小説『エッグタルト』第二十七章
遠藤さんと遊園地に行ったあとも、遠藤さんとは何度かご飯を食べに行ったり、サークルでは遠藤さんの近くでドラムの練習をすることが多くなっていた。
ある休みの日に、ファミレスではあったが遠藤さんに誘われ、ご飯に連れていってもらう機会があった。
「ねえ、私たちって付き合ってるのかな」
遠藤さんは注文して出てきたパスタには手を付けずに話を切り出した。俺は、頼んでいたオムライスに早々に手を付け頬張っていたので、突然話を切り出されたことに戸惑ってしまった。
そういえば、自分たちは付き合っているのだろうか。好きですとは言ったものの、その後もあやふやな関係が続いていたし、遠藤さんは一緒にいてくれていることが多かった気がしたが、大学やサークルで見かけた際には周りの人たちからも人気があるように見えたので正直自信がなかった。大人の恋愛とはこういうものなのだろうか、と勝手に都合よく自己解釈し、合わせることにした。
「そうなんじゃないでしょうか。一緒にいることも多いですし」
「私のどこがいいと思っているわけなの?」
そう言いながら遠藤さんは、
「いただきます」
と言いパスタを食べ始めた。
「かっこいいなって思います。演奏しているときとか」
「だからかっこいいってなんなのよ」
遠藤さんはパスタを食べる手を止め苦笑いしているように見えた。女の人にかっこいいと言うのは失礼だっただろうか。ただ、周りを引っ張っていく姿や、こうやって俺を誘ってくれるところだったりは、もはや男らしくさえも見えた。そう言うともっと失礼なんだろうか。今まで先輩に相手にされたことがあまりなかったということもあり、ただ素直にそう思ったのだ。
「ねえあなた、好きな人がいるんじゃない?」
「どういう意味ですか?」
「なんか、顔に出ているわよ。それに、その首に着けている物も、あなたが選びそうな物でもないし」
そう言って遠藤さんは俺が首に着けていた、川野さんに貰ったペンダントを指差していた。
「これは、高校のときの友達に貰ったんです。確かに仲のいい女の子からでしたが、これを貰ったときにもはっきりと友達の証って言われちゃいましたね」
そう言いながら手に持ったペンダントを見て、高校のころを思い出した。
「ふうん、そうなのね」
そう言いつつ遠藤さんはパスタを食べ進めていた。
「ねえ、今日、私と寝て」
遠藤さんに突然そう言われ、驚き、オムライスを運んでいた手を止め遠藤さんの方を見返した。多分間抜けな顔をしていたと思う。
「何を言っているんですかこんな所で。周りに聞こえちゃいますよ」
「今、午後二時ぐらいでしょ? 大して人もいないわよ」
そう言って遠藤さんは左の手首の内側に着けた腕時計を見ていたので、俺も周りを見渡してみると、確かにほかのお客さんはあまりいないようだった。
「ラブホテルね。午後五時に、JR新宿駅で待っているから」
「ええ?」
思わず間抜けな声を出してしまい、ぽかんとしていると、遠藤さんは立ち上がり、パスタを少し残して伝票も置いたまま店の出口の方に歩いて行き、店を出て行ってしまった。遠藤さんが店から出て行くのを見たあと、俺もぼんやりとしながらオムライスを食べ終え、支払いを済ませて店を出た。
待ち合わせまでの時間を潰すため、取りあえず本屋さんに入り、並んでいる本をぼんやりと眺めていた。高校生のときに彼女とお遊び程度のことはしたことがあったが、憧れの先輩と、と思うと胸が高鳴った。大学生ってこういうものなのだろうか、と思うと多分違う気がしたし、遠藤さんは冗談で言ったのだろうか、などと考えていると約束の時間が近づいてきたので、待ち合わせ場所に向かうことにした。