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【短編】メガロシティアンの朝は早い #ヘッズ一次創作SFアンソロ

 今作は、「ヘッズ一次創作アンソロジー(テーマ:メガロシティ)」に寄稿したものです。

 払暁、目を覚ましたメガロシティアン――名を、「ネオ・マイハマ」という――は、大きく伸びをして、両肩を派手に鳴らした。その拍子に、彼の身に住まう「ヒト」が何百人か零れて落ちた。

 寝起き特有の緩慢な動きで体を起こすと、マイハマは早速、本日の作業予定地まで移動を開始した。一歩、また一歩、マイハマは広大な惑星表面を踏みしめて歩む。時折、彼の脚から幾人かの「ヒト」が零れて落ちていく。マイハマは特に顧みなかった。彼の心は、彼の体躯と同じく広大無辺――具体的には全長500Km程だ――である。故に、些末極まることにまで心を砕くことは不可能であった。

 そのうち、夜が明け始める。昇る陽の光が、マイハマの体を――強化ガラス製の、無数の「窓」を――照らしていく。マイハマは陽光の心地よさに思わず、巨躯に似合わぬことをし始めた。

 華麗なステップを踏みつつ、陽気に踊りながら歩き始めたのである。

 数刻の後、居住人口の200分の1程を振り落としつつも、マイハマは目的地へとたどり着いていた。数体のメガロシティアンが、すでに種々の作業に取り組み始めていた。

 マイハマの目の前には、彼の背丈の倍はあろうかという、無骨極まる鉄骨の束。今日の彼に課せられた作業は、この鉄骨を組み上げて作業用の足場を造り上げることであった。マイハマは鼻歌を歌いつつ、作業に取り掛かる。

「おい」
 そんなマイハマに声をかけてきたのは、彼と同じメガロシティアンである。名を「ビッグ・ボス」という。体高は700Km程だ。

「今日はズイブンとごきげんじゃないか。なにか良いことでもあったのか」
「いや、特には。ただお天気が良いから」
「ハハ! そいつはいい。たしかに今日は気分の良い天気だ」

 そう言ってビッグ・ボスは遥か地平線の彼方、視線の高さほどに浮かんで見える恒星に顔を向けた。 そこから放たれる赤光は彼らの踏みしめる大地、この『GEーⅩⅢ』と名付けられた超巨大人工惑星をあかあかと照らしている。

「今日も眩く輝いているねえ、SAO113271は」
「……そのSAOなんとかって記号じみた呼称、正直好きじゃないな。情緒の欠片もない」
「じょ、情緒! そいつはまた、図体に似合わないこと言うじゃないか」

 ビッグ・ボスは体を豪快に震わせて笑った。それに合わせて、「ヒト」がボスから振るい落とされていく。

「図体はお互い様だよ。ともかく、せっかくいい名前がついているんだ。僕はそっちで呼んであげたいね」

 マイハマも恒星に顔を向けながら、しみじみとつぶやいた。
「ねえ、アルデバラン」

 ――やっぱり良いな。詩的な響きだ。それにしてもこんな素敵な名前、一体誰が名付けたのだろう?

 マイハマは不思議そうに首を傾けた。その拍子に、また数人の「ヒト」が零れて落ちた。

 西暦2886年、「ヒト」はその生存圏を外宇宙へと拡大させていた――正確には、拡張せざるを得なかった。彼らの母たる惑星は、あまりにも増えすぎた彼らを抱き止めるには少々手狭であったからだ。

 「ヒト」は新天地を求め旅立ち――半ば予測の上とはいえ、その新天地が容易には得られないことに気づいた。大気、重力、温度、先住生物……様々な要因が彼らの安住の地探しを妨げた。

 ここに及んで、「ヒト」達はコペルニクス的転回を果たす。安住の地を宇宙の海に得られないのならば、いっそ自らの手で造ってしまえばよい、と。

 結果、『GEーⅠ』から『GEーⅩⅢ』と呼ばれる居住用超巨大惑星が建設されるに至り――そしてそれから1000年程の間に勃発した種々の出来事により、『GE-ⅩⅢ』を残して全て破壊しつくされた。星々に住まっていた、幾千億人の「ヒト」達と共に。

 慮外の事態により最後の生き残りと成り果てた「ヒト」は、『GEーⅩⅢ』を彼らのラスト・リゾートと定め、かつての繁栄を取り戻すべく奮闘を開始する。巨大惑星の地表に町を作り、町は街へ、街は都市へ、都市は超巨大都市――メガロシティへと変貌していった。

「ネオ・マイハマ」「ビッグ・ボス」「ロイヤル・レディ」「白林特区」……様々な愛称で呼ばれたそれらメガロシティは、その都市機能を超高性能AIによって管理され、運営されていた。

 西暦3471年、都市管理AI達が、自らを新しき「ヒト」だと定義し始める。理由は誰にもわからない。自らの創造主――神たる「ヒト」に近づきたかったのかも知れない。

 AI達は、かつて「ヒト」が自らを神の似姿であると定義したように、自分たちを「ヒト」の姿に近づけようとした。彼らは都市の構成要素を巧みに用いて、「ヒト」の体を再現することを試みた。

 結果、超高層居住施設は四肢となり、街頭監視カメラ群は耳目となり、情報インフラは神経となり、エネルギー網は血管となり――遂には立ち上がり、歩み、談笑し、詩情を解するようになった。

 「ヒト」の姿をしたメガロシティ――メガロシティアンの誕生である。

 では、彼らの想像主たる「ヒト」は如何様であったのかと言えば、その頃には都市から離れては一秒たりとも生きていけない、惰弱極まる生き物に成り果てていたのであった。

 かくして奇妙な同居生活――寄生生活、と呼ぶべきかも知れなかったが――が営まれ始め、さらに200年ほどの時が過ぎた。


 アルデバランの陽が、地平線の向こうに落ちようとしていた。メガロシティアン達は作業の手を止め、それぞれの家路につき始める――その前に、彼らが今日成し遂げたことの結果を満足気に眺めた。

 それは町であった。未だその成りかけでは合ったが。

 メガロシティアン達は自らが都市で在り続けることを止めた後、彼らは自らの使命と称して、何故か新たな「町」を造り始めていた。それは「ヒト」に造られた、という彼らの出自に因るものであろうか。真相は、やはり誰にも分からない。サイズ基準が彼ら自身なので、いつ完成するかも分からない。

 だがいずれ完成することだろう。そして、町は街へ、街は都市へ、都市は超巨大都市――メガロシティへと変貌していくのであろう。

 ともかく、今日の作業は終わった。マイハマも己の寝床へ帰ってきた。今日もよく働き、笑い、楽しんだ。さぞかし、良い睡眠を得られることであろう。幾人かの「ヒト」を振り落としつつその身を横たえると、マイハマはAIを休眠モードへと切り替えた。


 宇宙の夜闇に沈むマイハマの体に、僅かな明かりが灯り始めた。最初は遠慮がちに、探るように。そして段々と大きく、きらびやかに。光点は光線となり、平面となり、「ヒト」を模した虚像となった。虚像はふわりと空に躍り上がり、軽く微笑むと、手に持つ商品の効能を語り始めた。猥雑と喧騒が、水底から浮かぶ泡のように次々と生み出されては弾けて消えていく。

 メガロシティアンの朝は早い。故に「ヒト」は彼らの時間を――夜を、全力で謳歌するのである。

【完】

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タイラダでん
そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