4つのタイプの国でそれぞれ必要なこと
変動相場制の国と固定相場制の国、自国通貨建て国債のみを発行している国と外貨建て国債を発行している国、これらの組み合わせの4タイプについて、それぞれ何が重要なのかを考えてみました。
厳密に見れば細かい突っ込みどころはあるかと思いますが、大体合っていると思います。
固定相場制の国と変動相場制の国の定義
以下のページを見ると為替相場制度にはいくつものバリエーションがあるようです。
国際通貨研究所 為替相場制度
https://www.iima.or.jp/abc/ka/8.html
ここで、為替介入を行う国を2種類に分け、それを以下のように定義することにします。
・固定相場制の国:基本的に為替介入して為替レートをコントロールしている国
・変動相場制の国:基本的に為替介入しないが急激な変動があった時は変動を緩やかにするために為替介入する国
固定相場制の国とは
固定相場制の国というのは、「我が国は固定相場制にします」と宣言すれば勝手に為替レートが固定されるわけではなく、定義に書いたように常に為替介入を行って為替レートをコントロールする必要があります。
例えば外貨が自国通貨に両替される(外貨が売られて自国通貨が買われる)と自国通貨高圧力がかかりますので、そのときは自国通貨を外貨に両替してその力を相殺することになります。その結果政府の保有する外貨が増えます。
逆に自国通貨が外貨に両替されると自国通貨安圧力がかかりますので、そのときは外貨を自国通貨に両替してその力を相殺することになります。その結果政府の保有する外貨が減ります。
ちなみに為替レートに影響を与える要因は色々あり、ネットで調べると大体こんな感じでした。
・金利差
自国の金利が高ければ外貨から自国通貨への両替が活発になる。その結果自国通貨高圧力が高まる。
・投資
自国通貨建ての株や債券などへの外国からの投資が増えると外貨から自国通貨への両替が増える。その結果自国通貨高圧力が高まる。
・貿易収支
輸出で稼いだ外貨は(全てとは限らないが)自国通貨に両替され、それが自国で働く従業員への給料の支払いなどに充てられたりする。そのため貿易黒字の国は自国通貨高圧力が高まる。
・物価変動
物価が上がるとその分通貨価値が下がるので、それを嫌ってインフレ率の低い国の通貨への両替が増える。その結果インフレ率の高い国の通貨安圧力が高まる。
もちろんこれらは逆の場合は逆の効果があります(例:外国の方が金利が高ければ自国通貨安圧力が高まる)。
自国通貨高圧力に対しては、必要であれば自国通貨を発行して介入すればいいだけなので簡単ですが、自国通貨安圧力に対しては外貨がなければ介入できませんので、外貨が足りなければ外貨建て国債を発行して外貨を調達してそれを使うことになります。
不景気が続いて外国よりも金利が低かったり、外国からの投資が減ったり、自国から外国への投資が増えたり、貿易赤字が続いたり、外国よりもインフレ率が高かったりすると、外貨が足りなくなって外貨建て国債の発行残高は増え続け、やがてどこも外貨建て国債を引き受けてくれなくなって外貨を調達できなくなり、デフォルト(債務不履行)することになります。そのときは為替レートを維持することもできないので為替レートは暴落することになります。
各タイプごとに必要なこと
最初に挙げた4つのタイプの国ごとに必要なことをまとめたのが以下になります。
・固定相場制で外貨建て国債を発行している国
為替レートの維持にも国債の償還にも外貨が必要なため、外貨の獲得に特に力を入れる必要があります。
・固定相場制で自国通貨建て国債のみを発行している国
自国民から徴税したり自国通貨を発行したりして得たお金で国債の償還が可能ですが、為替レートの維持には外貨が必要なため、外貨の獲得に力を入れる必要があります。
・変動相場制で外貨建て国債を発行している国
国債償還のための外貨の獲得は自国通貨を売って外貨を買えば済みます。その結果為替レートが下がっても変動相場制なので問題ありません(為替レートが急落しないような配慮は必要ですが)。
とはいえ、わざわざ外貨建て国債を発行しているということは、何らかの理由で自国通貨を売って外貨を買うという手段が使えない状況にあると推測されます。もしそうであれば、やはりこの場合も外貨の獲得に力を入れる必要があります。
・変動相場制で自国通貨建て国債のみを発行している国
自国民から徴税したり自国通貨を発行したりして得たお金で国債を償還できますし、為替レートを維持する必要もないので基本的に外貨の獲得に力を入れる必要はありません。
人にたとえると
わかりやすいように人にたとえると以下のような感じになります。
・外貨建て国債を発行している国
借金を返すために働いてお金を稼がないといけない人
・固定相場制の国
現状を維持するために働いてお金を稼がないといけない人
・変動相場制で自国通貨建て国債のみを発行している国
基本的に働いてお金を稼ぐ必要がない人
まとめ
政府は外貨を発行できないため、外貨建て国債を発行していたり固定相場制だったりすると外貨獲得に力を入れる必要があります。
また変動相場制で自国通貨建て国債のみを発行している国は、デフォルトを避けるためや為替レートの維持を目的として外貨獲得に力を入れる必要はありませんが、投機的な動きなどで為替レートが急落して経済に悪い影響を与えないようにするために、「不測の事態に備えてある程度外貨を保有」しておいたり、「通貨スワップ協定を締結」しておく必要があります。
おまけ1 日本の状況
日本の状況は以下のようになっています。
・日本は変動相場制で自国通貨建て国債のみを発行している国です。
・日銀は、米国連邦準備制度、欧州中央銀行、イングランド銀行、カナダ銀行、スイス国民銀行と引出限度額が無制限、有効期限が無期限の通貨スワップ協定を締結しています。他にもアジア諸国と限度額と有効期限がある通貨スワップ協定を締結しています。
日本銀行 海外中銀との協力
https://www.boj.or.jp/intl_finance/cooperate/index.htm
・日本の外貨準備高はこのようになっています。
SMBC日興証券 外貨準備
https://www.smbcnikko.co.jp/terms/japan/ka/J0254.html
「日本の外貨準備高は中国に次ぎ世界第2位で、2024年1月末時点で約1兆2,918億ドルに達しています。」
日本は世界の中でほぼ最高のポジションにあると思います。
おまけ2 ユーロ圏の国の場合
ユーロ圏の国の政府は共通通貨ユーロを発行できませんので、ユーロ建て国債を償還するには自国民から徴税するなどして償還することになります。
また以下より、「ユーロ圏内は(為替介入不要の)固定相場制。デンマーク、ブルガリアはユーロに対する固定相場制。それ以外に対しては変動相場制」と考えていいと思います。
「ユーロ圏=日本」と置き換えてみると、日本(ユーロ圏)は変動相場制であり、日本の都道府県がユーロ加盟国にあたり、デンマークとブルガリアは円に対する固定相場制をとっている国になり、理解しやすいのではないかと思います。