封筒の裏の数学(スティーブン・ランズバーグによる日常の経済学コラム)
想定される具体例:「飢餓に対処している団体とがんに対処している団体があってどちらもあなたの助けを必要としています」
"CARE is a noble organization that fights starvation. It would like your support. The American Cancer Society is a noble organization that fights disease."
[問題]
寄付を求めている団体xと団体yの2つがある社会を想定しましょう。それぞれの団体には寄付を必要としているメンバーが多数いて、あなたの寄付金すべてでも各団体の全員にとって十分ではないとします。あなたから各団体への寄付金は追加的な最小単位ごとに各団体内の別のメンバーにわたるとします。あなたは寄付金を団体xと団体yにどのように配分したら、社会厚生が最も高まるでしょうか
[答え]
ランズバーグのアドバイスは「なるべく社会厚生を高めたいなら、なるべく多額の寄付金を、どちらかただ一つだけの団体に寄付せよ」です。
"Here’s my advice: If you’re feeling very charitable, give generously—but don’t give to both of them."
ランズバーグが提案する命題:
”もしあなたの慈善寄付金が、必要金額総額に比べて十分小さく、かつ寄付金の受益者の厚生のみ(自分の利他的効用や社会的称賛による自己効用は考慮に入れないとする)を最大化したいなら、あなたは寄付金全額をただ一か所(一団体)に集中するはずである”
"I propose to establish the following proposition: If your charitable contributions are small relative to the size of the charities, and if you care only about the recipients (as opposed to caring, say, about how many accolades you receive), then you will bullet all your contributions on a single charity."
それでは、なぜその寄付金を両方に分割しない方がよいと考えられるのでしょうか?
「20世紀初め、傑出した経済学者であるアルフレッド・マーシャルは以下のアドバイスをしました:経済学としての問題に直面したら、まず、その問題を数学に翻訳せよ。次にその数学問題を解け。そして解を英語(自然言語)に逆翻訳せよ。そして最後は、用いた数学のほうは焼き捨ててしまえ。」
"Early in this century, the eminent economist Alfred Marshall offered this advice to his colleagues: When confronted with an economic problem, first translate into mathematics, then solve the problem, then translate back into English and burn the mathematics."
社会厚生が団体xのメンバーたちへの総額X(団体xへの寄付金額合計)と団体yのメンバーたちへの総額Y(団体yへの寄付金額合計)の実数値関数W(X, Y)であるとしましょう
すると、団体xへの寄付金額合計や団体yへの寄付金額合計の増加量⊿Xや⊿Yに対して、社会厚生の増分⊿W(X, Y)は次のようになります
⊿W(X, Y)=[∂W/∂X]⊿X+[∂W/∂Y]⊿Y
ここで、[∂W/∂X]はXによらず一定であり、[∂W/∂Y]もYによらず一定であると考えられます なぜなら、ある団体への寄付金は追加的な単位ごとにその団体内の別の受益者へ渡るので、たとえ個人の効用関数が財の消費量や富の水準に関して限界逓減する場合(u''<0)であっても、Wは限界逓減しないと考えられるからです。ですから、⊿W(X, Y)がなるべく大きくなるようにするには、[∂W/∂X]と[∂W/∂Y]のどちらが大きいかを判断して大きい方の団体に寄付金額全額を寄付することがWを最大化することになるのです では[∂W/∂X]と[∂W/∂Y]のどちらが大きいかの判断がつかなければ、たとえば両方の団体に等分して寄付した方がよいのでしょうか?そうではないのです。WがXに対してもYに対しても線形なので、「分散投資」しても社会厚生の期待値は最大化できないのです(投資先に対して限界逓減する凹な効用関数でないと分散投資しても期待効用が最大化できないことを思い出してください)。したがって分散せずにどちらか一方に全額してしまってよいことになります。
(ここでは基数的な社会厚生関数をランズバーグは想定しています)
ランズバーグは「もし僕が英語に数学を翻訳した際に何が失われ、何が足されたかを正確に知りたければ、大学1年生の数学でわかる説明へのリンクをクリックしてください」と述べているけどリンク切れなので以上でその数学的説明を復元してみました。誤りがあればコメント欄でご指摘ください。
”If you want to see exactly what was gained or lost in translation (and if you remember enough of your freshman calculus to read the original), then click here.”