界だ。作中で無理やり登場人物をプリキュアに変身させたりもした」
「ああ、読んだぜそれ」「ありがとう」
T・Dが自分の右の手のひらを見つめながら言う。
「つまり、この世界はプリキュア的な世界観で出来ていると言える。そして、例えば劇場版なんかでは顕著だけれども、プリキュアたちが異世界に行くことはよくあることなんだ」
「俺は最近のしか見たことないからわかんね―が、まあT・Dがそういうならそうなんだろうな」
首をひねるA・Kに、T・Dは笑いながら答えた。
「何言ってるんだい。『魔法つかいプリキュア』なんて、まさに2つの世界が魔法で繋がる話じゃないか」
「おっとそうだった。んで、結局元の世界に戻るにはどうすんだよ。まさか『キュアップ・ラパパ』と唱えるべし、なんて言わね―だろうな」
まめちしき 『キュアップ・ラパパ』……『魔法つかいプリキュア』にて多用される魔法の呪文。
「いや、僕は別に世界観を『まほプリ』に合わせたわけじゃないから、それだけでは無理じゃないかな。プリキュアたちが元の世界に戻るタイミングは全作共通でたった一つ――つまり、『作中で起きた問題が解決したとき』だね」
そのときである。
KA-BOOOOOOOOOOOM!!!!!!!
彼らの前方、およそ100メートルほど先にそびえる和風の城塞――SAGA城の見事な天守閣、その上半分が吹き飛んだ。
「ほらやっぱり、トラブル発生だ!」
「ビンゴじゃねーか! あれを解決すれば戻れるんだな!?」
「確証はないよ!」
「そうだろうな! まあ、他にアイデア思いつかないし、行ってみるとしようぜ!」
二人は弾かれたように駆け出す。上半身は微動だにせず、二本の脚だけが超高速で稼働する独特のフォームだ。たちまち彼らは色付きの風となる。左右の視界が流れるように後方へと飛び去っていく。エルフの王子は、彼らの背を守るかのように後を付いてくる。
「おっと、何だアイツら?」
叫ぶA・Kの前方から、奇妙な生き物たちが駆けてきていた。
巨大な目玉が特徴的な魚らしきもの、陶器の壷に入った猫らしきもの、名物の菓子を模したものなど、多種多様である。
可愛らしい外見。本来は笑顔を振りまき、見るものに同じく笑顔をもたらすような存在なのだろう。だが今は皆、一様に恐怖に顔を歪め、目に涙を浮かべていた。
「プリキュアにはつきものの、妖精たちだね! お城から逃げてきているんだ」
「できの悪い『ゆるキャラ』にしか見えねーぜ!」
妖精たちとすれ違いつつ、一路SAGA城を目指す。二人の目に、真上に吹き飛んだ城の上半分が重力にひかれて落ちる様子が映る。
巨大質量の落下は、当然のように大破壊とそれに伴う轟音を引き起こす。そんな中、巻き上げられた粉塵の向こう側、巨大なシルエットが浮かび上がっていたのを二人は察知する。
「元凶発見、なんかでけえぞオイ!」
「だけど、アレを倒せば元の世界に戻れる、はずだ」
「よっしゃやってやるぜ、来い! 『グラディエーター』!」
急ブレーキをかけて止まりつつ、A・Kが自らの操るソウル・アバターを呼び出す!
