大決戦! アクズメさんVS深海潜神教団! #AKBDC2023
「ウナーギッギッギッギ!(笑い声) 恐れ入ったか、下等な人類どもめウナ。我等、深海潜神教団Ku-EELーulhuの神域を汚した罪、万死に値するウナ! そもそも、あのような醜悪きわまる鋼鉄の塊に頼らねば海を渡れぬその脆弱さ、正視に耐えぬおぞましさウナ!」
「「「「ウナーギッギッギッギ!(笑い声)」」」」
「うわっ?! いきなりなんなんだお前ら! あっやべ、ちょっと汁こぼしちまった。洗って落ちるかなコレ」
新聞片手に辛い麺を啜る男の前に現れたのは、アンバランスなまでに長い手足と豊かな頭髪を備えた、全長3.5メートルはあろうかという直立イール型生物の群れであった。その数、およそ十数体!
「ウナーギッギッギッギ!(笑い声) 恐怖と混乱のあまりさっそくの粗相とは! やはり惰弱だな人類主は!」
「「「「ウナーギッギッギッギ!(笑い声)」」」」
「人が辛い麺メントしてるときにいきなり出てきて何煽ってやがるんだこのヤロウ!」
誰にも邪魔されずに自由で、なんというか救われてなきゃダメな食事の時間に乱入された男の怒りに一瞬で火がつく!
「フン、感謝せよ人類。貴様は我等深海潜神教団Ku-EELーulhuの人類殲滅and地上制圧作戦における、栄えある犠牲者第一号に選ばれたのだ! 喜ぶがいい! 我等が目的完遂の暁には、この店に記念の碑でも建ててやっても良いぞ!」
そう言いつつ、粘液まみれの体を揺らしながら笑う巨大直立イールたち! それは見るものの正気を損なわせる光景であった。並の人間ならば即座に精神を侵され、失禁、脱糞も免れぬことだったことだろう。
「……ふん」
だが、この男は違う。
「デカくてキモいだけのイール野郎が、言うに事欠いて人類殲滅だあ? 笑わせやがるぜ。それに運が無い」
不敵に笑い、器に残った最後の麺を啜る! 地獄の業火の如く真っ赤に染まったスープを一滴残らず飲み干す! それは恐るべき直立イールたちをも思わずたじろがせてしまう蛮行だった!
「最初に襲おうとした相手が、よりにもよってこのアクズメさんだとはなあ!」
瞬間、アクズメと名のる男の全身から放たれる、質量を持つかと錯覚させるほどの濃厚な覇気!
「ウナギッ?!(驚きの声)」
巨大直立イールたちは覇気をまともに浴び、瞬く間に狼狽、そのうちの一体が手に持つ深海光線銃の引鉄を弾いてしまう! 銃口から放たれたイールの如き青白い光が、蛇行する軌道を描いてアクズメに迫る!
「オラッ!」
アクズメは右手を、残像が残るほどの速度で振るった! その右手に握られているのは、一組の箸である!
閃光!
「ウ、ウ、ウナギーーーッ?!(驚きの声)」
アクズメが握る箸が掴むのは……弾けるような音をたてる、青い光の塊である! 直立イールの放った光線を、箸で掴んでみせたのだ!
「バカな……!」
「麺を掴むより簡単だぜ」
そう言ってアクズメは、青い光を口の中に放り込んだ!
「い、痛え! 勢いで食べてみたけどやっぱ痛え!!!」
当たり前だ! だがそのことで、アクズメに大きな隙ができた!
「おのれ、下等な人類風情が! ならばこれならどうだーッ!」
隙に乗じ、リーダーらしき直立イール(頭から角が生えており、全身が赤く、なおかつ他の直立イールよりも30%ほど動きがいい)が懐から一冊の本を取り出した! 日本の漫画雑誌ほどの大きさのその本は、イールの蒲焼状の何かで装丁されている! 上部からは数え切れぬほどの付箋がはみ出しており、リーダー直立イールの恐るべき読み込み具合を示していた! イールは真ん中あたりのページを開き、何やら人の発声器官では不可能な発音の呪文を唱え出す!
「恐れ! 慄け! 刮目せよ! 我らが教典、偉大なるKu-EELーulhuより賜りし海の智慧――蒲焼秘法に記されし神秘の秘術を!」
呪文の詠唱とともに、信じられないことが起こった。直立イールどもの群れが、絡み合い、捻じれ、やがて一つの超巨大直立イールへと変化したのだ! 全高約30メートル! 当然、店舗は木っ端微塵! アクズメも慌てて外へ飛び出した!
