これがSNSマーケティングの「真髄」。SNS運用が上手い企業アカウントを解説します
デジタルマーケティング施策の一環として、SNSマーケティングを実施する企業が増えてきました。昨今のトレンドといえば「バズ」です。インフルエンサーを起用したり、企業同士がコラボしたり、話題をつくって拡散を狙う事例が散見されます。
しかし「バズ」は、SNSマーケティングの本質的な施策ではありません。なぜなら、どれだけコンテンツが拡散され、PVが伸びたところで、企業商品(=ブランド)にファンが付くとは限らないからです。
バズはあくまで「イチ施策」であり、定常運用こそが、SNSマーケティングの「真髄」です。
SNSマーケティングを紐解く「3Hコンテンツストラテジー」
情報過多なこの時代、消費者にとって価値のない情報は淘汰されていきます。つまり、消費者にとって価値のある情報でなければ、いくら発信活動を行ったところで意味がありません。
では、「消費者のとって価値のある情報」とは、どのようなものなのか。
ターゲットのインサイトを捉える方法として、グーグルが提唱する「3H(スリーエイチ) コンテンツストラテジー」が参考になります。
3Hとは、YouTubeの視聴傾向を分析し、企業・ブランドにとって役に立つであろう「3つの方向性」を整理したものです。
・Heroコンテンツ(多くの人々が持つ人間の普遍的な欲求を刺激)
参考動画:ダヴ「あなたは自分が思うよりもずっと美しい」
・Hubコンテンツ(生活者ごとの興味関心に沿ったカテゴリー)
参考動画:ネスレ日本「『docello クレームブリュレ』の作り方」
・Helpコンテンツ(具体化したニーズに対する的確な回答)
参考動画:au「動画ガイド」
グーグルの考え方を参照するなら、多くの人が共感できるコンテンツ(Hero)か、生活者ごとの興味関心に沿ったコンテンツ(Hub)か、消費者の顕在化したニーズに応えるコンテンツ(Help)でなければ、見向きもされないということになります。
また僕は、「3つのH」のなかでも、動画マーケティングの本質はHub動画かHelp動画にあると思っています。なぜなら2つのコンテンツは「繰り返し閲覧されることを前提にした」ものだからです。
Heroコンテンツは、コアなターゲット以外も巻き込むことを想定した動画です。拡散を狙い、サービスの認知度を引き上げることには一役買いますが、たとえ一度バズを起こせたところで、継続的に視聴されなければ大きな効果を発揮することはありません。
バズによって流入したユーザーが、過去の動画を視聴してファンになるか、もしくは新規ユーザーをファンに変えていく地道な活動なくして、SNSを基軸にしたマーケティングは成功しません。
「情報過多の時代」は、「消費者とコミュニケーションを取り続けなければならない時代」とも言い換えることができます。次々に新しい情報が生まれ、消費者の興味が移ろうこの時代は、ファンを獲得し、ファンを育て続けることが、マーケティング活動における最重要課題です。
「そんなの“当たり前”ですよ」と思う方もいるかもしれませんが、よくよく考えてみてください。
最近話題になったSNSマーケティングの事例を振り返ってみると、この“当たり前”を当たり前に実行できている企業は、ほとんど存在していないという事実に気がつくと思います。
実名公開は避けますが、昨今注目を集める企業のSNSマーケティングのほとんどはHeroコンテンツです。タレントを立て、企画を打ち、数万〜数百万PVを叩き出すコンテンツはあれど、企業商品にファンが付くことに貢献できているのかといえば、そうではない。
「マーケティングに失敗している」とまでは言いませんが、本質的な成功とは呼べない事例に溢れかえっています。
また、HeroコンテンツをHubコンテンツやHelpコンテンツだと勘違いしている広告代理店も少なくありません。
たとえば巨額の制作費を用いたキャンペーン動画を数本制作し、Adを回してPVを稼ぎ、波を起こしただけなのにも関わらず、それを「Hubコンテンツの成功事例」だと当たり前に宣言しているケースが散見されます。
上記の例は、「ツイートがたまたまバズったが、定期的にためになるツイートをしているわけではないので、フォロワーが増えることはない」ツイッターアカウントと同じです。
ツイッターを例示するとわかりやすいので、一つアカウントを紹介します。転職と副業のノウハウを日々発信しているmotoさんという方です。
彼のツイートはバズることが多々あり、認知度が日に日に高まっています。また、有益なツイートを日常的にしているため、バズで流入してきたユーザーがフォローをし、繰り返し彼の情報を見にいく。転職と副業に関心のあるユーザーが彼の周囲にたくさんいます。彼のツイートはフォロワーにとって「Hub」であり「Help」なのです。
森泰輝が考える、SNSマーケティングが上手い企業
前提が長くなりましたが、上記を踏まえた上で、僕が考えるSNSマーケティングが上手い企業を発表していきます。
SHARP
まずは、SHARPのTwitterアカウントです。
人は人間らしいものに興味を持つので、無機質なプレスリリースを繰り返したところで、ファンは育ちません。そうした背景を理解し、SNSマーケティングに成功しています。