――静寂。
「あ、あれ? どうした? ナンデ反応しない?」
A・Kは繰り返し何度も召喚を試みるが、結果は同じ――彼の駆る巨大人形兵器は、古代ローマ剣闘士めいたその威容を現すことはなかった。
「あー……やっぱりか」
高速Uターンして戻ってきたT・Dが苦い顔をつくる。
「やっぱりってなんだよT・D! なんか知ってるなら早く教えてくれよ!」
頭を掻くT・D。
「いやね、実は僕、さっきから炎を召喚しようとしてたんだけど、全くうまくいかないんだ」
T・Dは超自然の炎を意のままに操り、敵を焼き尽くす。あまり自分から厄介事に首を突っ込むタイプではない男であったが、いざ闘争となれば彼は一切容赦をせず力を行使してきた――その力を使えぬと言う。
「俺達の力が封じられてるってことかよ!?」
「いや、違う。さっきも言ったけど、ここはプリキュアの世界観で形作られている。そのルールの一つのせいだと思う。『全プリキュア大投票』でも触れられていただろう?」
「だから、俺はまだ見てないんだって! なんだよそのルールって!?」
「『プリキュアは、敵を倒すためには戦わない』」
「は~~~~~!?!?!? だから能力もソウル・アバターもだめだってのかよ。いやいや、っていうかそもそも俺たちプリキュアじゃないじゃん!!!! それでもだめなのかよ!?」
「……全く、我ながら面倒くさい世界をつくっちゃったなあ」
「他人事みたいに言ってんなオイ!」
「それぐらいにして、ふたりともあれを見給え」
ただ一人冷静さを保つエルフの王子が示した先には、崩壊したSAGA城。その残骸を包んでいた粉塵が晴れる。敵が、その姿を現しつつあった。
「あー、そうだよな……T・Dの世界だもんなあ」
「えーと、なんかごめん」
現れたのは、全身を金色に光らせ、太い二本脚で直立し、両の腕には恐るべきカギ爪を備え、頭には二本の角、大きく開いた口には鋭い牙が二列に並ぶ、世にも恐るべき姿――端的に言えば、巨大怪獣であった。
「……で、どうやって倒すんだよアレ」
「……どうしよう」
「!! まずいぞ、君たち!」
エルフの王子が叫ぶ。見ると、巨大怪獣はこちらに向け、大きく口を開けていた。その口腔内に、まばゆい光が集まっていく。
「や、やべえやべえやべえ!!!」
光が、放たれた。
矢のようにまっすぐに、しかし矢の数百倍の速さで到達した光は、二人のパルスリンガーのはるか後方に着弾――サッガの森の大地をえぐり、爆散せしめた。
「あ……!」
二人は見た。巨大な爆炎、その中で熱と炎に巻きあげられる無数の姿を。
二人は聞いた。吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた痛みがもたらす、恐怖と絶望の叫びを。
巨大怪獣は正確に自らの獲物――逃げ出した妖精たちに、致命的な一発を叩き込んだのであった。
「キュオーーーーーーーーーーーンンンン!!!」
怪獣は満足げな咆哮を上げた。自らの勝利を確信してのことである。
そのことが二人の戦士の魂に火をつけたことなど、知る由もなかった。
「……許せるかい、A・K」
「……許せねえな、T・D。けど、どうすればいい?」
「そうだね……実は一つ、思いついたことがある」
「何だ、早く言えよ」
「ここはプリキュアの世界。プリキュアのルールで動いている。じゃあ、その世界観の中で一番強いのは、いったいなんだと思う? 僕らがその力を手に入れればいい」
T・Dの言いたいことを察したA・Kが、顔を青くする。
「……おい、まさか……嘘だろ?」
「僕はいつでも本気だよ――僕ら二人で、プリキュアになればいいんだ」
◇ ◇ ◇ ◇
「なるほど……事情はなんとなくわかった。まあ、あの二人なら大丈夫だろう」
R・Vが首をコキコキ鳴らすと、愛用の刀を手にした。
「じゃあ、行くとするか」
「行くって、どこに?」
