amiをつくる#1:JVRの買収と失敗
ユーザベースの佐久間です。
この秋に「ami」という「起業家とサポーターがつながるライブアプリ」をリリースします。そのサービスをつくる経緯について書きます。
初回は、amiにつながるJVR(ジャパンベンチャーリサーチ)という会社の買収、その後のPMI(買収後の統合プロセス)での失敗、その中からamiの原型となる構想がうまれたきっかけまでを書きます。
amiにはスタートアップを取り巻く状況をオープンにして、挑戦する人を増やしたいという想いも込められています。なので、私自身amiについてオープンにお伝えしたいと思います。
ユーザベース初の買収。事業提携から事業承継へ
2016年当時、私はSPEEDA(ユーザベースが提供する企業・業界分析プラットフォーム)の日本事業の責任者で、ユーザーから「スタートアップに関する情報を増やしてほしい」という多数の要望を受けていました。
それを実現するために、JVRの代表の北村さんにコールドコールでアポを取り、SPEEDAとのデータ連携の話を持ちかけます。これがJVRと私の最初のつながりです。
JVRが運営するentrepediaというサービスは日本で唯一無二のスタートアップデータベースであり、スタートアップの情報を収集するのに、他に選択肢はありませんでした。
そして、北村さんと事業提携の話を進める内に、「事業提携より事業承継の方がよいのでは?」という流れになり、買収につながります。
entrepediaのさらなる成長のためにはユーザベースがベストパートナーであったことと、北村さんがご高齢であったことが大きな理由だと思います。
私は新卒で証券会社に入り、M&Aのアドバイザーをたくさん担当してきました。ただ、自分自身でM&Aをやるのはこれが初めて。
2016年12月、北村さんがユーザベースの恵比寿オフィスの会議室で、契約書すべてに押印した時、心の底からほっとしたことを覚えています。
買収発表の約1ヶ月前にユーザベースはIPOしており、おそらく、IPO直後最速のスピードM&A案件だと思います。IPOのプロセス中は、M&Aを進めることはできないので、IPO直後から話を進めてきました。
初期のPMIの失敗。一貫性のなさ
M&Aはプロセスが完了してからが本番。PMI(買収後の統合プロセス)こそが重要。ほとんどのM&AはPMIで失敗する。
こういうことは知識として知っていたものの、その罠にはまってしまい、初期のPMIは失敗しました。
失敗の理由はシンプルで「私がコミットできなかったから」です。
当時私は、ユーザベースグループとして最大の売上を持っていたSPEEDAの日本事業を担当し、FORCASという新しいマーケティングプラットフォームの立ち上げを担当し、また、ベンチャー企業への出資案件も並行して進めていました。
その中で、PMIにさく私のリソースは中途半端で、メンバーに「任せて」いる状態でした。もちろん、メンバーに任せることは悪いことではありません。ただ、PMIは一貫性が重要で、北村さんとM&Aのプロセスで信頼関係を築いてきた私が、PMIにもコミットして一貫性を示すべきでした。
一貫性があるオープンなコミュニケーションがないと信頼はつくれません。そして、お互いの信頼こそが、PMIではもっとも重要だと今では思います。
JVRは売上は順調に上がっていたものの、内部のメンバーの不満が溜まっており、一体感がありませんでした。
元々JVRにいたメンバーと、ユーザベースから新たにジョインしたメンバーの、お互いの信頼感がない。このままでは、オペレーションが徐々に悪化し、スタートアップデータベースの価値が毀損しかねません。
そのタイミングで、SPEEDAの日本事業を太田さん(現在Quartz CFO)に引き継いでもらいました。ちなみに、太田さんは私の証券会社時代の上司だったりします。
最初に取り組んだことは、北村さんとの信頼関係の回復。
恵比寿のお米がおいしい和食のお店で、これまでのPMIの失敗(新旧メンバーのお互いの信頼感の無さ)を認め、私がコミットして新たに体制をつくっていくことを北村さんに約束しました。同時に、そのためにも北村さんにこれまで以上に協力して欲しいとお願いしました。
この時期(2017年夏)は私の人生の中でもトップクラスに苦しい時期でした。
JVRの既存顧客対応、パートナー対応、取材対応などの窓口を一旦私がすべて担当したので、毎日電話に追われる日々でした。同時に、FORCASの立ち上げで、土屋というメンバーと一緒に多くの初期ユーザーを訪問し、FORCASの活用提案(カスタマーサクセス)をしていました。
毎日電話対応に追われ、同時に、新しいサービスの活用提案を考え続け、提案し続ける。身体と心が分離してしまいそうなこの時期、周囲に「つらい」とネガティブな言葉をこぼしてしまっていました。(そして、土屋にめっちゃ怒られました)
同時に、「これは本当に自分がやりたいことなのか?」と思い悩むようになりました。あまりに毎日がつらい。そして、それをやる意義もよく分からない。JVRは北村さんから「引き継いだ」事業であり、私がスタートした事業でもない。
そういうことを思い悩む内に、扁桃炎になり、9月に一週間くらい会社を休んでうなされ続けました。扁桃炎になると40度くらいの高温が出るので、その間は一切集中して考えることはできません。悩むこともできません。
引き継ぐのではなく、自分の好きにやる
その扁桃炎が治りかけのとき、再度「今やっていることは本当に自分がやりたいことなのか?」という悩みにとらわれます。他にやれることもないので、うなされながら、延々と、ぐるぐると、考え続けました。
考え続けた結果、「JVRとFORCASは似ている」と気づきました。
説明が遅れましたが、FORCASは、SPEEDAをマーケティングに特化させたようなサービスです。
私自身がSPEEDAというサービスを用いてSPEEDAのマーケティング戦略を立案し、SPEEDAを成長させることができました(分かりにくくてすいません)。FORCASは、その体験から生まれた「成長を加速させる」サービスです。
一方、JVRはentrepediaというスタートアップデータベースを持ち、スタートアップへの資金、人、技術などの流れを変えることで「挑戦を生み出す」サービスです。
「挑戦を生み出し、加速させる」
このキーワードを思いついたときに、私の中でJVRとFORCASの一貫性が生まれ、「自分がやる意味」が見いだせました。
そうなると、途端にわくわくしてきます。すぐに単純にわくわくしてしまうところが自分の良いところだと思っています。
挑戦を生み出していくためには、entrepediaだけでは足りません。
entrepediaは資金調達などのニュースが出たスタートアップの情報をデータベース化しています。そうすることで、投資先を探すVCや事業提携先を探す企業と、スタートアップが出会う機会を増やすことはできてきている。
ただ、ニュースに載らない初期のスタートアップに対しては何もできていない。
であれば、初期のスタートアップの挑戦の機会を生み出し、そして挑戦する人を増やしていくようなサービスをつくればいい。
引き継いだサービスではなく、自分がやりたくてやっているサービス。だったら、JVRのメンバーと一緒に「挑戦を生み出す」ために自由に挑戦できる。
そう思うことができ、出社後すぐにそのサービスの大まかな構想をつくり、JVRのメンバーに「こういう新しいサービスをつくりたい!」と興奮気味に話しました。
その構想がamiの原型であり、これがamiをつくる最初のきっかけです。