スタートアップの経営、もうやめます。
2020年10月23日に株式会社VAZの代表取締役を退任してから、今日までずっと、自分が主戦場としてきた「SNSマーケティング市場」の未来を考えてきました。
歴史を遡り、プレイヤーとして戦ってきた過去を反芻して得られた反省と学びを組み合わせ、数年先の未来を推察していると、僕なりの解を導くことができました。
結論からいうと、ようやく短尺動画の時代が到来します。
ついに到来する、短尺動画の時代
僕は5年以上前に、短尺動画の可能性に賭けてプロダクションを立ち上げました。
しかし、なかなか事業を伸ばせず、事業モデルを軌道修正した過去があります。
ただ、ようやく潮目が変わりそうです。
長らく動画市場のトップに立っていた「長尺動画プラットフォーム」は、1つのコンテンツに詰め込める情報量が非常に多いため、視聴者のエンゲージメントを高めやすい。
そうした理由から、多くのプレイヤーが参戦し、瞬く間に成長を遂げました。
一方、短尺動画は拡散性に優れていてトラフィックを集めやすいものの、視聴者のエンゲージメントを高めにくい。
長尺動画の前に、なすすべもありませんでした。
苦戦するショートムーバーを尻目に、YouTuberの社会的知名度はみるみる上がっていき、「なりたい職業ランキング」にランクインするようになりました。
大人たちから“偽物”と揶揄されたYouTuberですが、今や市民権を得て、“稼げる職業”としても注目を集めています。
ただ、結果として競争が激化し、「発信者の数(=コンテンツの総再生時間)」が「視聴者の可処分時間」を遥かに超えるようになりました。
つまり、「需給バランスが崩れた」ということです。
視聴者にとって「有象無象のYouTuberから、自分の好きな動画を見つける」作業はあまりにも非効率です。
従って、これまでは当たり前だった「YouTube上で新しいタレントを探す」というユーザー行動は起こらなくなっていきます。
新参者が視聴者に見つけてもらうのは、非常に困難です。
今後は、新しいスターが生まれにくくなっていきます。
文字通り先行優位の市場となり、今後ますます新規参入ハードルが上がっていくでしょう。
しかし、そんな時代だからこそ、短尺動画に視線が集まります。
これから始まるのは、一度は完敗した短尺動画プラットフォームの逆襲です。
特に注目すべきは、TikTokです。潮流を上手くとらえており、凄まじいポテンシャルを秘めています。
既にグローバル規模のSNSであることはご存知だと思いますが、改めてその凄みを説明します。
まず、フィード設計が「フォロー」でなく「おすすめ」が中心になっていること。そして、動画のほとんどが30秒以下だということ。
“「YouTube上で新しいタレントを探す」というユーザー行動は起こらなくなっていく”と話しましたが、つまり「新しい人を探したいが、動画を見るのが面倒」「面白いか分からない動画を数分見るのが無理」というユーザーが増えているということです。
つまりTikTokは、上述した「長尺動画ユーザーの求めている潜在的な悩み」を解決しています。
スクロールするだけで自分の好みの動画がレコメンドされていく設計は、高度なアルゴリズムを含め、圧倒的です。
そして何より、配信者側にとっても凄まじいメリットがあります。
YouTubeは優れた動画を出したところで、そもそも供給過多で、見てもらえるチャンスが少ない。
でもTikTokなら、フォローに依存せず動画が配信されていくので、見てもらえる可能性が多分にあるのです。
つまり、TikTokは、配信者にとって「希望の星」ともいえるSNSなのです。
視聴者のペインを的確に解決しているので、ユーザーがどんどん増える。さらに、無名の配信者がスターになるチャンスがわんさかある。
TikTokは、これからも確実に伸び続けるでしょう。
マーケティング戦略の“大上段”はSNSになる
従来のSNSマーケティングといえば、大上段にあるマスマーケティング戦略に紐づく下流のアクションでした。
しかし、若年層のテレビの試聴時間はどんどん減っています。
特に20〜30代は著しく低く、彼らにアプローチするためには、「マーケティング=SNSマーケティング」くらいの認識を持たなければいけない時代になっています。
SNSこそが、マーケティングにおける最強のツールとして機能する時代が迫っているのです。
繰り返しになりますが、中でもTikTokは大きなポテンシャルがあります。
今でこそマーケティング戦略において重要な位置付けにあるInstagramやYouTubeですが、かつては「一部の人が使っているSNS」という認識がありました。
しかし、気づいた頃には、一気にマスを捉え、私たちの生活の一部になっています。
今後、TikTokでも同じような現象が起こります。
現時点で、TikTokユーザーの滞在時間は、InstagramやYouTubeを超えています。テレビの前で横になる“入り浸り現象”が始まっているのです。
今後ユーザーが増えていけば、「私たち」の可処分時間を奪う、コンテンツになっていくでしょう。
マーケティングエージェンシー・Pienを起業します
こうした背景を受け、TikTok運用に特化したマーケティングエージェンシー・Pienを立ち上げました。
クライアントのマーケティング戦略の構築から運用までを、ワンストップで支援していきます。
ただ、「スタートアップ」の経営はしません。
