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小説 優しい藍色に包まれて (1)

この章は実際に見聞きした出来事を小説風にアレンジしている。篠崎千鶴という女性が、素性や真の姿、正体がよくわからず、どこか怪しげな高齢男性からしつこく連絡をされて、精神的に追い詰められるが、健気に日々を過ごす様子を描いている。(半分程度実話である)

ある男からの連絡

1年前から私はスマホを見るのが怖かった、理由は、またあの男からのラインのメッセージが来ているかもしれないからです。この頃は、毎日来るようになってしまいました。

ラインは通知設定をしないで、いちいちラインを開いて覗きにいっている。通知設定をオンにしてしまうと、万が一、スマホの画面を家族や友達に見られてしまうと怪しがられてしまう。

しかし、スマホを見ないことには友達や家族からの連絡も見れないので、数時間ごとにチェックはしています。

私は来年で40歳になる主婦で、日中はパートですが金融機関で働いている、接客業務なので勤務中はスマホのチェックは規則上なかなかできないが、1日3回の休憩時間で確認するのが一日のルーティンになっている。

午後6時、仕事が終わり、西新宿のオフィスを出て新宿駅に向かう、甲州街道の広い歩道をゆっくり歩くと新宿駅までは15分程度はかかる。歩道には観光客の人など多くの人が歩道を歩いているので、混雑して人と当たりそうになるので普通の速さでは歩けない。

もう9月の上旬だと言うのに暑さが厳しくて、10分も歩けば体中から汗が大量に吹き出して、私服のブラックのペプラムブラウスが肌にくっついてしまう。女性として洋服が汗で肌にぴったりくっつくのはとても恥ずかしい。お願いだから早く涼しくなってほしい。

やっと人混みのJR新宿駅に着いて、改札から階段を降りてホームにたどり着いて、渋谷・品川方面の山手線の電車に乗り込む、相変わらず人が多く、階段もホームも人でいっぱいだった。特に海外から観光客が多く、大きなスーツケースをごろごろ引っ張っている。

私はここから山手線で品川まで行き、京浜急行線に乗り換える。東京の地理が分かる人はピンとくるが、そう、家は遠く、歩きや乗り換えも含めれば1時間30分は必要になります。

毎日の憂鬱なやり取り

電車に揺られながらスマホのラインをチェックすると、案の定、あの男から連絡が来ていた、少し緊張が走る、今日は朝に1回きて、これで2回目だ、もしかしてストーカー入りしているか分からないが、どうして私に頻繁に連絡をくれるのか疑問だった。

しかし、今のところ実害があるわけでもなく、(後ほど説明します)私の落ち度も自覚していたので、スマホのやり取りくらいなら仕方ないと思っている。但し、ラインに対する私の返事はかなりそっけない、一言だけか、たまにはスルーします。

私はその男とはまだ実際に会ったことはない。

ラインをスルーすると、突然ラインアプリで電話がくるので、この時は仕方なく出てしまう。勿論、私が電車に乗っている時は、次の駅で降りてから通話をするようにしています。

私「はい・・」
男「千鶴さん、どうしてラインの返信がないんですか・・今どこですか?」
私「もう帰ってる途中です・・」
男「千鶴さん、どこまで行ったんですか」
私「もう蒲田です・・」
男「千鶴さん、会社出たら連絡してほしいってお願いしたはずです・・もうそこまで行ったんだったら仕方ないな、気を付けて帰ってください」
私「はい・・ありがとうござます」

(そうです、私の名前は篠崎千鶴といいます)

私の通勤ルートは新宿から品川で京浜急行線に乗り換えて京急蒲田まで行く、なので蒲田と言うともう家に帰ってきたという意味が伝わるのだ。

しかし、先程の会話において、実は私は蒲田ではなく、本当はまだ品川だった、品川というと男に「そこで待ってて、すぐに行くから」と言われる可能性があるからだ。嘘をついたのだ。


毎日の朝の会話

平日、朝5時半に起きると既にラインに連絡が来ている、スルーすると電話が来てしまうので文字で「おはようございます」とだけ返信する。

あとはそれでスマホを見ないようにするが、たまに突然電話がくるときがある、慌てて部屋に入って電話に出る。

男「千鶴さん、おはよう・・」
私「おはようございます・・」
男「千鶴さん、今日も声が聞こえた・・よかった」
私「家族に聞こえてしまうので、ごめんなさい」(電話を切る)

私の一日の始まりがこれだと切なくなる、毎日あの男と、少なくても文字で「おはようございます」を返して、1週間に一度は電話で朝の挨拶。

私の目覚めの時間はこの男の為にあるような毎日だった。

それから朝の支度に入るが、2人だけの生活なので朝ごはんとお弁当を作れば終わりで、7時頃から私のメイクと身支度をして出かける。

主人は自営業でお蕎麦屋さんをやっており、私と生活リズムが少し違う、私は7時半には家を出て会社に向かうが、主人はそれより早く出る日もあれば、遅く出かける日もある。


そもそものきっかけ

私は、この男の人のことを詳しく知らない。どこの人なのか、何歳の人なのか、ただ、たまにラインの連絡のやり取りの中で、私に会いに行くと言われると、比較的に近く、東京か少なくとも関東の人だと推測する。

そもそも最初の出会いは、私へのDMからだった、少し前まで(今はやっていないが・・)私はインスタグラムをやっていた。このインスタグラムは私の日常生活のショットではなく、地方の小さな旅館の写真と山と自然の写真をアップしていた。

もっと詳しく言うならば、この旅館は私の実家。年に2回程度は実家に帰っては、スマホで写した写真をインスタグラムにアップする。地方の田舎なので自然も多く、美しい写真も撮れる。それに草花も綺麗で可愛いのでよく撮影しては載せていた。

そして何といっても私の思惑としては、それを見て私の実家の方に沢山の観光客が訪れてくれて、そして実家に泊まってくれればいいな、と思ってインスタグラムにコツコツと写真をアップしていました。

そんなインスタグラムにその男からDMが来たのは2年前でした、最初は嬉しかった、コツコツやってフォロワーもまだまだ少ない中でDMを出してくれたのですから。そして、単に投稿した写真への評価だと思っていた。

私もすぐに返信をして、DMだけど、いろいろやり取りをしました。その期間は実に1年間くらいに渡しました。特に会うことも想定せずにDMだけのやり取りでした。

DMでのやり取りを再現してみました:
男「いつも更新するの楽しみしています」
私「DMありがとうございます。なかなか頻繁に更新できていませんが、頑張りますので、よろしくお願いします」
男「これらの写真はあなたの家の周辺でしょうか」
私「いえ、ちがいます。私は東京に住んでいます。写真は山形県の実家のあたりの写真です。説明不足で申し訳ありません」
男「綺麗な写真でいつも癒やされています。山形県が実家なのですね」
私「はい、実家が小さな旅館をやっておりまして、その写真も少し掲載しています」

最初は、このように普通の会話ばかりでした。でも少しづつ私のことについて、よく質問されるようになりました。


(2)に続きます

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