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ろまね と レイくん

「ウエー。今日の天気、午後から土砂降りの砂だって。ウッザーイ」

 ファミレスでケータイ片手にぬるいお茶を飲みながら、あたしは半分独り言みたいに大声を出した。あ、もちろん、他にお客さんがいないからだよ。

 半分、というのはね、向かいにいるレイくんに聞かせるつもりもあったから。なんで聞かせたいかというと、その、なんか、レイくん今日は朝からチョー機嫌が悪そうなんで、ほら、なんていったっけ、ケンセイ? ヨースミ? なんかそーいうのを試してみたのだ。 

 結果は最悪。ぜーったい聞こえてるはずなのに、ムシ。ちっとも返事してくれない。ウエー。

 あたし、なにかやらかしちゃったかな。えーと……だめだ。心当たりが多すぎてさっぱりわかんないや。

「……レイくん、おこってる?」やっぱりムシ。

「ねー、レイくんってばー」またまたムシ。

 なんかあたしも段々イライラしてきちゃった。なによ、もう。

「ねえってば、返事ぐらいしてくれてもいいじゃん」『……怒ってるよ』

 あ、返事してくれた。んー。今日もいい声。癒やし系? っていうのかな。レイくんの声を聞くと、ユーウツな気分もふっとんじゃうね。

 でも、やっぱり怒ってるのか……なんでだろ? んー。んんー。んんんー。

 うん! 考えてもわかんないや!

「なんで? ねえなんで?」
『わからないの?』
「うん! わかんない!」『本当に?』「ホントに!」

 大げさなため息をつくレイくん。なによ、わかんないことは聞けって言ったの、レイくんじゃない。

『僕の姿を見ても?』「んー? いつもどおりのイケメン、超カッコイイ。けど、それがどうかしたの?」

『下半身! か! はん! しん!』

 えー!? もしかして、もしかして!

「……イヤだった?」『それ以前に、これ、ウマの骨だろう!!!』

 なんだ、そっちか。

「昨日吹っ飛んじゃったあとで、ちゃーんと探したんだよレイくんの下半身。でもちょーどいいのが見つかんなかったんだもん。レイくんだって、下半身がないままと困っちゃうでしょー」
『それはそうだけど、僕は一応ヒトだよ……せめて二足歩行の生き物を』

「いいじゃん、どうせ骨なんだし。ヒトもウマもあんまり変わんないって」
『ぜんぜん違うよ! あいかわらず雑だよね、ろまねは!』

 ファミレス、じゃなくて、元ファミレス内にひびくレイくんの声。他のお客さんがいなくてよかった―。それにしても、レイくんはパーフェクトなイケメンスケルトンなのに、ちょっと細かいんだよねー。お母さんみたい。本物の「お母さん」なんて知らないけど。

 あ、ちなみに「ろまね」はあたしの名前。かわいいでしょ。

『はあ……まあいいや。それよりも良いのかい? さっき自分で言っていたよね、今日は午後から土砂降りだって』

 わわ! そうだった急がなきゃ。あたしはケータイ魔術書(グリモア)を閉じると、飲みかけのお茶を一気に吸い込んだ。

げっほ! げほ!」『ほら、またそうやって慌てるから』

 やっぱレイくんってお母さんだね。

『さあ、僕の背中に乗って。せっかくだし、この体を有効活用するよ』
「おっけー」

 あたしはひらりとレイくんの背中(骨しか無いから背骨かな。あ、ウマの部分だよ)に飛び乗った。お姫様座り。へへ。

『しっかり掴まっててね!』「うん!」

 あたしたちは割れた窓から外に飛び出した。砂を巻き上げて、鳥みたいなスピードで(鳥って本でしか知らないけど)走る! 目指す「フジサン」はまだまだ遠い。それから、きっとあたしを狙うワルイやつらが襲ってきたりもするんだろーけど。

 あたしとレイくんに敵はいないのだ。どっからでもかかってきなさーい!

これは、大砂害によって滅びた「とある国」にて、新たなる「魔王」が誕生した際の記録である。残された文献や魔力痕跡、当時の生存者の証言などから可能な限り正確に再現されている。これ以上の精度は資料の不足により現状難しいと言わざるを得ない。今後の研究が待たれるところである。
文責 皇立魔術歴史学研究所所長 バルミリア・アル (捺印) 

【今のところは続かない】

そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