遠山キナコの太く短い伝説
その日、遠山キナコは生まれて初めて金槌を手にした。存在は知っていたが、実際に持つのは初めてだった。
――なんか、妙にしっくりくるな。
キナコはそれを何度か振り回してみる。隣りにいた友人の天山祥子が、笑いながら「あぶないよ」と注意してくる。
キナコはなんとなく、本当になんとなく、手にした金槌を祥子の頭に振り下ろしてみた。
小気味良い音が響く。祥子は短い悲鳴を上げ、膝から崩れ落ちた。床に倒れ数度痙攣すると、そのまま動かなくなる。死んだのだ。
キナコは驚いた。
――人間って、こんなに簡単に死ぬんだ。知らなかったな……いやいや、やっぱりおかしい。いくら何でもあっけなさすぎる。
キナコは目の前で起こったことに整合性をつけるため、彼女なりに必死に考えた。そうして考えて考えて、やがて一つの結論にたどり着く。
――そうか。きっと私には、殺しの才能があったのに違いない。それもかなりの才能が。だって初めてなのに、こんなにあっさりできたんだもの。
キナコは平凡な女子高生である。容姿も学力も運動神経も全てが並の、目立たない生徒だった。当然、そのことに少なからぬ不満も不安も抱えていた。そんな女の子が、自らの才能を「自覚」したらどうなるか。
――これはもう、なるしかないな。殺し屋。
十代女子の魂に一度火がついたら最後、何人たりともそれを止めることなどできないのである。
「ちょっといいですか」
「あ?」
数時間後、キナコは看板も標識もついていないビルの入り口に立っていた男に声をかけていた。
「ここ、暴力団事務所ですよね? だからおじさん、ヤクザで合ってますよね……あの、ピストル、持ってますか?」
「ああ?」
「私、思ったんです。やっぱり殺し屋ならピストルかなって。でも、手に入れる方法がわからなくて……それで思ったんです。殺し屋なら、殺して奪い取ればいいやって。おじさん、持ってますよね?」
【続く】
そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