「決まってる……M・T、お前のことだからその半チャーハン汁なし担々麺セットだかなんだかの本拠地つかんでるんだろ?」
「ここから東に20Kmほど離れた廃教会、その地下施設」
M・Tは当然の様に返事を返す。
「ソウルアバターなら大した距離じゃないな。んじゃいってくる」
「R・V」
「なんだJ・Q。まさか止めるなんて言わないよな。いかれたカルト野郎どもが、事もあろうに仲間にちょっかい出してきたんだ」
刀を肩に担ぐ。
「そんなバカどもには、教育が必要だろ?」
「ヒヒヒ……止めるわけない」
ババ……老婆のような笑みを浮かべるJ・Q。
「ワシも連れてけ」
◇ ◇ ◇ ◇
「いやいやいやいや無理無理無理無理! む~り~! ムリダヨー!!!!!」
「でも、他に方法はないんだA・K。腹をくくってくれないか」
「いや、そもそも俺たち成人男子じゃん! なんでプリキュアになれると思うわけ?」
T・Dの顔に笑みが浮かぶ。それは「苦笑」ではなく、何かを確信するがゆえの笑み。
「……『HUGっと!プリキュア』42話、そして48話」
「急に何言い出すの!?」
「『HUGっと!プリキュア』はねA・K。『なんでもできる! なんでもなれる! 輝く未来を抱きしめて!』がキャッチコピーであり、作品を貫くテーマなんだ」
「プ、プリキュア語りは後でやれよ!」
T・Dは止まらない。早口で語り続ける。
「そのテーマを表現するために、制作陣は何をやったと思う? 42話では準レギュラーの男の子を、そして最終盤の48話では作中の登場人物を全てプリキュアに変身させたんだ。男も女も、老いも若きも、分け隔てなくね」
「まじかよ……いかれてるぜ」
「そうやって叩く人も多かったけれどね……僕は感動したよ。作品が訴えてきたことを貫き通すために、ここまでやるのか、とね。だからわかるんだ」
T・DはA・Kを見た。真正面から。真っ直ぐに。
「なれる。僕たちならプリキュアにきっとなれる」
「いや、その理屈はよくわからないな」
「冷静なツッコミありがとうエルフの王子! まあでも他に方法はないんだ! ごちゃごちゃ言ってないでやるよA・K!」
「だからなんでだよ! そうかお前プリキュアになってみたいだけだろ!?」
「正直否定はしない!」
「いやそこは否定しろよ!!!」
「急いで!」
「ファック……! だいたい変身って、実際どうするつもりなんだよ!?」
T・Dはエルフの王子を見た。その視線から、王子は彼の意思を悟る。
「わかった。やってみよう。うまくいくと良いが」
「頼んだよ、エルフの王子――いや、エルフのようせいエルフン!」
BOMB! 愉快な爆発音とともに王子の体が煙に包まれる――煙が晴れた後には、二頭身にデフォルメされたエルフの王子が宙を漂っている姿があった。
「王子ーーーーー!?!?!?」
「ふむ……プリキュアの変身には妖精がつきものなんだろう? 今回は私がその役を務めさせてもらおう。よろしく頼むルフ」
「語尾ーーーーー!?!?!?」
「よし、準備は整った。さあ」
手を差し出すT・D。その手には迷いが一切なかった。それは信頼そのものだった。A・Kなら必ず応えてくれる、という信頼。
「……ち、チクショウ」
そしてA・Kは。
「もう、どうにでもなれってんだ!」
そうやって差し伸ばされた手を、払いのけるような男ではなかった。
手を繋ぐ二人。そこにエルフの王子――いや、エルフンも加わる。三人で手をつなぎ合い、輪になる。
希望、夢、愛、勇気、友情――なんかそんな感じのものが、彼らに力強く流れ込む。三人の体を、まばゆい光が包んでいく。
「プリキュア!」
いつしか彼らは、力の限り叫ぶ。誰に教えられたものでもない。事前に打ち合わせしたのでもない。ただ、そうせねばならないとわかっていたのだ。
「ハッピー・バースデー・トゥー・ユー!!!」
akuzumeさん、お誕生日おめでとうございます!
