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ハイゼンベルグによる原子核の周りの電子のエネルギーのパラドックス

ハイゼンベルグによって指摘された電子の位置エネルギーのパラドックスです 出典: ハイゼンベルグ「量子論の物理的基礎」みすず書房 玉木英彦 ほか 訳

化学においては、定常状態にある原子の電子のエネルギーは負です。このエネルギーの大きさをイオン化エネルギーと呼びます。
量子論によると、原子核から非常に遠く離れた場所にその電子が見いだされる確率も、ゼロではありません。そこでは電子の位置エネルギーはとても絶対値が小さい負の値であるはずですが、その電子の運動エネルギーは常に正です。したがって位置エネルギーと運動エネルギーの和(ネットの全エネルギー)は正の値になり、定常状態にある原子の電子のエネルギーは負であることと矛盾してしまいそうです。言い換えれば、イオン化エネルギーより、原子核から非常に遠く離れた場所に見つかる電子の「力学的」エネルギー=運動エネルギーと位置エネルギーの和が大きいのです。まるでエネルギー保存則が破れているかのようです。
この考え方のどこがおかしいのでしょうか?


パラドックスの回答
エネルギーのやりとりを勘定する際には、電子の位置を測定するために原子にあてる光によるコンプトン反跳で光量子から電子に与えられるエネルギーを考えに入れなくてはいけないからです。このエネルギーはイオン化エネルギーよりずっと大きいため、矛盾が生じないのです。つまり、量子論における電子のエネルギーは、位置の測定に必要なエネルギーも含んでいるのです。



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