なぜHeadlessなのか(2023/1Q振り返りに代えて)
こんにちは、テイラー共同創業者の柴田です。
早いもので、Headless ERPの事業が本格化してから1年が経ちました。
今回は、よく面接などでご質問頂く「なぜHeadlessなのか」という点について書いていきたいと思います。
そもそもHeadlessって何?
Headlessというのは、エンドユーザー向けのGUIがない(少ない)製品のことで、利用者側で自由にGUI等をカスタマイズして使ってもらうことを設計時から意図した製品を指します。ここでの"Head"という単語は"顔"といったニュアンスで、"カオ"+"ナシ(-less)"の製品と脳内変換するとわかりやすいと思います。
ShopifyがHeadless Commerceと呼ばれているのが、わかりやすいHeadlessの事例になります。
テイラーがHeadless ERPを提供するのは、業務ソフトウェア界に以下のような変化が起きていくと考えているためです。
業務向けソフトウェアにおけるフロントエンド開発の平易化
アプリケーションにアプリケーションを組み込む必要性の高まり
AI as an Interface
2023年3月の今日現在、このあたりの変化がだいぶ現象面でも見えやすくなってきたように感じるので、1つずつ解説していきます
業務向けフロントエンド開発の平易化・ローコード化
Retool.com というサービスをご存知でしょうか。2015年に開発された
Retool(リトゥール)は、開発者が効率的にカスタム内部ツールを構築できるように設計されたウェブベースの開発プラットフォームです。(ちなみに、Yコンビネーター Winter 17の会社です)
Retoolは、データベースやSaaS/PaaSなどさまざまなデータソースと簡単に接続し、データをGUIに表示できる豊富なビルトインコンポーネントを提供しており、開発者はドラッグアンドドロップのインターフェイスを使用して独自のアプリケーションを構築できます。
Retoolの主な機能:
可視化ビルダー:ドラッグアンドドロップのインターフェイスを使用して、迅速かつ簡単にツールを構築できます。また、React.jsベースのコンポーネントも利用できます。
データベースとAPIの統合:Retoolは、多くのデータベースやAPI(REST、GraphQLなど)と統合できます。これにより、ツールはデータを取得、更新、削除、および操作できます。
JavaScriptでのカスタマイズ:Retoolは、JavaScriptを使用してロジックを追加およびカスタマイズできます。これにより、複雑なユースケースにも対応できます。
ヘルプセンターの従業員が使う社内ツールなどが代表的なユースケースのようですが、Retoolを使用すると、企業は内部ツールの開発時間を大幅に短縮し、エンジニアのリソースをより売上貢献する方面に振り向けることができる、というのがRetoolが訴求しているベネフィットです。
このツールに代表されるような、フロントエンド用のクラウド開発環境やコンポーネントライブラリ、組み込み関数ライブラリなどのプラットフォームは非常に増えてきています。
同時に、このようなコンポーネント化されたビルダーは、GenerativeAIと相性が良く、Retoolもおそらく数週間のうちに、大部分をAIが設定してくれるような機能を提供すると想像されます。あるいは、Retool以外にも、GenerativeAIをベースにした、新しい世代のフロントエンドローコードが登場することも間違いないでしょう。
"We think the future of coding is no coding at all,"
「コーディングの未来は、全くコードを書かないことだ」
GitHub創業者のWanstrath氏は、2017年の時点で、「コーディングの未来は、全くコードを書かないことだ」と話していますが、彼がアクセスできる人脈・情報を前提に考えれば、Github co-pilotを含め、いま起きている変化を予見する材料をすでに持っていたということでしょう。
フロントエンドの開発効率が向上すると、「色々な顧客ニーズ、シナリオに対応できるよう、1つの製品の中に様々なGUIを用意しておこう」から、「顧客ごとにGUIを作成(生成?)しよう」が最適になる可能性があります。作り置きではなく、注文を受けてから作っても十分に速いし安い、という場面が特にエンタープライズを中心に増えてくると考えています。
アプリケーションにアプリケーションを組み込む必要性の高まり
企業がデジタル化を進めるにつれ、大企業が利用するアプリケーション数は増える傾向にあります。
例えば、2020年のOkta社による調査では、大企業は平均で175個以上のアプリケーションを使用しており、前年比で6%増加しています。この傾向は今後も続くと予想されます。
大企業が利用するアプリケーションが増加する原因は、
デジタルトランスフォーメーション:企業はデジタル化を進め、業務を効率化し、顧客体験を向上させるために、ますます多くのアプリケーションを導入しています。
クラウドサービスの利用拡大:クラウドサービスが普及し、低コストで利用できるようになったことで、企業はさまざまなアプリケーションを導入しやすくなっています。
オンデマンドソフトウェア(SaaS)の増加:SaaS製品が増えることで、企業は独自のインフラを構築せずに、必要な機能を持つアプリケーションを手軽に導入できるようになりました。
など様々です。
この副作用として、セキュリティリスクとともに、アプリケーションの統合と管理に関する課題や、情報のサイロ化に関する課題が大きくなっています。
