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中学のブラスバンド部の思い出 #09

                        テール

◆音符忘れ事件

 ブラスバンド部では、夏に行わ
れるコンクールの県大会に向けて、
課題曲の練習をしていた。

 いよいよ、その県大会の当日だ。
 僕にとっては、初めてのコンクー
ル出場だ。

 会場の文化センターへ着くと、音
合わせを行う。会場の広場では、他
校の生徒も事前に音合わせを行って
いた。

 そこで、事件は起こった。
 先輩が音符と譜面台が無いという
のだ。

 顧問のI先生は、僕に聞いて来た。
「トロンボーンの音符と譜面台が無
いと言っているが、お前、持ってこ
なかったのか?」
「僕は自分の分は持ってます」
「先輩の分は持って来なかったのか?」
「はい」と答える僕。
「ええー?」驚いたように、I先生
はいう。
「しょうがないなぁ。音符なしでも
演奏できるか?」と、I先生は困っ
た様子で先輩に聞いた。
「はぁ……。無くても演奏できます
が……」
先輩の返事を聞いたI先生は、「や
はり、無いとダメだな。T先生に車
を頼むから、急いで戻って音符を取っ
て来なさい」
と、僕に言った。

 どうやら、音符と譜面台の持ち運
びは一年生の担当だったらしい。
僕はそのことを、先輩からも同級生
の誰からも聞いていない。

 音符が無いと騒ぎだして、初めて
知った。そんな訳だから、当然、
自分の分は持っているが、先輩の分
は持っていない。楽器と一緒で各自
が持って行くものと思っていた。

 この時、そんな事は聞いていない
と言うべきだった。
気の弱い僕は、言い訳を一言も云え
なかった。

 車で往復、50分。
今、取りに戻れば、なんとか本番
前には戻れる時間帯だった。
 急いで、一緒に付き添って来た
男のT先生の車へ乗って、学校ま
で、音符と譜面台を取りに戻った。
 車の中では、T先生と一言も
話さなかった。
 学校へ着くと、急いで、譜面と
譜面台を持って、会場へ戻った。
 何とか、本番演奏前には戻れた。

 後に、T先生の算数の授業で、
この事件を、クラスのみんなの前
で暴露された。
「なにも、授業中にそんな話を
暴露しなくても良いではないか」
とおもった。
T先生は僕に向かって、バカにし
たように、「なあ。そうだよなぁ。
『オンプー』」といった。
 それを聞いて、クラスのみんな
は大爆笑した。

 このT先生は、受けを狙って、
僕にあだ名を付けて、「オンプー」
と呼んだのだ。音符とプー太郎を
かけ合わせた、あだ名だった。
多分、良くできた、あだ名だと自
負していたに違いない。

 このT先生は、自分の授業中に、
あくびをする生徒を見つけては、
「そこ!アクビ!」と言って、
チョークを投げて、アクビをして
いる生徒に命中させるのが得意だっ
た。生徒の受けを狙っていたに違
いない。
 そのたびに、みんなは「あはは」
と笑った。
 アクビは生理現象だから、仕方
がないと思うのだが……。

 これは僕の勝手な憶測だが、ア
クビをしている最中に、口の中に
チョークが入った生徒もいたに違
いない。

 中学の男の先生の中に、尊敬で
きる大人はいなかった。

        つづく

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