今のところ、エクイティによる資金調達をする予定はなく、新規性のあるビジネスモデルを立ち上げようとも思っていません。
代理店として、コツコツと売り上げを積み上げていく予定です。
過去にスタートアップの経営を経験していた僕が、なぜスタートアップの経営を諦めたのか。
その理由は、VAZでの経験を踏まえ、「自分がどういう状態にあれば幸せなのか」という、“在り方”に向き合った結果です。
VAZはショートムーバーに特化したインフルエンサープロダクションとして立ち上がり、事業モデルを長尺動画に移し、YouTuberという新たな市場を開拓してきました。
「世の中に新しい価値を提供できている」という自負も少なからずありましたし、IPOも視野に入れた、少なからず夢のある経営ができていたとも思います。
ただ、ある時点から、僕の経営者としての実力のなさが起因し、炎上騒動やタレントとの契約解消など、みなさんにご心配をおかけする事態を何度も招いてしまいました。
組織づくりが苦手で、オフィスがゴミであふれるほど社員からの反感を買ってしまったり、明日どうなるか分からない経営状態に怯えたり、周囲の見え方とは裏腹な毎日を過ごしていました。
社会に新しい価値を生み出そうと奮闘するスタートアップは大変素晴らしく、僕もそこに憧れを持っています。
でも、事実として失敗していまい、なおかつ向いていないことも重々理解しました。
失敗から目を背けるようで、自分のことをダサく、カッコ悪いと思ったりもしましたが、それでも、できないものはできません。
そうであれば、好きで得意なことに集中し、本当に自分が求めていることに向き合おうと決めたのです。
その結果、スタートアップの経営は諦めました。
次に挑戦するのは、代理店としてコツコツと売り上げを積み上げる、地に足のついた経営です。
ダメな自分を、武器にする
「どういう自分なら、無理をせず、虚勢を張らず、幸せだと自覚しながら生きていけるのか」。
VAZの代表を退任してから、毎日のようにこの問と向き合った結果、「自分を含めて所属する人の能力が最大限発揮され、毎日楽しく幸せに過ごし続けられる会社をつくる」という結論に至りました。
Pienは、僕の正直な気持ちを形にした会社です。
会社を立ち上げるにあたり、まずは、僕が得意とするマーケティング領域で事業を展開することを決めました。
次に、組織をつくるのが苦手なので、経営陣には組織構築を得意とするメンバーを招きました。
スタート時点から地に足のついた経営をするために、早期に黒字経営へと転換できる「BtoBのソリューションビジネス」にフォーカスすることにしました。
とにかく自分が得意なことに集中して、ちゃんと売り上げをつくり、クライアントの事業成長に貢献する。
それ以外は、一旦やらないことにしました。
ただ、ここで圧倒的な成果を残す準備は万全です。
全幅の信頼を置く創業メンバーと、まだ誰も攻略できていない、いわば“白地図”ともいうべきショートムービー市場を開拓します。
「Repezen Foxx」と戦略的パートナーシップを提携
TikTokという稀代のSNSを皮切りに、変化するマーケティング市場の中核を担うエージェンシーを目指す挑戦の第一弾として、YouTubeチャンネル登録者数100万人越えのDJユニット「Repezen Foxx」様と戦略的パートナーシップを提携しました。
他にも、起業直後のこの段階で、既に10社近くのクライアント様のTiktokマーケティングパートナーとして、事業成長にコミットする体制を整えています。
会社を立ち上げた創業メンバーは、経営者、マーケター、ポーカープロと、それぞれ異なるバックグラウンドを持っています。
それぞれの知見をかけ合わせ、まずは、「TikTokといえばPien」と世界から認知されること。その先には、「SNSといえばPien」と認知される未来を見据え、実績を積み上げていきます。
最後に、個人的な話になりますが、Pienの創業は、VAZでやり残したことを取り返す挑戦でもあります。
創業してから6年間、朝から晩までVAZのことを考えて続けきたにもかかわらず、力不足ゆえに「退任」という、あまりにも情けない意思決定をしました。
悔しさにまみれたあの日から半年が経過し、再び挑戦する覚悟ができました。
ビジネスモデルにこだわりはありませんが、奇しくもショートムービー市場という、僕が挫折した市場での再挑戦です。
「またショートムービーかよ」という声も聞こえてきそうですが、今回の起業は、「自分を含めて所属する人の能力が最大限発揮され、毎日楽しく幸せに過ごし続けられる会社をつくる」という挑戦です。
結果的に、自分が最も得意とするSNSマーケティングの領域に帰ってきました。こだわりがあるわけではなく、得意とタイミングのかけ算で、この市場を選んでいます。
地に足をつけ、虚勢を張らず、着実に結果を残していきます。これからの森泰輝とPienの成長を、楽しみにしていてください。
そして、私たちの事業に少しでも興味を持っていただけた方は、ぜひ以下のリンクからご連絡ください。
また、Pien創業に至る背景には、「VAZの経営を通して自分の無力さを知り、自分のできることにフォーカスすることにした」というバックグラウンドがあります。
ぜひ、過去のエピソードを全て語った書籍『「ダメな自分」でも武器になる』もご覧ください。
編集協力:オバラ ミツフミ(@ObaraMitsufumi)