システム開発契約のトラブル事例③
5.納期の遅延を理由に、損害賠償を請求された事例
◆概要
◆ポイント
①ベンダにはプロジェクトマネジメント義務がある
ベンダには、契約に従った業務を行うことに加えて、信義則上の義務として「プロジェクトマネジメント義務」というものが課せられます。
この義務には、①ユーザが適切な判断ができるように必要な情報を提供する、②ユーザで行うべきタスクの内容や期限を示す、③計画からの乖離が生じた場合にはユーザと誠実に協議する、といった内容が含まれます。
②ユーザへの働きかけの証拠を残す
たとえ納期遅延の原因がユーザのタスクの遅れだったとしても、「ベンダが進捗状況を適切に管理していなかった」と判断されると、ベンダが納期遅延の責任を負うことになります。
そのため、ベンダとしては、ユーザに対して催促を適宜行うとともに、催促を行った事実をメールや会議メモの形で記録しておくことが重要です。
6.システムに不具合が発生し、契約を解除された事例
◆概要
◆ポイント
①システムの要件を明確にする
契約をした目的が達成できないほど重大な不具合がある場合(例:処理速度が著しく遅い、不具合の数が非常に多い)には、ユーザは契約を解除することができ、ベンダは代金を受け取ることができません。
ベンダとしては、システムで必要な処理速度が明らな場合にはそれを契約書に記載したり、パフォーマンスが決定する段階でユーザと協議したりするなど、システムの要件を十分に確認することが重要です。
②不具合が発生した場合はすぐに対応する
たとえ不具合が発生しても、ベンダが遅滞なく修補したり、ユーザと協議の上で代替措置を講じた場合には、ユーザによる契約の解除は認められません。
そのため、ベンダは、ユーザから不具合の指摘を受けたらすぐに対応し、代替措置が必要な場合は選択肢やメリット・デメリットを提示して、ユーザの判断を仰ぎましょう。
参考文献
難波ほか『裁判例から考える システム開発紛争の法律実務』(商事法務, 2017)
飯田耕一郎=田中浩之『企業訴訟実務問題シリーズ システム開発訴訟』(中央経済社, 2017)
情報システム・ソフトウェア取引高度化コンソーシアム編「情報システム・ソフトウェア取引トラブル事例集」(2010)
鮫島正洋『技術法務のススメ 事業戦略から考える知財・契約プラクティス』(日本加除出版, 2014)