絶妙にシュールなコメントで人気を集め、現在(12月29日時点)のフォロワー数は約63万人。インフルエンサーとして生計を立てれるレベル。
僕が秀逸だと感じたのは、フォロワーのリプライに対し、潔すぎるくらいの対応をしているところ。オススメのゲーム用モニターを尋ねられ、「他社製品のほうが良い」ときっぱり。フォロワーからの信頼を集め、中の人の人格に共感が集まっていくこの運用は、SNSマーケティングの真髄だといえます。
ニッカウヰスキー
続いて、ニッカウヰスキーのTwitterアカウント。SNSの特性を活かした巧みな運用で、フォロワー数50万人を超えています。
ウイスキーに合う食べ物や料理のレシピを平日毎日更新していて、ツイートには1,000〜10,000のエンゲージがあります。
キャラクターを擬人化し、なおかつ話し言葉を利用することで、友人のような親しみやすさを演出しています。
この運用方法は、近代マーケティングの父・コトラーが2010年に予見した“人間中心のマーケティング合致するもの。コトラーは、デジタル化が進んだ世の中において、ブランドが“完璧”を演じる時代が終わり、人間らしく振る舞うべきだと説いています。
バーガーキング・ジャパン
先日、「バーガーキング下北沢店作ってくれや」というツイートに「作ってんで!オープン初日にお待ちしています。」とリプライし、その一連の流れを実店舗に掲載してバズっていましたね。
オープン後はバズを見ていていた人たちが店舗に訪れ、その様子を写真付きでツイートしていました。見事なSNS施策です。
バーガーキングは以前から、SNS施策が「ことごとく当たる」企業。マクドナルドに敵対心むき出しの「お詫ビーフ」広告や、ハロウィンに合わせ、ゾンビ向けの新店舗「バーガーキング SHIBUYA GHOST STORE」をオープンするなど、話題作りが非常に上手です。
定常運用(クーポン配布と新商品紹介)とバズ(キャンペーン)をうまく掛け合わせている、SNS運用の鏡ともいえるマーケティングです。
Kastane(カスタネ)
カスタネのことは存じ上げていませんでしたが、若者コンサルを行うneorareから情報提供をいただきました。
同ブランドは、店舗スタッフが個人アカウントとしてブランドをPRするなど、Instagramの運用に長けています。
現代は「企業よりも個人が興味を持たれる時代」です。「中の人が見える」「顔出し」が重要なのはそうした理由から来ていますが、カスタネ(スタッフ)のInstagramはそれを体現しています。
また、“企業アカウント感”が出ないよう、しっかり商品に関係のない写真も投稿しています。アパレル企業は商品だけでなく、雰囲気や世界観を売る商売。個人を広告塔にすることで、商品の魅力がより伝わりやすくなっています。
(*結果的にカスタネのPRになっているだけで、最初から個人アカウントとしてスタートしているかもしれません)
feast・illuminate(ハヤカワ五味さん)
こちらも企業アカウントではなく、そのまま個人アカウントですが、ハヤカワ五味さんを紹介させてください。
彼女が手がけるブランド「feast」の原点にあるのは、コンプレックス。つまり、カスタネと同じアパレル業界でも、売っているものが違うわけです。
コンプレックスをベースにした商品は、創業者(プロデューサー)の熱意が、同じコンプレックスを持っている人たちに届くことが何より重要です。創業者の語ることが、ブランドの全てになります。つまり、創業者が、いかにブランドの顔になれるかが大事。
ハヤカワさんは常々自分が持つコンプレックスに言及していますし、それをどうやって超えていくか、そして同じコンプレックスを持つ人たちに向けた発信をしています。
優秀な経営者でいらっしゃいますから、もちろんマーケティングも意識されているはずです。ただ、本当にコンプレックスがあるからこそ、嘘のない言葉になる。そこに共感が集まり、商品が売れていく流れは、SNSマーケティングのあるべき姿ではないかなと思います。
ケロッグ
最後に、おまけです。M-1グランプリで優勝した「ミルクボーイ」が、コーンフレークをネタにすると、ケロッグのSNS運用担当者が即反応。ツイートは、4.4万RT・14.4万いいねを獲得しています。
ツイートが拡散されると、今度はコーンフレークを1年分プレゼント。ミルクボーイのお二人が拡散し、タイムラインは数日間、コーンフレークの話題で持ちきりです。
番組内での発言はある意味、イジリとも取れる内容でしたが、大人な対応したことで消費者からの好感度も爆上がりしたはず。アカウントの運用担当者は本当に優秀な方だと思います。
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以上、駆け足でしたが、6つのアカウントを紹介しました。2020年は今年にまして、SNSマーケティングが活発になっていくでしょう。
また、動画共有サイト「YouTube」を起点にしたマーケティング活動も本格化する見込みです。運用の参考になる企業チャンネルをまとめているので、こちらも併せてご覧ください。
編集協力:オバラ ミツフミ(@ObaraMitsufumi)