小説『エッグタルト』第二十二章

 二学期が始まりしばらくたってから、俺と山田と水野の三人グループに川野さんが加わることが多くなっていた。川野さんは、特に水野とはかなり仲がよさそうにしていた。コンタクトレンズにしたのだろうか、眼鏡を外しており、前よりも少し明るくなったような気がした。文芸部に入ることにしたらしい。
 水野によると、川野さんは来年の数学オリンピックには挑戦しないことにしたらしい。以前は解けていた問題の解き方がわからなくなってしまったとのことだった。俺も、そのほうがいいのではないかという気がする。
 三年生になり、卒業を前に一度四人でご飯に行く機会があった。山田も最初は川野さんのことを気味悪がっていたが、何度か川野さんに話しかけては面白がって笑っていた。川野さんが入ってから、グループの仲が中学のころのように戻った気がした。
 ご飯を食べたあと、四人で東京タワーを見に行った。水野と山田は少し離れた所で東京タワーを見上げていたので、俺と川野さんも並んでそれを下から見上げていた。
 東京タワーを見上げていたとき、ふと川野さんの方を見ると、川野さんは、それを見て何を思っていたのかはわからなかったが、純粋な目をして見ていたので、思わず俺も視線を東京タワーの方に戻してしまった。東京タワーは、ぼんやりと赤く輝いているように見えた。

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