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卒業~graduation~

ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴った。いつもより間延びして聞こえるのは、きっと私の焦る気持ちのせいだと思う。

教室を駆け出す。卒業式はとっくに終わっていた。だけど式が終わった、はいさようならってわけじゃない、はず。そんな期待を胸に校内を駆け回る。教室、渡り廊下、音楽室、体育館――どこにもいない。

そんなはずない。探していない場所は――そこで気づいた。むしろどうして最初に思い浮かばなかったのか。あそこだ。先輩は、きっとあそこにいるはずだ。

全速力で駆け出す。目的地は、校舎裏の小高い丘。

「ここは、僕のお気に入りの場所なんだ。嬉しいことがあったときも、悲しいことがあったときも、いつもここから街を眺めることにしているんだ」

いつだったか、眩しすぎる笑顔とともにそう教えてくれたことを思い出す。

全力疾走。どこが道だかわからない道を駆け抜ける。やがて視界が開けて――やった、大当たり。

風に舞う桜の花びらに包まれるように、先輩は静かに立っていた。

そしてその足元には、血まみれの斬殺死体が転がっていた。
いち、に、さん、四人分か。ああ、だいぶ先を越されちゃったみたいだ。

「先輩」
息を切らしながら呼びかける。

「柊さんか。どうしたの」
返り血一つついていない、優しい笑顔。その顔を見た途端、心臓が高鳴るのがわかった。落ち着け、落ち着きなさい私。

軽く深呼吸して、先輩の顔を真正面から見つめる。
「夏目先輩、ご卒業、おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう」
「あの、私、先輩にお願いがあるんです」
「何?」

胸の高鳴りは止まらない。でももう止まれない。このまま行け、私!

「先輩の……第2ボタンを、いただけますか」

口にした瞬間、時間が、空気が止まったような気がした。
長い長い、沈黙。

「その意味が」
先輩の声。火傷しそうなほど冷たく、鋭い。
「分かって、言っているのかい」
先輩の周りの空気がぐにゃりと歪む。桜の花びらが、それに合わせてゆらゆら舞い踊る。

「はい……もちろん、です」
私は答える。正直、怖くてたまらない。でも――きっとこれが、最後のチャンスなんだ。

「第2ボタンの位置は、あなたの心の臓の位置」
私はゆっくりと構えをとる。御船真古流、合戦組打の型。

「それが欲しいということは、すなわちあなたの命が欲しいということ」
もう一度深呼吸。がちり。覚悟の決まる音がする。

そして最速の、私にできる最高の一撃を、先輩の「スキ」に叩き込む!

「先輩、どうか私と――私と、殺し合ってください!」

そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