目指すは、英雄。フレンチ料理人 窪田涼佑氏インタビュー 前編
今回は、見た目は寿司職人、腕はフレンチ料理人の窪田涼佑さんです。誠実でありながら、ユーモアも兼ね備えた人間的魅力が溢れ出る窪田さん。料理への向き合い方、そして料理を通してどんな人生を送りたいかをお伺いしました。
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フランス人に引き抜かれ、現在の職場に
ー本日はよろしくお願いします!会うのは、2回目ですね。
(窪田さんとは初めてお会いしたときに少し話して、インタビューのオファーをし、快く引き受けてくださいました。)
そうですね。よろしくお願いします!
ー今、何をしているのか、自己紹介をお願いできますか?
はい。僕は料理人として、今は都内のレストランで働いています。
あとはたまに、ケータリングを作ったり、知り合いの方と間借りで料理イベントをしたりしています。
ー幅広く活動されているんですね。メインで働かれているのは、レストランですか?
そうです。
元々、カリフォルニアキュイジーヌって言って、フレンチスタイルのカリフォルニア料理のお店をやっていた社長が経営しているお店です。
カリフォルニアキュイジーヌっていうのは、フレンチ、イタリアンをベースにしていて、カリフォルニアの温暖な気候でできる食材などを使っているのが特徴です。
社長は、その料理もそうですし、料理を楽しむお客さんの雰囲気が好きで始めたと言っていました。
それで今僕が働いているお店は、そのカリフォルニアキュイジーヌのお店の業態がベースにありながらも、フレンチや和食、イタリアンなどいろんな文化を融合させているような感じです。
ーそのお店は、昨年末にできたとのことで。
そうです。オープン前から関わることになりました。
元々僕は、別のお店で料理長をやっていたんですが、そこに食べにきてくれたフランス人に引き抜かれる形で、入ることになりました。
でも、その方は今いなくなっちゃったんですけどね。(笑)
ーえ、引き抜いてくれたのに?
はい。(笑)
今はコック3人で、料理を担当しています。
僕は副料理長で、名刺には”chef de partie(シェフ・ド・パルティ)”と書いてあります。
ーレストラン以外にもケータリングや間借りでイベントもしているのですね。
はい。この前、大使館関係のケータリングもしました。あとは、上野で芸術の祭典があって、そこにも持っていきましたね。
ー思ったよりフォーマルなところのケータリングを担当されていて驚きました。注文内容とかも細かくありそうなイメージ。
そこにいらっしゃるお客様に合わせて、メニューを考えていきます。
上野でのイベントは、80歳くらいの方とかもいらっしゃったりすると聞いたので、そこに合わせてって感じですね。
料理に付加価値を与えるもの
ー間借りのイベントは、どんなことをしていますか?
先輩が青山の和食屋さんを間借りしていて、その先輩のchef’s eventとして月一くらいでやってます。
ーその先輩も料理人ですか?
いや、会社員です。
飲食店で人をつなげる、みたいなことをしたいという方ですね。
飲食というよりかは、起業とかビジネスに興味がある方です。
先輩は、職業のマッチングサービスのアプリ開発をされていて、それを広めるために、間借り営業をしているみたいです。
料理に関しては、会ごとに僕がメニューを考えています。
ー出す料理は、やっぱりフレンチですか?
フレンチベースのコースを出しています。
基本は僕が作りたいものと、あとは来る人の好みを想像して作っています。
ーお客さんはどんな人が来ますか?
同世代くらいの方が多くて、カップルとかもいます。
こないだは子連れの家族も来てくれました。
ー人と人とのマッチングサービスを提供したい人が主催されているから、参加者さん同士もつながったりしていそうなイメージですが、実際はどうですか?
そうですね。つながってくれている気がしますね!
料理を待ってくれている時とかに話してくれたり。
キャラクター的におもしろい人が来てくれると、その人が回してくれたり。笑
ーイベントしている側からするとありがたい存在ですね!笑
ーそういう人がいなかった時とかは、涼佑くんが場を回したりする?