閃光。地上の太陽。世界創世の光。神の威光。どの様に言葉を尽くしても、その輝きを言い表すことは出来なかっただろう。
世界を焼き尽くすような、白い闇が晴れたとき。
この世のカワイイを凝縮したような二人の少女戦士が誕生していた。
「ふたりの魔拳! キュアカンフー!」
「ふたりの野望! キュアローマ!」
「「ふたりはPre-cure!!!」」
「みんなをいじめる、悪いやつら!」
「貴様らに、明日は二度と来ないと知れ!」
「……」「……」
「Oh……マジか……」「できたね……」
「キュオーーーーーーーーーーーンンンン!!!」
巨大怪獣が咆哮を上げた――怪獣はその野生の勘で悟ったのだ。今目の前で生まれたばかりのちっぽけな二人組が。矮小なはずの存在が。
己が全存在を賭けて戦わなくてはならない、天敵であることを。
故に初撃は全力。二人に向け、口を開く。口腔の奥、光が集積されていく。必殺のブレス。まともに喰らえばチリ一つ残るまい。
だが必殺の閃光を放とうとする瞬間、怪獣は見た。否、見えなかった。
二人の戦士が一瞬消え――次の瞬間、目の前に現れたのを。
「そんなもの!」「打たせるかよ!」
プリキュアの跳躍力を持ってすれば、彼我の距離など無きに等しいのだ。
廃ビル解体鉄球が叩きつけられるかのような音を立て、キュアカンフーの蹴り上げとキュアローマのアッパーカットが同時に怪獣の下アゴに叩き込まれる。強制的に閉ざされた口の中で、光が弾けて消えた。
「「はああああああーーーーーーーーーッッッ!!!!」」
気合とともにふたりは打撃を振り抜く! 彼ら――否、彼女らの何十倍もの体躯を誇る怪獣が宙に浮き、そのまま吹き飛ぶ!
「追撃だローマ!」「オウわかってるぜカンフー!」
無様に地面に倒れ込む怪獣。その皮膚が、怪しくうごめく。
(気をつけろ、なにかしかけてくるルフ)
脳内に響くエルフンの声! 彼は妖精なので安全なところで観戦中なのだ!
怪獣のうごめく皮膚がところどころ裂け、粘液に包まれた有翼竜が次々と這い出してくる。その様はまるで産まれ落ちる赤子のよう。有翼竜たちは身震いして粘液を体から落とすと、翼を広げ飛び立つ――母の敵を食い殺すために。
「なんだ、コイツら!」
「どうやら、あの怪獣が産み出したようだね!」
未だ空中にある二人に、無数の有翼竜が襲いかかった。ふたりは拳で、蹴りで有翼竜たちを迎え撃つ。攻撃の反動で跳び、竜の牙や爪をかわし続け、さらなる猛撃を叩き込み続ける。
だが、数限りない翼竜たちの猛攻は途切れなく続く。その対処に追われていたプリキュアたちは、足元で地獄の蓋が開きつつあるのに気づけなかった。
突然のまばゆい光。そちらに目をやるキュアカンフー。彼女の視界に、地面に横たわったままの怪獣の姿が映る。こちらに向けて大きく開かれた怪獣の口。光の渦。
「しまっ……!」
全てを焼き尽くす光の濁流が、プリキュアたちを飲み込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
(ーか)
(――うぶか)
(―――大丈夫ルフかふたりとも! 返事をしたまえルフ!)
