小説『エッグタルト』第二十四章

 高校を卒業したあとの春休みのような期間が終わり、大学に進学してからすぐに、以前からやってみたいと思っていたドラムを始めようと思い、大学の軽音サークルに入った。サークルに入ってから二日目に、新入生を歓迎するために、先輩たちがバンド演奏を行っていたので、それを見学することにした。
 何組かの演奏を聴き終えたのち、そろそろ終わるのかなと思い、もう帰ろうかなと思っていたころ、三回生ぐらいだろうか、割と目立たない感じの見た目をしたバンドが準備をし始めたので、もう少し残ることにした。
 演奏を聴いていると、ボーカルが思っていた以上に激しめに歌っていて、かっこいいなあと思っていたところ、左側でベースの先輩が俯いて首を振りながら演奏をしていることに気がついた。そのベーシストの先輩は、口をつぐみながらベースの演奏のみに集中しているような感じで、見ていると吸い込まれてしまうような気がした。全員がそうなっているのではないかと周りを見渡してみたが、ボーカルの方を見て手を振り上げている人もいたので、どうも違うようであった。
 すべてのバンドの演奏が終わったあと、初日に知り合った先輩にベーシストの先輩について聞こうと話しかけた。
「先輩、さっきの俯いて首を揺らしながら演奏をしていたベーシストの人って、誰ですか?」
「お前、あいつが気になるの? あまり喋らないし、なんか怖いやつだぞ」
「彼氏とかいるんでしょうか」
「さあ、あまり知らないけど」
 話していると、先ほどのバンドの先輩たちがこちらに向かって歩いてきたので、思わず声をかけてしまった。
「さっきの演奏見ました。先輩のこと、好きです。立ち姿がかっこいいなと思いました」
「あなた、いきなり告白は失礼じゃない? 新入生の子?」
「はい、ドラムをやろうと思っています。太田と言います」
「そうなのね」
 ベーシストの周りの先輩メンバーたちも、なぜこいつに? というような表情をしていたが、ボーカルの先輩は笑いながら話しかけてきた。
「お前、こいつが気になるのか。こいつ、遠藤って言うんだ。見た感じ気が合うと思うよ。仲よくしてやってくれ」
 遠藤さんって言うのか、と思っていると、遠藤さんも、
「よろしく」
 と笑顔で言い残し、周りのメンバーたちと歩いていった。素敵な人だなあと思い、これからこの人についていこうと思った。これからの大学生活が楽しみになっていた。

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