YC史上初の交流イベント「YC Retreat」に参加してきました / 「YC Retreat」から考える起業家にとって必要なネットワークについて / YC参加レポート#2
2021年の2月から、起業しようと考えている方、独立や副業に興味がある方に向けたPodcast「START/FM」をスタートさせました。こちらのnoteでは過去の放送からインスパイアされた内容をお届けしていきます。
第2回となる今回も、引き続きYC特集です。6月にサンフランシスコで行われた「YC Retreat」というプログラムに参加してきましたので、その内容、そしてそこから僕が考えた起業家にとってのネットワークの必要性についてお伝えしていきます。
3泊4日の起業家交流プログラム「YC Retreat」
通常、YCのプログラムはサンフランシスコに参加者を招き、数ヶ月間に渡ってリアルで行うものでしたが、コロナウイルスの感染拡大のため2020年よりオンラインへと完全移行しました。テイラーが現在参加している「YC Summer 2022 Batch」はリアルイベントが3年ぶりに導入され、オンラインとオフライン、ハイブリッドのプログラムになっています。
私が6月に参加した「YC Retreat」は、実はYC史上初めて開催されたプログラムです。“Retreat”というと楽しくワイワイする慰安旅行のような意味合いに聞こえるかと思うのですが、これは起業家同士の交流を目的としたプログラムです。
今回は、Batchの総数が約250社。一社につきファウンダーを平均2人とすると、対象者は約500人程になります。それを二組に分け、各回約250人の起業家が一同に集うというかなり大規模なイベントです。
ナパバレーの隣の地域のソノマという街にあるホテルに参加者が集まって3泊4日のプログラム期間中、ひたすら交流をします。この季節のソノマは雨が降らず、気持ちのいい気候で、ホテルのガーデンスペースで立食パーティーをしたり、ハイキングに出かけたり、その多くは野外で行われるものでした。
起業家には、冷めたピザとコーラで十分?
「YC Summer 2022 Batch」の多くのプログラムはオンラインで行われています。そんな中、時間とお金と労力をかけてソノマで集まっているのは、YCが起業家同士の交流に重きを置いているからでしょう。
1日目から交流を目的としたイベントが始まり、それがRetreat期間中ずっと続きます。「交流イベント」といっても、食事やドリンクが立食形式で提供されるセッティングのもと、レクチャー形式のコンテンツはごくわずかで、基本的には自分から話しかけていって仲良くなりましょうという形式です。悪く言えばずっと放置です(笑)。参加者の国籍は欧米圏の方々が中心です。コロナによる出入国制限などの影響か、東アジアと東南アジアはほとんど参加しておらず、私が会った限りでは当社だけでした。僕を含め、日本人はなかなか苦手な環境ではないかと思われます。
そこで話されるのは事業の話題です。「どんなスタートアップをやっているの?」「その事業はどんな課題を解決しようとしているの?」など参加者が代わる代わる会話をしていきます。「YC Retreat」中で半数の方と話をしたので、100回以上は自分のスタートアップの事業の説明をしました。物凄く凝縮されたエレベーターピッチのトレーニングのような体験でした。
2日目、3日目には「Unconference」というミニ発表会のようなコンテンツが開催されました。実績のある人が予め決まったトピックを語る「Conference」に対して、例えば、「90年代の音楽産業について」「機械学習は汎用人工知能に到達するか」「ホワイトハッカーのハッキング武勇伝」など、自分のスタートアップと直接関係ないが自分が詳しいテーマを、参加者の中で希望者が発表するコンテンツです。
マイクもスライドも無く、原稿なしスピーチをするというカジュアルなもので、学びを得るためではなく、会話の種としてネタを放り込むためのものでしょう。「Unconference」以外の時間は、ハイキングに出かけたりするなど、場を変えながらではあったものの、やはり交流の時間には変わりありませんでした。日本で例えるならば、一次会、二次会、三次会、のように延々と飲み会が続いていくというイメージでしょうか。
