オフィス・ラブ③
さて、前回は、気になっている職場の先輩とデートにこぎつけ、居酒屋で飲んだ後の話ですね。今回は、面白テクニックを兼ねてお話したいと思います。
街外れのバルにて
2軒目に入る。1軒目の居酒屋とは違い、少し落ち着いたバルといったところでしょうか。ウッディな壁にランプを使用しているため、店内は茜色に染まり、夜と昼のカタワレドキを彷彿とさせます。23時前に入店したため、私達以外の客は1組と落ち着いて話せる雰囲気でした。今回はテーブル席に座り、二人向かい合って飲むことにしました。
「たいき君はぁ最初何飲むの?」
「結構強いのばかりですね。マキさんが私に飲ませたいのを飲みたいです。」
「えぇいいのぉ。それじゃぁアードベックのロック飲んでよぉ」
「ウイスキーですか。わかりました。私が酔いつぶれたらどうするんですか?」
「えー。うーん。どうしよっかなぁ。内緒ぉ」
1軒目の日本酒が効いているのだろうか。マキさんは、随分と口調がとろけています。
店員を呼び、飲み物を頼みました。彼女はカクテルではあるものの、度数が高い割に甘く、飲みやすい、いつの間にか深く酔ってしまうゴットマザーを頼みました。左肘をテーブルにかけ、酔っぱらっている姿もまた可憐です。
「そういえば、今更ですが、今日はてっぺんまで帰さないと言ってましたけど、あれ、どういう意味ですか?」
「別に深い意味はないけどぉ、そのまんまの意味だよ。たいき君。変なこと考えてたぁ?」
「いや、それより、酔っぱらっててもちゃんと自分がいったこと覚えてるんですね。流石ですね。どっちが記憶力良いか勝負しません?」
子供が考えるゲームでも、できる男は活用する
ここで私が仕掛けます。勝負といっても私が必ず勝つ勝負です。
「おっいいねぇ。たいき君が負けたらどおする?」
「マキさんの言うことを1回だけ何でも聞きます。でも、私が勝ったら私のお願い聞いてください。」
「いいよぉどういう勝負?」
「記憶ゲームです。」
このゲームは、質問者が周りにあるものを指し、何色か回答者に答えさせます。5回質問し、同じ色を回答しなければ回答者の勝ちです。仮に同じ色を答えなければならない場合は「スルー」と宣言することで、回答を回避することができます。回答した色が正しいかどうかは、お互いの合意の下、判断されます。あるテクニックが見破られない限り、質問者が必ず勝つゲームです。まさに茶番です。
デモンストレーションを行ったあとにテクニックを行使すると効果絶大です。
「じゃぁ本番行きますよ。この色は?」
「ウイスキーねぇ。茶色!」
「いいですねぇ。じゃぁこの色は」
「店のメニュー板ねぇ。緑!」
「正解です。じゃぁ3問目いきます。この色は?」
茶色のテーブルを指しました。1回目に回答した色と同じです。
「スルー!!」
「ちっ流石記憶力良いですねぇ。これで何回目でしたっけ?」
「女性に舌打ちしないの!3回目だよぉ」
「はいはい。では4回目いきます。これは?」
「おしぼりは白!」
「え?」
「しぃろ!」
お分かりいただけましたか?これがテクニックという名の茶番です。シラフでは嫌われるゲームでしょう。これは、私が小学校のときにひっかかった茶番です。周りで見ていた女子に嘲け笑われたことが今でも鮮明に覚えております。今まで根に持っていたことが武器となっています。ものは使いようです。小学校の茶番劇が今でも記憶に残っている私こそ記憶力が良いのではないでしょうか。
「はい。マキさんの負け~。」
「えっ白なんて4回目が初めてだよ?」
「私が聞き返したときに重複しました。」
「えっしょーもな!まぁいっか。私の負けです。さぁ言ってごらん」
「んーゲームしてたらお願い事忘れちゃいました(嘘)」
「たいき君、記憶力悪~(笑)」
「後で考えておきますね」
冬山で小屋を見つけた登山者の気持ちがわかりました
LINEで「てっぺんまで帰さないから」とメッセージが送信されたときから考えておりました。私は、マキさんとキスをしたいのです。負けは負けですから真面目な彼女さんであれば、例え職場の後輩であろうと私の唇を受け入れてくれるでしょう。そのあとキス以上のことができるかは、私のキス次第となります。
お店が、0時で閉店ということでしたので、お互い3杯目を飲み終えるところで会計を済ませます。
店を出ると、寒風が顔を冷やします。寒さを通り越して痛みすら感じる冷え込みは、自然と二人の距離を縮める。
「今日はたくさん飲んだねぇ」
「飲みましたね―。マキさんの酔った姿見れて嬉しいです。」
「こういう姿は、職場の人には見せられないよねぇ。そういえば、お願いしたいことって何だったの?」
「それはですね―」
小道を歩くと、タクシー会社のガレージが右手に見えました。深い時間なので、タクシーは出張っています。風除けを理由に、ガレージまで彼女の手を引き、誘いました。
「お願いはですねぇ…」
彼女と向き合い、その小さな左手を私の右手で掴み引き寄せます。そして、左手を彼女の右肩の後ろに添え、目を見て
「ダメですか?」
「えっ?」
戸惑う彼女。しかし、瞳は少し潤い、揺れていました。唇との距離を詰めつつ、右手は、彼女の頭を撫でています。
「ダメじゃないけどぉ、ダメだよぉ」
下を向く彼女、理性と本能に揺らぐ心、もう一押し。
「試してみましょうか」
「……」
頭を撫でる右手は、彼女の下顎に触れ、上を向かせます。何も言わず、彼女は潤んだ瞳を閉じる。
そして、互いの唇を重ねる。
「んっっ」
3秒程でしょうか、唇を重ね、彼女の唇から離れます。寒さで固まっていた彼女の表情が柔らかくなりました。しかし、先輩の威厳を保ちたいのか
「やっぱダメだよ。職場でどういう顔して良いかわからなくなっちゃうよ。ハグならいっぱいしても良いから今日はもう帰ろう?」
「わかりました。それならいっぱいハグしましょう」
彼女を思いっきり抱きしめました。抱きしめて一拍、もう一度キスをしてみました。彼女は拒絶しません。彼女の上唇を2回、下唇を3回、私の唇で抱きしめます。
「たいき君の唇柔らかくて気持ちいぃ。何も考えられなくなっちゃう」
それから幾度も唇を合わせます。このまま、連れ込みたい。しかし、ラボ街は、車で40分以上かかるところにあります。寒い寒い寒い。このまま二人の熱が冷めないうち何とかしなけらば、頭の中でぐるぐると考えますが、寒さで何も浮かびません。ふと、タクシー会社とは反対車線の建物を見てみると、只ならぬ雰囲気のある3階建ての白い建物がありました。玄関付近に看板が立てられており、「休憩 3時間 3,800円~」、「宿泊 7,800円~」という表示がされておりました。
偶然でした。こんな飲み屋街から少し離れた住宅街に、ポツンとラブホがあるとは思いませんでした。冬山を歩き疲れた登山者が、山小屋を見つけたときもこんな感じなのかと思いました。
「マキさん。寒いので、後ろの建物でちょっと休みませんか?」
「えっ?マジ?こんなところに噓でしょ!んー……良いよ」
二人は寒さをしのぎにラブホテルへと入っていきました。
次回は
さてさて、次回は待望のムフフです。職場では、キビキビと仕事をこなし、明るく振舞うマキさんが、恍惚と雌になるなんて……
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