小説『エッグタルト』第二十三章
高校での最後の学期もいつの間にか終わって、卒業式の日を迎えた。俺は、山田の助けもあり都内の中堅私立大学に現役で合格することができたので、そこに進学することに決めていた。その山田は、高校卒業後は知り合いのスポーツ用品店に就職することにしたらしい。
水野は、有名私立大学に合格し、そこに進学することにしたらしい。流石だな、と思った。川野さんの進路についてはまだ聞いていなかった。
川野さんは今後どうするのだろう、と考えていながら校庭に出ると、桜の木の下に川野さんの姿が見えた。
「川野さん、卒業おめでとう」
「あら、太田くん。あなたも、卒業おめでとう」
「川野さんは、卒業後どうするつもりなの? 俺は、都内のそこそこの大学の文系学部に合格できたから、そこで四年間ぶらぶら過ごすつもりだよ」
「私は、カナダにある大学の理学部に進学することに決めたわ。数学をもう一度だけ学び直してみたいと思ったの。その先のことはまだ決めていないのだけど」
「そうなんだ。海外の大学か。川野さんはやっぱり凄いね」
「そうだ、これ」
そう言うと川野さんはポケットから何かを取り出した。
「これ、今朝お母さんから貰ったの。あなたに渡したらって」
見てみると、首に着けるペンダントのようだった。
「俺、こういうのに疎いんだけど、何か特別な意味があるもんなの?」
「ううん、これは、ただのペンダントよ。友達の証として。あなたには、お世話になったから。もう、会えなくなるかもしれないし」
友達か、と思いつつそのペンダントを受け取り、少し見つめたあと握りしめた。
「ありがとう、大切にするよ」
「それを見て、私のことを思い出してね。それじゃあ、私はもう行くわね」
そう言って川野さんはにこっと笑い、振り返って行ってしまった。本当にいつも、すぐに行ってしまうなあと思う。本当にもう二度と会えないのかもしれないなあと思うと寂しい気持ちになったが、歩いていく後ろ姿を見ていても、やはり振り返る気配はなかったので、俺も振り返り山田と水野に会いに校舎の方へと向かった。