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読み聞かせボランティア1年生②

3. 読み聞かせボランティアに登録するまで

 さて、大好きな本に関わるボランティアをすることに決めたはいいが、具体的にこの先どうすればいいのだろうか。平日は仕事があるので、動けるのは基本的には週末と祝日だけだ。市内にボランティアグループはあるのだろうか。見ず知らずの人間をすんなり受け入れてくれるだろうか。さまざまな考えが頭の中をぐるぐる回っている。ダメだ、ただ考えているだけでは進まない。まずは行動を、と思い、インターネットで「●●市 本 ボランティア」で検索をかけてみた。すると、出てきたのは『読み聞かせ(お話し会)について ●●市』だった。クリックして詳細を確認する。内容としては、毎月、図書館で開催されている読み聞かせ(お話し会)の案内だった。残念ながら、ボランティアについては記載がない。けれども、図書館なら何か情報があるに違いない。そうなると、まずは図書館に行って聞いてみよう。私は週末に図書館へ行くことにした。

 昼間は親子連れや学生で賑わう図書館も、夕方になるとひっそりと静まり返っている。人もまばらで寂しい雰囲気さえある。
 私は1階のカウンターに座っているスタッフに話しかけた。
「あの、すみません。図書館でボランティアを募集ってしてますか」
「…ボランティアですか」
 そのスタッフは作業していた手を止め、眉間にシワを寄せて考え出した。おっ、これはきっと知らないパターンだぞ。考え込むスタッフを前に、私は彼女を凝視せず、視線をあちこちに動かしたり、近くの本棚を見に行く。余計なプレッシャーを与えてはいけないぞ。だが、側から見るとただの落ち着きのない人だった。
 スタッフはパソコンを構ったり、書類を探したりしているが、分かりそうな気配は一向に感じられない。答えが出なかったら、次はどうしようかと思っていた時、
「あの、他のスタッフに確認してきますので、少しお待ちくださいね」
と、そのスタッフがそくささと奥に消えていった。うん、やっぱり分からなかったんだね。

 しばらくすると、最初に対応してくれたスタッフよりも少し年上らしいスタッフが出てきた。後々お世話になるSさんだ。落ち着きのある感じのSさんは、そこら辺を怪しげに徘徊していた私に話しかけてくれた。
「ボランティアをご希望とお聞きしたのですが」
「そうなんです。本が好きなので、本に関するボランティアがしたいと思ってまして」
「ありがとうございます!図書館のボランティアはほんの修復と読み聞かせがありますが、コロナの関係で本の修復ボランティアはしばらくやっていないんです。読み聞かせは、月に1、2回、日曜日の午後2時からになります。もちろん参加できるときだけで大丈夫ですよ」
 月1、2回なら無理なく参加できるかも。読み聞かせも練習すれば、なんとかできるだろう。聞くと、平日や土曜日には他のボランティアサークルの方々(主には市内の年配の女性、もといマダムたち)が来て、読み聞かせをしているのだという。

 若干の不安はあったものの、兎にも角にもやってみなければという気持ちの方が優った私から、自然が言葉に出ていた。
「多分、読み聞かせならなんとかできると思います。練習はかなり必要ですけど」
 それを聞いたSさんの目元が緩み、マスクに隠れていながらも笑顔になったのが分かった。
「すごく助かります!実は年配の方が多くて、若い人に入っていただけると本当にありがたいんです」

 いや、そんなに若くもないんですけどね、と言いたい気持ちをグッと抑え、「そうなんですね」と相槌を打つ。確かに私の同世代は、仕事に子育てに地域付き合いなど忙しい人が多いかもしれない。
 私はといえば、基本週末休みの仕事(平日はそれなりに忙しいが)で、独身(結婚歴なし)、子供はいない(ヤンチャな姪っ子、甥っ子はいる)、近所付き合いもゼロに等しい。そんな私が、見返りを求めないボランティアをやらずして何をするんだ。ボランティアを始める動機はやや不純でも、少しでも地域貢献できればいいじゃないか。何より、好きな本に囲まれた場所にいられるのは嬉しい。

 「じゃあ、こちらに記入をお願いできますか」
 差し出された紙を見る。図書館ボランティアの登録用紙だった。面接とか読み聞かせのテストとかはしないのね。これで私が物凄い読むのが下手だったらどうするんだろうと心配しながらも、必要事項を書いてSさんに渡す。
「これで登録しておきますね」
 こうして私は●●市の図書館ボランティアグループ『おむすびころりん』の一員となったのだった。ちなみに他のメンバーは知らない。
 そして、同時に読み聞かせのデビューは11月7日となった。私はようやく読み聞かせボランティアの小さな一歩を踏み出したのだった。
                     続く

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