――脳内に流れ込んでくるエルフンの声で目を覚ましたキュアカンフーは、自分が地面に横たわっていることに気づいた。
すぐさま体の状態を確認する。骨、少々問題あり。肋骨が数本、他にもいくらかやられたようだ。腱、これも数カ所おかしい所あり。全身を激しい痛みが襲っている。結論、先程までのような激しい戦いは難しい。
真横に顔を向ける。キュアローマも同じ様に横たわり、時々ピクピクと痙攣している。生命はあるようだが、気を失っているらしい。ときおりうなされているような声を発していた。
キュアカンフーは、否、中の人であるT・Dはため息を付いた。やれやれ、なんで僕らは今こんな目にあってるんだろうか。なんか悪いことしたのかな僕ら。僕らはただ、酒場でCORONA片手にプリキュアの話をしていただけなのに。
それとも、もしやそれこそが悪いことなのだろうか? いい大人が、幼女向けアニメに夢中になっていること、その事自体が罪だとでも言うのか。
「冗談じゃない……誰が何を楽しもうと勝手だろ……」
「ギャッホ!プレーッボォ!カクゥゴォ!ベッホ、ベッホ、ベンデホー!ファアーッギ、ンホットォー!」
「あ、起きた」
「ゲホ、ゲホ、クッホ……ああちくしょう、ひどい目にあったぜ」
「ローマ、大丈夫かい? ちなみに僕は立ち上がれないっぽい」
「気がついた直後に気が滅入る報告すんなよ……こっちも同じようなもんだ」
「ヤバいね」
「ヤバいな……こんなとき、プリキュアならどうするんだ? どうやってピンチを切り抜ける?」
キュアカンフーは空を見た。雲ひとつない青空が広がっていた。カンフーのキュア視力(作者註:ニンジャ視力のようなものです)は、その向こうに広がる星空までを捉えていた。星空。無数に輝く、ピンクの光。
ああ、そうか。
「それはもちろん、たくさんの小さな子どもたちと、少々の大きなお友達が力を貸してくれるんだ。劇場版では、ピンチの場面で妖精たちが映画を見ている人々に呼びかけるのさ。ミラクルライトを一斉に振って、プリキュアたちを応援してくれってね。その光が、プリキュアたちの力になるんだよ」
(なるほどルフ)
「……エルフン?」
(ならばその役目、わたしにまかせてもらおうルフ!)
◇ ◇ ◇ ◇
――か?
――るルフか?
―――私の声が聞こえるルフか?
――ふむ、どうやらちゃんと届いているようだルフ。
――どうしたルフ? 随分驚いているようだルフ。まあそれもしかたあるまいルフ。まさかこの話を読んでいる君にむかって、登場人物である私が話しかけてくるなど思いもよらないことだろうからルフな。
――いったいどうやったのかだってルフ? おいおい、ここまで読んでくれているならば君ならば当然わかっているだろうルフ……今はそんな事を気にしている場合ではない、ぶっちゃけありえないレベルの緊急事態だってことをルフ。
――そして、君の手元を見るが良いルフ。
――気づいたルフ? もうすでに、君の手にミラクルライトが握られているはずルフ。
――さあ、スイッチを入れ、希望の光を灯せルフ! 声の限り、画面に向かって応援するんだルフ!
――共に叫ぶルフ! 「プリキュアー! がんばれー!!」と!
◆◆◆応援してください◆◆◆
◇ ◇ ◇ ◇
「これは……!」「ファック!? なんだおい!?」
二人の体を、ピンクの光が包んでいく。
「な、なんか温かいぜ、まるでこう、陽の光を浴びているみたいだ」
「……! 体が動く……傷も治って……」
ピンクの光が、二人を癒やしていく。ボロボロになっていたコスチュームも、元のカワイイ姿を取り戻していく。
元の姿に戻る? 否、それどころか――ピンクの光が弾けて消える。そこに立っていたのはカワイイとカッコイイを足して5億倍した、新しき姿。
「うお! なんかかっこよくなってるじゃん!」
「劇場版限定、パワーアップスタイルだね!」
そういうとキュアカンフー、否、キュアカンフー・スリンガースタイルは、こちらのほうに顔を向けた。
