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経済現象は人為現象


経済現象は人智の及ばぬ自然現象などではなく人為現象

 四季の巡りや潮の満ち引きなどの自然現象をコントロールすることはほぼ不可能です。これに対して様々な経済現象(GDPや賃金の増減、物価や金利や為替レートの変動など)は人々の活動の結果であるため、政策などで人々の行動をコントロールすることで様々な経済現象をコントロールできることになります。

 経済現象を「人智の及ばぬ自然現象」という風に考えていると、様々な経済現象の原因について考えるときに安易に「分からない」と結論を出し、そこで思考を止めてしまいがちになると思います。そして人々が思考停止すればデマがはびこりやすくなります。するとそのデマに基づいて間違った政策が行われ、人々は不幸になります。
 しかもただ単に政策を間違っているだけなのにそれに気付けず、「どうにもならない。そういう運命なんだ」などと受け入れてしまい、間違った政策が継続される可能性も高まります。

 「経済現象は人智の及ばぬ自然現象などではなく人為現象」という意識を明確に持っておくことは、経済現象を理解するうえで極めて重要なことだと思います。そしてこれはデマに騙されて不幸になることを回避することに繋がります。

基本的に、現状を良くするのも悪くするのも政策次第

 コロナで緊急事態宣言が発せられて人々が自粛したとき一気に経済は悪化し、宣言が解除されれば一気に経済が回復しました。人々の行動は政策でかなりコントロール可能ですし、そしてそれが経済に影響を与えます。当たり前ですね。

 たとえば政府が全国民に1兆円ずつ配ったとしても、以下のように人々がどう行動するかによって結果は違います。

(1) 全員がこれまで通り働いて財を生産してこれまで通りの価格で販売し、これまで通りの給料を受け取ってこれまで通りの消費をする。要するに全員が1兆円の貯金は無いものとしてこれまで通りの生活を送る。
 この場合、社会が大混乱する事はありません。当然ハイパーインフレになったりもしません。

(2) 全員が「これだけあれば一生遊んで暮らせる」と思って働くのをやめる。
 この場合、財が生産されないので当然分配もされず、社会は大混乱します。

 経済現象は人為現象であることをより理解しやすくするために極端なたとえ話をしましたが、経済現象は究極的には人々の行動次第ということです。

 実際に1兆円配れば社会が大混乱に陥ることは必至ですが、理屈の上では全員がこれまで通りの行動をするのなら1兆円配っても問題はないことになります(この場合そもそも配る意味がないことになりますが)。

 またたとえば、政府が何もしなくても人々が一斉に貯金を全額おろして全て消費につぎ込めばGDPとインフレ率は爆上がりします。逆にこんなことをしなければ何も起きません。結局人々の行動次第です。

 基本的に、国を発展させるのも衰退させるのも、格差を広げるのも格差を縮めるのも、人々の暮らしを豊かにするのも貧しくするのも、結局は人々の行動次第ということになります。
 そして人々の行動は政策でかなりコントロールできますので、これらのことは政策次第と言えます。つまり失われた30年になったのも格差が開いたのも子供の数が減ったのも実質賃金が下がり続けているのも、自然現象とか逃れられない運命とかそういうものではなく、(意図していたかどうかは別として)そうなるような政策を行った結果だということです。
 ということは、政策を変えることで失われた40年になることを防げるし、格差を縮められるし、子供の数を増やせるし、実質賃金を上昇させ続けることができる、ということになります。

 よくわからない自然の力が働いて勝手に経済成長したり勝手に成長が止まったり、勝手に格差が開いたり勝手に格差が縮まったりし、人類はそれに身を任せるだけの存在、という風な認識を持っていると現状をより良い方向に変えていくことが難しくなりますので、こうならないよう注意が必要です。

人為現象なので色んな人の立場に立って考えれば様々なことが分かってくる

 「経済現象は人為現象」と考えれば、色んな人の立場に立って考えるようになり、そうすることで様々なことが分かってきます。すると正しい経済政策を打ちやすくなります。
 逆に自然現象と考えていれば色んな人の立場に立って考えることがないので経済政策を間違いやすくなります。
 「経済現象は自然現象」と考えて経済政策を決めることは、医者が問診をせずに表に現れた症状だけを見て診断を下すようなものだと思います。

人為現象だからこそ完璧な理論は作れない

 また、人為現象だからこそ一分の隙もない完璧な理論を探し求めること自体が間違いの元になります。
 人は百人百様で経済学の想定する合理的経済人などでは無いのだから、実際の人間の心理や行動を予測して、「ああする人もいればこうする人もいるだろうけど、全体で見れば高い確率でこうなるだろうね」と考える程度にとどめておき、そして人為現象だからこそ想定外のことが起きやすく、「臨機応変に柔軟に対応することが肝要」と心掛けておくのがよいと思います。
 「先の先の先の先まで完璧に分かる」などといった思い上がりは間違いの元であり、そして間違った時に柔軟な対応を難しくして傷口を大きくするので注意が必要です。
 また人為現象なので、100%完璧な理論を作れないことをもって批判することは無意味な行為であるばかりか有害なので慎む必要があります。

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