そうですね。会場が、L字のカウンターで。
お客様との距離が近いので、会話することで、自分との関わりを深くできるのがいいなと思うようになってきました。
ーお客様も楽しんでくれてそうですね。
だと嬉しいですね。
最近思うのは、美味しさの限界値って決まってると思っていて。
めちゃくちゃ高い料理と居酒屋で食べる料理で、確かに美味しさ度合いは変わるかもしれないけど、うん万の価値の違いがあるかって言われたら、そうでもないとも思います。正直。
じゃあ何が価値として追加されているのかと言われたら、説明だったり、食材に対する仕立て、経験、知識だったりだと思います。
そこを大事にしたいと思いますね。
ー確かに、付加価値で差別化するのって大事ですよね。
高価だったとしても、払いたいと思わせられるか。
それは、お客様の経験も合わさって感じてもらえると思いますが、その価値を与えられるようにしたいです。
ーなるほど、そこを追求することで、味が出てきそうですね。
流行りとずっと愛され続けるものの共通点
ーメニューを作っているときに、ワクワクすることや悩むことはありますか?
レベルが上がってくれば来るほど、満足度を上げるのが難しいというか、より新鮮なものを永遠と考えださないといけない、っていうことに悩んだりします。
最初は、たとえばただのカレーライスから始まったかもしれないけど、それを突き詰めていって、もっと新鮮なもの、もっと美味しいものを作って、もっと喜んでもらうにはどうすればいいか?っていうのを考えるのは、楽しいですけど、反面大変です。
そこは、同じ大変さと同じ楽しさが、ずっと並行してありますね。
ー新しさ、というのはどこからインスピレーションをもらう?
自分で、いろんな店に行って経験してみたりとか、あとはもう大SNS時代なので、いつも見てアイデアを探しています。
ー流行っているものもチェックしていますか?
インフルエンサーが撮っている物も、長年あり続けるものも、どっちも見ます。ただ、流行っているものは、そのこと自体ではなく、流行っている本質的な要素が大事だと思っていて。
ーなんで流行っているのかな?みたいな感じでしょうか。
そうですね。
流行っていたとしても、そこにちゃんとした技術が乗っかっていなければ、一生続くものにはならないというか。そこがあれば、自分も取り入れたいなと思います。
一方で、流行ってはいないけど、長く続いているものは、ちゃんとした技術や思いが乗っかっているものだと思うので、どっちの要素も必要だなと思っています。
ーそれを細かく分析している感じでしょうか?
分析という分析はそんなにしていないです。
全部自分のフィーリングとして、受け取っているって感じですかね。
こういうところがいいんだろうな、とかそういう風に考えています。
エブリデイ、人生!
ー先ほどの、人の期待を超えていかなきゃってなった時に、何を考えますか?
お客さんの喜んでいる顔とか、お客さんのことを考えていますかね。
一番はそこです。
それと、自分がこういう技術を持っていたら、もっと喜ばれるだろうなと思って技術を磨くことは常にしています。
お客様が求めているものが、僕がすでにできちゃうものだったら、僕はそれを選ばないですね。身につけてできた料理が「自分が好きなもの」で、それでお客様が喜んでくれる。そこで期待を超えていけるのかなって感じですね。
僕自身、常にステップアップしているという感覚がないと、焦りが生じるタイプかもしれないです。
ー自分の中で焦りが出てきたらどうやって解消しますか?
ひたすら動きますね。焦りがなくなるまで。
とにかく動いて、疲れが出たら、ちょっと休んで、また動き出す。
その繰り返しです。
ー今は、休みという区別はつけてますか?
いや、つけていないですね。
エブリデイ、人生。みたいな。笑
ーエブリデイ、人生・・・!笑
そんなふうに常にインプットしている結果、最近ステップアップしたな、と感じたことはありますか?
技術と仕事の幅が広がりました。
これまでは、お店の中だけだったので、価格帯にあったメニューの考案や技術を身につけないといけなかったんですけど、
今は色々やりたい料理とかもあるので、それを日々作ったりしていると、そこで技術の幅が広がったりした感覚です。
あとは、間借りイベントとか出張シェフとかをやるようになって、人とのつながりもできて、仕事の幅も広がったみたいな感じですかね。
ーいいですね!