特に、アプリケーション間のデータ連携は、企業がアプリケーション数を増やすたびに、アプリケーション間のデータ連携が複雑になります。具体的には、企業が新しいアプリケーションを追加するたびに、既存のアプリケーションとの間でデータを連携させる必要が生じます。
アプリケーションがN個ある場合、それぞれが他のすべてのアプリケーションと直接データ連携を行うと、連携の数はN×(N-1)/2になります。これは、アプリケーション数が増えるごとにデータ連携の数が指数関数的に増加することを意味します。例えば、アプリケーションが4つある場合、データ連携の数は6つ。アプリケーションが5つになると、データ連携の数は10に増加します。
そのため、企業は、アプリケーション間のデータ連携を効率的に管理するために、APIやデータ統合プラットフォームなどの技術を活用することが重要になってきています。
また、複数のアプリケーションを併用するのではなく、あるアプリケーションに別のアプリケーションを組み込むような使われ方が増えています。Embeded XXXといった製品が最近増えている背景にはこのような事情があります。
例えば、バリデーション付きCSVアップローダーという(単純そうでいて開発が面倒な)機能を、Embedded CSV Uploaderとして提供しているOneSchemaというサービスが伸びています。
元々は、単体のCSVフォーマッタのスタンドアロンアプリケーションとして開発されていましたが、CSVを取得してくる前工程の部分や、フォーマット化されたデータを他のアプリケーションに投入する後工程の部分に対するニーズが大きかったため、後工程側のアプリケーションに組み込めるように進化しました。
今後このような複数のプロダクトを連結して使うような製品が増えると思います。
AI as an Interface
“I knew I had just seen the most important advance in technology since the graphical user interface.”
(GPTは)グラフィカルユーザーインターフェース以来のテクノロジー進化だ
Microsoft創業者のビル・ゲイツが、先週投稿したAIについてのブログ記事が話題になっていますが、彼がAIを「GUI」と対比させて語っていることに注目してください。
対話型のインターフェイスの歴史については、こちらの記事が面白かったですが、Google AssistantのようなChatbotや、Siri/Alexaのような試みを経て、ChatGPTにおいてようやくが、一般ユーザー向けに受け入れられる閾値を超えたように思います。
ここから、ビジネスユースケースにおいても、消費者向けユースケースにおいても、対話型のインターフェイスが爆発的に広がるものと思います。
加えて、インプット<>アウトプットにおいて、文字<>文字だけでなく、マルチモーダルと言って、絵や写真、図表、音声、動画などを入出力に使えるようになるため、ユーザー体験の大きな転換点になると考えています。
ビジネスアプリケーションについては、例えば以下のようなシナリオが、変化としてわかりやすいのではないかと思います。
シナリオ1
SFA等の商談を蓄積していくツールを例にとると、商談記録を、営業スタッフが、Web/アプリのフォームを通じて入力するのではなく、商談のレコーディングから自動的に商談のサマリーを作成する。また自動的にタスクリストを作成する。そのため、GUIの入力フォームは、なくなるとまではいかないが以前ほど頻繁には使われなくなる。
シナリオ2
「KPIダッシュボード」のような、BIツール等を使って作成した複数のレポートで、KPIをモニタリングするのではなく、「営業会議の資料を作って」「先月の粗利率低下の理由はなに?」等のプロンプトによりオンデマンドで分析レポートを生成する。そのため、(従来的な意味において)インタラクティブな、ある種の「巨大ピボットテーブル」ツールの役割は、より専門的・分析的なユーザーのためのツールとなっていく
もちろん、既にOCRなどについては既に大規模に商用化されており、転記フォームが不要になったという意味でシナリオ1が実現しているケースといえるでしょう。
上記のような変化はいずれも、従来的な意味でのGUIクライアントに大きな変更を迫るものです。また、アプリケーション固有のクライアントが必要ではなくなるケースすら出てくると考えられます。(実際に、CLI(コマンドラインインターフェイス)は、アプリケーションが変わっても固有のクライアントは必要ありませんし、OpenAIの戦略としては、AppleがiOSを抑え、Googleがブラウザを抑えにいったように、共通のインターフェイスを介したアプリストア戦略をとっているようにも思えます。
まとめ
まとめると、下記のようなトレンドがある中で、Headlessというプロダクト思想はますます当たり前になっていくと考えています。
業務向けソフトウェアにおけるフロントエンド開発の平易化
アプリケーションにアプリケーションを組み込む必要性の高まり
AI as an Interface
Headless ERPがいつの日か、当たり前の設計思想になりただの「The ERP」になるよう、その流れを加速させるべくプロダクト開発に取り組んでいきます。
さいごに
テイラーでは、エンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャー、事業開発、コーポレート系などすべてのポジションで採用を行っております。転職意向のある方は採用チームへのコンタクトを、情報だけフォローしておきたいという方はTwitter、Podcast、Noteのフォローをよろしくお願いいたします。