「イルルルルルーーーーーウナッ!!!(冒涜的な鳴き声)」
「このイール野郎、なんてことしやがる! ここは結構お気に入りの店だったんだぞ!」
「そんなのんきなことを言っていられるのも、今のうちウナアッ!」
超巨大直立イールは全身を震わせ、体表から無数の殺人イールを放出した! 鋼鉄をも食いちぎる牙、触れれば数分で死に至る粘液、そして天然物の鰻に負けず劣らぬ味を備えた究極生物だ! 殺人イールは騒音を聞きつけてやってきた野次馬たちに襲い掛かっていく! 大惨事だ!
「くそー、許せないぜイールどもめ。でも自分の小説の中ならともかく、現実世界じゃあグリッドマンに助けを求めることもできないな。一体どうすれば」
「何をためらうことがあるんだ。こんな時のための”アレ”ではないか」
「そ、そういうアンタは! 大塚明夫の声で喋る真の漢ことベルナルドじゃないか! なんでここに?」
「君の言うとおり、私は真の漢なのでね。友人の危機的状況に駆けつけぬはずがないだろうということさ」
そう言いながら完璧なスマイルを決めた男性は、アクズメのフィットボクシングを影に日向に支える真のトレーナーであるナイスガイ、ベルナルド氏だ。
「なるほど、当たり前のことを聞いてしまって悪かった」
「なあに気にするな! とは言え、のんびりおしゃべりを楽しんでいる場合ではなさそうだぞ」
超巨大直立イールは、おぞましい咆哮を上げながら街を蹂躙していく。超融合を遂げた彼ら直立イール軍団は、思考能力をも融合させてしまった結果、理性を失い歩く災厄と化してしまっているのだ! このままでは南の国が、いや地球が危ない!
「こいつはやべえぜ……ベルナルド! たしかにこいつは、アンタの言った”アレ”の出番らしいぜ!」
「ふむ、まさに、だな。ならば!」
ベルナルドは白い歯を光らせながら笑うと、両の拳を握り構えた。そのまま、空を切り裂くようなワン・ツーを敢行する!
「シッ!」
ベルナルドがワン・ツーを数度繰り返すと、おお、なんということか、なにもないはずの空間が確かに裂け、そこから暗黒虚数空間が現出した!
「フン!」
さらに、ベルナルドは臆することなく空間内にそのたくましい腕を突っ込み、中から一丁の銃――否、この大きさならば『砲』と呼ぶのがふさわしいだろう――を取り出した!
「さあ、後は任せたぞ!」
「おう、任されたぜ」
アクズメはベルナルドから巨大銃器を受け取ると、肩に載せ、超巨大直立イールに向けて照準を定める!
そう、この恐るべき武器こそ、アクズメがこんな事もあろうかと密かに開発していた超兵器――Anti-Kaiju-Brutal-Death-Cannon、略してAKBDCである!
「今だ! 撃て!」
「往生しやがれ!!!」
アクズメは引き金を引く! AKBDCの重厚な銃口から、黒光りする巨大弾頭が放たれる!
着弾! そして……爆散!
「イーーールルルルルルゥッ!!!!」
「おっと逃さねえぞ」
衝撃で融合が解け、バラバラに飛び散る直立イールたちを、今度は正確な狙いで撃ち落としていく! ベルナルドもパンチで援護だ!
数分後、そこには哀れな姿に成り果てたイールたちが散乱していた。
「ふう、終わったか。助かったぜベルナルド」
「なに、気にするな。今後も困ったことがあれば遠慮なく頼ってくれたまえ。おっと。トレーニングの時間なので、これで失礼するよ」
ベルナルドは最高の笑顔を見せて、そのまま姿を消した。
「いい男だぜ」
アクズメはひと仕事終えた満足感に浸りつつ、周りを見回す。イールの死骸だらけだった。巨大銃弾を受けた際に高熱が加わったせいか、香ばしい匂いを発していた。
アクズメの喉が鳴った。
「こりゃ今からイールを食うしかねえな! さっき辛い麺食ったばかりだが、まあイケるだろ! 材料はたんまりあるし、みんなでイール・パーティーと洒落込みますか!」
アクズメの一言に、物陰に隠れて様子をうかがっていた市民たちが喝采の声をあげた。
まさにこの日、このときの出来事が、人類とイールたちとのお互いの絶滅 を賭けた一大血戦の幕開けであったことを、まだ誰も知らない。
だが恐るるなかれ、アクズメさんある限り、決してイールの暴威に人類が屈することなどないのだ。
さあ! これを読んでいる君も、聖戦に身を投じてみようとは思わないか? 人類は、アクズメさんは、君の勇気ある参加を待っている!
【20XX年刊行の人類統合軍パンフレットより抜粋】
【完】
そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