小説『エッグタルト』第六章

 翌週のある日、生物の小テストで散々な点を取ってしまったので、放課後、補習を受けていた。
 丁度部活がオフだったのでよかったが、勉強をしてもこんな結果になってしまうというのは、さすがに悲しい。
「おい太田、なんでお前、小テストに全然答えていなかったんだ。四問しか解答していなかったじゃないか。お前英語の成績はいいんだろう? 加藤先生から聞いたぞ」
「すみません、興味のないことがどうしても覚えられないんです」
「お前そんな、はっきり言うなよ。もうちょっと頑張ってみてくれ。な? きっとできると思うからさ」
「はい」
 生物の中村先生は、俺みたいに成績の悪い生徒にも気さくに話しかけてくれるので好きだった。いい成績を取れないことが内心申し訳なかった。
 苦手な科目の単語などを覚えようとすると、教科書がぼやけて読みづらくなってしまう。いつこうなったのかはわからないが、俺はどうしてもこうだった。
 ふとグラウンドの方を見ると、山田の姿が見えた。どうも後輩たちを集めて指導しているようだった。山田は、中学のときもサッカー部の主将を務めていて、自分でも指導をするのが好きだと言っていた。次期キャプテン候補でもあるらしい。
 山田は指導する際も、独特な表現を使うので、後輩たちから「山田理論」などと揶揄されていたが、中学のときも、指導を受けたほとんどの後輩たちから慕われていた。
「おい! 太田! なんでお前はグラウンドを眺めているんだ。頼むから勉強に集中してくれ。小学生かお前は」
「すみません、頑張ります」
 俺は慌てて教科書に目を戻した。そうだ、ノートだ。ノートに一つずつ単語を書き写してみよう。そうしたらなんとか覚えられるかもしれない。俺は、補習の残り時間、この意味のわからない文字の羅列たちを取りあえず書き写してみることにした。

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