「みんな! 応援ありがとう!」
「……誰に向かってしゃべってんだカンフー」
◆◆◆応援ありがとうございました◆◆◆
「よっしゃあ! こうなったらこっちのもんだ、そういうことだろカンフー!」
「そのとおり、ここからクライマックスだ!」
すでに立ち上がっていた巨大怪獣が、また口を開く。集積していく光の渦。生き残りの有翼竜たちも、一斉にプリキュアたちに向かって殺到していく。窮地は未だ継続中だ。
しかし。
「クライマックスってことは……アレか?」
キュアローマ・スリンガースタイルがニヤリと笑う。
「そのとおり、必殺の浄化技を打ち込む時間だ。70分映画の60分すぎぐらいだね」
キュアカンフー・SSも笑い返す。
彼女たちは確信していた。みんなの思いを受け取った自分たちが、プリキュアが負けるわけがないと。どちらからともなく、固く手を握りあう。
「「プリキュア!!!」」
握らない方の手を、真っ直ぐ、倒すべき――いや違う、プリキュアは敵を倒すためには戦わない――浄化する相手たちへと向ける。
「「スター・フレンズ・オンパレード!!!」」
二人の両手から放たれたのは、浄化の光。煌く星やきらめくハートを伴いながら捻じくれた軌跡を描く、虹色の大旋風。
荒れ狂う七色の極光は、小なる翼竜にも大なる怪竜にも一切の酌量なく、触れる全てを巻き込みながら――天へと、昇っていった。
◇ ◇ ◇ ◇
「きゅおーーーん」
「で、なにか? このちっちゃいのがさっきのカイジュー様だってのか?」
「浄化の光によって、元の姿を取り戻したんだね」
ぬいぐるみのような姿になった元怪獣を撫で回しながらT・Dは答えた。すでに二人とも、元の姿を取り戻している。
「お……この感触は……うーむ、これは……なかなか……モチモチとして……」
「……ああそうだ、ありがとな王子。お前のおかげで助かったよ」
少しずつ息が荒くなっていくT・Dを軽く無視して、A・Kはこれまた元の姿を取り戻したエルフの王子に語りかけた。
「なに、今回の私は妖精役。その務めを果たしただけさ。そんなことより」
「なんだよ……おおっ?」
三人の体に蛍のような、柔らかな光の球がまとわりついてきた。光球は次第に数を増し、彼らの体を包み込んでいく。やがて完全に光に包まれた彼らの体は宙に浮き始めた。
「……どうやら、帰る時間のようだね」
「ようやくかよ……まったく、ひどい目にあったぜ」
「きゅおおおーーーん。きゅおおおーーーん」
「ん? どうしたんだね怪獣くん」
見ると、元怪獣が一生懸命エルフの王子に語りかけていた。
「きゅおおおーーーん。きゅおおおーーーん」
「……なるほど、そうだったのか」
「おいおい王子~、おまえカイジューの言葉がわかるのかよ~」
軽口半分でそう声をかけたA・Kは、王子の深刻な表情にただ事ではない何かを読み取る。
「どうした王子。あいつはなんて言ってたんだ」
「怪獣くんのことだがね。どうも最初、君たちがこの世界に飛ばされた直後は、他の妖精たちと一緒に君たちを助けようとしていたらしい」
エルフの王子は端正な顔に影を浮かべながら言葉を続ける。
「だが、君らと一緒に飛ばされてきていたらしいある石像があまりに恐ろしくて、まずはそれを一刻も早く君たちから引き離さなければならないと思ったらしい。君たちを、森の中に放置してまでもね」
空中に浮かんだ彼らは、高く高く、一直線に空へ。遥か下方では、妖精たちがみんなして手を振りながら三人を見送っていた。
「石像……?」
「彼らはそれをSAGA城に持ち込んだ。そしてその後何が起こったか……それはもう知っているだろう?」
話を聞いた二人の顔に影が差す。
「そいつはマジで、ムカつく話だな」
「王子、その石像になにか手がかりはなかったのかい。こんな胸糞悪いことに人を巻き込んだ奴等の手がかりは。なんでもいいんだ」
「石像のモチーフは、タコだかイカだかドラゴンだかわからない姿をしていたらしい。台座には妙なマーク……歪んだ円の中に、上下逆さまの五芒星が描かれていたそうだ」
