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知らない間に親孝行をしていた話(実話)

もう随分と前ですが、ある寒い12月の夜に私の所属する会社のメンバーとお客様とで忘年会を行う事となり、新橋駅前にあるSL広場でお客様が到着するのを待っていた時の話です。

私と同じ会社のSさんとで仕事の話をしながらお客様を待っていると、SL広場の真ん中で街行く人々にインタビューをしているNHKの取材班を見つけました。

「Sさん、あんな所でNHKの撮影をしていますよ。さすがサラリーマンの街、新橋ですねぇ~」みたいな事を話しながら、しばらくNHKの取材班を見ていると、インタビューアーのお姉さんと目が合ってしまったのです。距離にして30mくらいでしょうか。次の瞬間、NHKの取材班が一直線にこちらへ向かって来るではありませんか!

「Sさん、NHKの人たちがこっちへ向かってきますよ」と、私がSさんに話しかけようと左隣りを見た時、Sさんの姿はそこにはありませんでした。

「あいつ逃げた!」と思った矢先、既にNHKのお姉さんが私の目の前に立っていたのです。突然「お時間よろしいですか?」と聞かれ、単に人を待っていて時間をもてあましていた私は「はい」としか答えるしかありませんでした。そしてお姉さんは「派遣切りについてどう思われますか?」と間髪入れずに聞いてきたのです。

当時、派遣切りという言葉が流行っており、サラリーマンの街で話を聞くにはピッタリのテーマだったのでしょう。私はインタビューにこう答えました「派遣切りという物騒な言葉が横行している昨今、切られない様に会社で一生懸命がんばっています(実は正社員だけど)。おかげさまで今年は家も買ったし車も買ったし、大変充実した1年でした。これもひとえに支えてくれた仲間がいたからです。来年も引き続き頑張っていこうと思います!ありがとうございました!」

そしてインタビューが終わりNHKの取材班が去って行った瞬間、Sさんは何事もなかったかの様に私の左隣りへ戻ってきたのです。「インタビューで何を聞かれたんですか?」と言われたので、どんな回答をしたか正直に話したところ、「その内容だったらきっとカットされますよ。例えば派遣切りにあって家も家族も失い悲惨な状況です。誰か助けて下さい。みたいな事を言わないと。視聴者はそういうのを求めているんですから」なんて言われてしまいました。

へぇ~そうなんだ。今度インタビューをされた時は悲惨な事をたくさん言おうと考えていたら、いつのまにかお客様が待ち合わせ場所へ来られていました。実は私がインタビューを受け始めた頃には既に到着し、私がインタビューを受けている様子をSさん共々みんなで笑って見ながら写真も撮っていたそうです。恥ずかしい。


~ それから数日後 ~


ある天気の良い土曜日の事でした。私はいま埼玉県に住んでいますが、仕事が忙しくて長年連絡をとっていなかった大阪の実家にいる母親から、珍しく電話がかかってきたのです。

こんなタイミングでの電話って、何か不幸でもあったのだろうか?と思いつつ恐る恐る受話器をとってみたら、すごく元気のいい母親の声がしました。

「あんた見たでー!ビックリしたわ!テレビに出とったやないの!元気そうで何よりやわぁ」

と。

母親から聞くところによると、私がテレビに映っているのを最初に発見したのは弟だったらしく、以下の様なやりとりがあったそうです。

弟:「お母さん!、このテレビに映ってるのお兄ちゃんと違うか!?」
母:「そんな訳ないやろ」
弟:「これ見てみ!早く早く」
母:「ホンマや!!」

まさかあの時のインタビューが放送されてて、それを実家の母親が見ていただなんて(私自身は放送予定日を聞いていなかったので、実際の映像を見ていませんが・・・)
たぶんオンエアされたのは、ほんの少しの時間でしょう。その映像をたまたま見たというのは奇跡としか言いようがありません。

インターネットも入っていない私の実家はLINE通話やWebミーティングみたいなものとは縁遠く、たまたまつけたテレビに息子が映っている姿はさぞかし嬉しかったでしょう。公共の電波を使って母親に元気な姿を見せてしまってスミマセン。そしてありがとう!思わぬ形で親孝行する事ができました!

世の中、何が起こるかわかりませんね。日常という名の目の前の奇跡。




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