米国のスタートアップイベントはピザとコーラのみ提供される、みたいなイベントが多いので、参加者にとっては非常に豪華なイベントだと受け止めていたようです。国際比較すると、日本のスタートアップイベントはぜいたく過ぎるのかなとも感じました。
「YC Retreat」で重要なのはそこで得られる実体験でしょう。本当に面白いバックグラウンドの方々が参加していて、おそらくここから未来のユニコーンが誕生していく――。そんな人たちと話しながら、刺激的な時間を過ごすことが出来ました。
起業家に必要なライバル意識と仲間意識
では、なぜここまで交流を重視したプログラムが用意されたのか。YCの意図を推察するに2つ理由があります。1つは「ライバル意識を持たせること」でしょう。
Retreatの会場には20代の初めての起業家から、大学生からバイアウトを経験している起業家まで様々な人間が集います。若いから、経験がないからといって誰も下駄を履かせてもらえるわけではない。そんな場に身を置くことは当然ストレスフルでもありますが、一方でストレッチできる側面もある。アスリートがトップクラブに所属したいと考えるのと同様に、レベルの高い環境に身を置いて、ライバルの存在を肌で感じることはステップアップするためには必要なことだと思います。
もう1点は相反するようですが、「起業家同士のネットワーキングを通じて仲間意識を育むこと」でしょうか。
起業家というのは、実はとても孤独な職業です。メンバー、投資家、クライアント、パートナー企業――、様々な人とのつながりが求められるのが起業家ですが、いずれも利害が生まれる関係です。そのため、相談出来る相手はごく少数に限られます。そのうちの一つが他社のファウンダーでしょう。ファウンダー同士でしか話せないことは、実はすごく多いと思います。例えば他愛ないような悩みでも、「自分と同じような悩みを抱えているんだな」と安心することもあるでしょう。
その他にも「採用どうしてる?」「◯◯を決める時、どれぐらいの時間をかけている?」「この手のサービスを契約するならこの人に頼むといいよ」のように、一般には公開されていないけれど、知っているか知らないかで結果が変わる情報の交換などはファウンダー同士ではよく話をします。
大抵のスタートアップはサービス同士で競合しているわけではありません。なので、ライバル意識を持ちながらも協力し合っている側面が大いにあるのです。
「セールスに行かないチームに成功はない」
起業家は活発に交流するタイプと、プロダクトにひたすら向き合うタイプ、両者がいると思います。交流が目的化したら本末転倒ですが、一方で「プロダクトに集中するからコミュニケーションはいらない」、というのも非常にもったいないなと感じます。なぜなら、“人に話してフィードバックを得る”というのが成長のスピードを上げるための正攻法だからです。
YCの教えに「積極的にセールスに行かないチームが成功した例はない」というものがあります。プロダクトを磨いているだけではなく、積極的に人に見せ、売り込んでいく姿勢がなければ大成はしないのです。
また、組織づくりや採用、広報といった課題はどのスタートアップも直面するもの。多くのスタートアップがそうした共通の課題に取り組む中で、自分だけが見つけられる解決策というのは存在しません。そうした情報やノウハウは、上手くいっている同時代のスタートアップから吸収するのが効率的でしょう。むしろ、そういったネットワークによる恩恵を得ずに起業するというのは、とてもハードなことだと思いますね。
ファウンダーは答えがわからない問い、あるいは答えのない問いに対して、非常に断片的な情報から意思決定をしていかなければなりません。直接的に答えが得られなくとも、多くの情報を得ることが未来への布石となる場合もあります。
同時代の起業家が世の中をどう見ているか。どんな課題に直面していて、何に悩んでいるのか。あるいは、自分のアイデアを他の起業家に話した時の反応など。同時代に違うステージで活躍している人には話すだけで学べることがある。生のデータが取れたことが「YC Retreat」に参加して得られた何よりの収穫です。
次回は、YCの選考面接に参加して感じたこと、YCの歴史と創業者たちについてご紹介します。興味のある方はぜひnoteをフォローしてください。
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