21世紀へ #09
次回は、レンタカーを借りて、
僕の運転で、ドライブに行く約束
をした。
僕のいた23世紀には自動車など
という原始的な乗り物は無かった。
ゆえに、23世紀の人間は、この時
代の自動車を運転できない。
移動には、小型のUFOを利用して
いた。
それに対して、電脳世界はとい
うと、文化程度は、だいたい、西
暦2000年あたりで止まっている。
電脳世界で生まれ育った僕は、
車の免許を持っていたし、運転も
していた。
* * *
レンタカーを借りて、元住吉か
ら、車で20分ほどの彼女のアパー
トへ向かった。
アパートの前まで行くと、彼女
は、既に道の脇へ出て待っていた。
僕は車から降りると、彼女のた
めに、助手席のドアを開けて、彼
女を乗せると、自分は運転席に、
素早く戻り、車をスタートさせた。
「わたし、男の人に、車のドアを
開けてもらうの初めて。感激しちゃ
った」と嬉しそうに、話しかけて
きた。
自分では、普通に何も考えない
行動だったが、女の子は、こうい
う所に感激するものなのかと思っ
た。
「そう?」と何気なく言ったが、
少し嬉しかった。
僕が運転する車は浦安の「ねず
みの国」へ向かった。
駐車場へつき、車から降りると、
天気は快晴で、春の日のそよ風が
気持ちよかった。
ここのところ、仕事ばかりして
いて、ワーカーホリックぎみだっ
た。
車から降りて、彼女と手を繋ぐ
と、心がウキウキした。
彼女も嬉しそうだ。二人は手を
繋いで、急いで、ゲートまで行っ
た。
休日は避けて、平日に来たので、
人は少なかった。
一日たっぷりと、二人で過ごし
た後、帰路についた。
車を彼女のアパートの前に横付
けして、停めた。
「今日は、楽しかったよ。ありが
とう」と僕が言うと、わたしも楽し
かったと、言ってくれた。
このまま別れるのは惜しい気が
した。彼女が車から降りようとし
た瞬間、彼女の手を引き、キスを
しようとした。
すると、突然の事に、彼女は驚
いたらしく、身を引いた。まさか
の、この展開に僕はあせった。
「あ、驚かせてごめん。ちょっと、
軽くキスするだけだから。僕が嫌
いなの?」と、聞くと彼女は、
「ううん」と頭を横に振った。
「急だったから、驚いただけ」
と言って、瞼を閉じた。
柔らかそうな彼女の唇に、軽く
キスをした。
キスが終わった後も、彼女は目
を閉じて、しばらく、ぼーっとし
ていた。
「じゃーね」と僕が言うと、はっと、
我に返り、「うん」と言って、彼
女は車から降りた。
* * *
仕事での、僕と彼女はクールな
間柄だった。話あった訳ではない
が、そこは暗黙の了解で、仕事と
プライベートを分けて、つき合っ
た。
一方で、仕事のほうは順調に続
いていた。
商品が世に出るのも、あと僅か
だ。絶対に売れると、自信があっ
た。
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