三人の上空には巨大な黒い穴がぽっかりと口を開けていた。あの穴を通れば、元の世界に帰れるということなのだろう。
「知ってるかい、A・K」
「いや、知らねえな……だけど」
そのときA・Kの顔に浮かんだのは戦士の、否、狩猟者の表情だ。
「落とし前は、きっちりつけてやるぜ」
「……そうだね」
T・Dの顔にも同じ表情が浮かぶ。
「なめられるのは、趣味じゃない」
◇ ◇ ◇ ◇
「お! 帰ってきてたのか二人とも」
「ヒヒヒ……おかえり」
血と硝煙の匂いを全身から漂わせて「バー・メキシコ」に帰還したR・VとJ・Qが目にしたのは、せっせと店の後片付けを手伝っているA・KとT・Dの姿であった。
「帰ってそうそう、肉体労働とは感心感心」
「……まあ、店がこんなになっているのに黙って座ってられないからね」
「そういうお前らは、今の今までどこで何してたんだよ。そんなヤバい香りプンプンさせやがって」
そう問われた二人は顔を見合わせると、にやりと口角を上げた。
「いやなに、ちょっと鬼退治にね」
「なかなか手ごわい鬼じゃったよ」
「まあ、そんなことよりもだ。してきたんだろ異世界で大冒険、または大活劇。ぜひ聞かせてもらいたいもんだね。何しろ良いパルプのネタになりそうだ」
R・Vは手近にあった壊れていない椅子を引き寄せると、その上に腰を下ろした。
「あー。えっと。うん。それがね」
「何だ、歯切れが悪いな」
「まあ、なんというかな……ちょっと説明しにくいんだこれが」
T・DとA・Kは瞬時にアイコンタクトを取る。
(どうするA・K。正直に何があったか話すかい)
(つったってなあ……正直、勘弁してほしいぜ。異世界で二人そろってプリキュアになりましたなんて言ったら、正気を疑われちまう)
(だよねえ)
「ナンダ二人して見つめ合ったりして」
「いや! なんでもない! なんでもないんだ!」
「そうそう! 話せるようなことはたいしてなかったんだぜ! いやあ残念残念!」
「待ちな、あんたたち!」
「うわあ!? びっくりした!!」
少し離れたところから急に話に食いついてきたのは、タンクトップと緑色のツナギに身を包んだ、黒髪の女性。パルプスリンガー、S・Rだ。
「何も言わなくていい……アタシにはわかるよ……アタシにはわかる……だから言わなくていい……」
腕組みをし、目を閉じたままウンウンと頷くS・R。
「姐さん? ちょっと姐さん? 何一人で納得してんの?」
「……ものすごく嫌な予感がするよ」
S・Rは固く閉じていた目をカッと見開くと、ズビっという効果音とともに二人を指差した!
「恋愛は自由! だから恥ずかしがる必要はない! むしろ大歓迎! 大好物!!! 性別を超えた愛これが大好き!!!」
――沈黙。
「姐さん姐さん。さすがにそれはないと思うぞ?」
「えー! なんでー!? 男同士が二人っきりで異世界に飛ばされて、二人っきりで困難に立ち向かって、いざ帰ってきたらもじもじして何も言えないなんて、そうとしか考えられないじゃないの!!! ねえ、そうなんでしょT・D! そういうことなんでしょA・K!! 吊り橋効果!!! 友情を軽く超えちゃったクソ重たい感情!!! 友達以上夫婦未満の関係ーーーーー!!!!!」
「……おいT・D、姐さん止めろよ」
「嫌だよ、君がやれよA・K」
未だ大声で何事かを叫び続けるS・Rが何人かの手で引きずられていった後、T・DとA・Kの二人は揃って大きなため息をつくと、顔を見合わせて笑った。
「まあ、なんだ。今後ともよろしくな、T・D」
「僕のほうこそよろしく、A・K」
白磁のアイアンメイデン外伝 タイーラとデンダ〈外伝〉
「ふたりはPre-cure」 ~完~
【注意】この小説は、akuzumeさん主催の #AKBDC (アクズメバースデーカーニバル)参加作品です。#AKBDCについての詳細は以下のリンクからドーゾ。