【#毎週ショートショートnote】全力で推したいダジャレ
「どうしてもこの企画を出したいのです」
そう言って若い学芸員が立ち上がった。
それは、来年開催する展示会の企画を出し合っている最中だった。なかなか良いアイデアが出ない中、彼は言った。
「こんな世の中だからこそ、見た人が明るくなる展示会が必要なのではないでしょうか」
彼の手には一枚の古い絵があった。
「それは…」
ベテラン学芸員が息を飲む。周りのスタッフたちに緊張が走る。少しして、ベテラン学芸員が口を開いた。
「かなりの賭けだがやってみるか」
展示会は評判が良く、連日大入りだった。テレビ取材も入り、インタビュアーが尋ねる。
「今回の展示会、とても盛況ですが、その勝因はなんでしょうか」
あの若い学芸員が答えた。
「今回の展示会は『判じ絵』という、江戸時代に庶民の間で流行した"絵で見るなぞなぞ"がテーマです。我々が全力で推したいダジャレだったんですよ」
そして会場の入り口には、「一斗二升五合」と大書した額がかけてあった。(410字)
今週も参加しました『#毎週ショートショートnote』。今回のお題は難しかったですね。
ちなみに、最後の額の意味は、「五升の倍(一斗)桝桝(一升桝二つ)半升(一升=十合)」つまり「御商売益々繁盛」です。