![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/82938514/rectangle_large_type_2_a8a9ee88ee3eda9399e6124d7d00038f.png?width=1200)
Photo by
kotachai9981
【#毎週ショートショートnote】彼
「やっぱり暑いわね。午前中に来ればよかったわ」
花の茎を切りながら母が言う。
「しょうがないよ、夏だもん」
私は照りつける太陽を見上げて言った。
ふと振り返るとと、少し離れたところに若い男性が立っていた。いつからいたのだろう。
私は彼の服装が気になった。こんな暑い日に学生服で、しかもカーキ色なんて珍しい。
真夏の暑さにも関わらず、彼は汗をかく様子もなく、ただ、小高い丘の下に広がる街を眺めていた。優しくもあり寂しげでもあるその眼差しが印象的であった。
両親は彼に全く気づいていないのか、せっせと掃除している。
「ほら、見てごらんよ。この人、お父さんの伯父さんだけど戦争で亡くなったんだ。18歳って本当に若かったんだな」
父が指した墓石には、名前と年齢があった。
その瞬間、私は思わず振り返ったが、先程の彼の姿は甦ることはなかった。
「そういえば、今日は終戦記念日だったね」
父がそう言うと、セミの鳴き声が一層大きく響いた。(412字)
今回も#毎週ショートショートnote投稿してみました。
やや苦しい部分はありますが、お許しください。