料理は味の骨格から組み立てる
ー料理人さんって、初めて作る料理の時とかは、さすがにレシピを見たりするんですか・・・?
レシピ・・・。無視しますね。笑
工程を見るって感じです。
工程を見て、自分の組み立てたい分量で組み立てる、ということをします。
例えば、スリランカ料理とかだと、何入っているかわからないじゃないですか。笑
そんな時は、材料と工程だけ見て、あー多分こういう味の組み立て方だろうな、って想像して、あとはもう自分で、もっとこういう作り方の方がいいんじゃない?っていうので作ったりします。
ーそうなんですね!ってことは、本場のスリランカ料理と味が違っている可能性もある・・?
ありますね。笑
ありますけど、大体多分同じです。材料は同じにしているので。
日本料理で、作り手が違うと味が全然違う、みたいな感じだと思います。
ーなるほど!私はレシピを見ないと作れないので、さすが料理人さんです。
僕も初めはそうでしたよ!
でも調味料の味って分類分けができるんですよ。例えば醤油だったら、塩味、旨味、甘味、みたいな。
その分類が全部の調味料にあるので、それの骨格を掴んで組み立てていくっていう作業ですかね、料理は。
それを言語化したのが、レシピで、料理家は慣れてくると、その分量というよりかは、味のバランスを見て組み立てていく感じです。
ーバランスを調整しているんですね。
お店に食べに行って、料理を食べるときに、甘味がこの辺いて、塩味がこの辺いてとか考えたりしますね。
ー面白いですね!
面白いですよね。底がないので。
人の人生の一部分を垣間見れるのが、料理人
ー料理をやっていてよかったな、と思うことはありますか?
あります!
こないだの間借りのイベントで知り合いがお子さんを連れて来てくれた時とかは思いましたね。
ーどんなふうに感じましたか?
んーやっぱ、人生の一部を見れるんで。料理人って。
誰かの人生のほんと少しだけど、一部になれるっていうか。
そういう場面と出会った時に、いいなって思いますね。
例えば、小学生の頃からの友達が、この歳になって僕の作った料理を食べてくれる時だったり、付き合いの長い友人が、自分の大事な人や子どもを連れてきてくれた時のような、その人の人生を垣間見れる時があって。
そこに自分が良いものを提供できたら、うわ、めっちゃいいなってなります。
ーわー。それはいいですね!
ー自分の中で、いいレシピを作れたとか、美味しい料理を作れた!時とかではなくて、お客さんを目の前にしてる時が一番いいなって思いますか?
あーまあ確かに(美味しい料理が作れた時も)思いますよ!キタって!繋がった!って。
でも一番嬉しいのは、やっぱりお客様との時間を感じる時の方が多いですかね。
ーいいですね!「繋がった」っていうのは、日頃から料理のことを考えていて、ふとした瞬間にこれ合うかも。みたいな感じですか?
そうですね。もう四六時中考えています。
でもそういうのがいいなって思っていて、人生そのものが仕事になるって感じが良さかなと。
歩いてる風景、気候、人との出会い、会話、全部がインスピレーションです。
ー料理だけじゃなくて、生活そのものがヒントなんですね。
そうですね。
こういう”感じ方”になるのってどんな味なんだろう?とか考えます。
ーへえ。例えば、天気が良くて風があって気持ちいい!って感じている時の味ってどんな味かなっていうのを考えるってことでしょうか?
そうです!そういう感情をどうやって皿に落とし込もうかな、って思っています。
気づかれないですけどね。そんなことを考えているっていうのは。
でも、気づいてくれた時に、その人に与える感動は大きいと思うので、そういうのをイメージしながら作っています。
ーそこまで考えているからこそ、感動を与えられて、また涼佑くんの料理が食べたい、ってきっとなるんでしょうね。
ーーー後半へ続く。