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僕の住む町のとある住民検討会

僕の移住した福井市越前海岸エリアは、北から順に、棗、鷹巣、国見、殿下、越廼という五つの地区に分かれ、それぞれ固有の文化を持ち、地域住民の気質も少なからず異なります。
移住したての頃の僕自身が感じていたように、市外や県外から来る観光客や移住者にしてみれば、そんな地区の区分けにはなんの意味を成さないことと思いますが、地域住民にしてみれば、どの地区においても、それぞれ大切なアイデンティティを形成しているのです。
例えば、国見と越廼は隣り合っており、どちらも今は寂れた漁村という印象ですが、国見はどちらかというと貿易船の船員さんの町であり、他方、越廼は漁師さんの町です。ですから気質としては、国見の人は集団における時間の約束や規律を尊く重んじる傾向にありますが、越廼の人はもっと大らかで勝気なところがあるように感じます。

さて、そんな僕らの町には今、過疎という波が押し寄せて来ており、その深刻さは年々増してきています。人口減少そのものが地域のインフラ維持さえままならなくしてしまう大きな問題ですが、中でも取り上げて深刻なのが、学校の児童生徒数の減少です。
山間地区である殿下は、中学校が休校し、小学校に通う児童も今年度からたったの1名となりました。越廼はこの1、2年のうちに、学校の児童生徒数の減少がいよいよ際立ってきたためか、子育て世代が口火を切るように流出してしまいました。

僕たち越前海岸盛り上げ隊としても、これを由々しき事態として捉えているものの、団体としては観光産業振興団体であることに基づいているので、学校のことで行政とやり取りしたり、地域住民の意見を集約したりするには、決して最適な団体ではありません。
そこで、越前海岸盛り上げ隊とは切り離した個人として、国見地区の公民館に働きかけ、「学校再編と未来創造検討会」という集会を立ち上げることに至りました。

前置きが長くなりましたが、そういった経緯があり、この記事は越前海岸盛り上げ隊としてのパブリックなコメントではありませんが、どうか内外の多くの人々に、僕たちの町で、今何が起きているのかを知ってほしくて、国見地区の公民館での「学校再編と未来創造検討会」の経緯について、個人的な目線で追ってリポートする次第となります。

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「学校再編と未来創造検討会」第1回は、現状の把握を皆さんと共有するのが狙いで、福井市学校教育課の職員さんを招聘し、学校再編のこれまでの経緯について経過説明がなされました。
学校再編は、行政においてしばしば「学校規模適正化」と言い換えられます。少人数の複式学級の問題点を指摘し、学校規模を適正化する必要がある、ということなのです。
確かに、児童数が少なくて、同じ学年に同性の友達が居なかったりするのは、保護者として切実かと思います。既に僕たちの地域ではそういった事態が起きているので、その深刻さは僕自身良く分かっているつもりです。
しかしながら、学校というのは地区の体育祭や文化祭の会場として機能したり、有事の避難所として機能したり、実は地域の重要な機能をいくつも保有しているのです。
「子ども達の教育のため」と言えば聞こえは良いのですが、それを強く言い過ぎると、判断を誤るだろうという懸念もあります。学校が地区から無くなれば、その地域に戻りたいと願ったり、移住を志す若い家族の可能性が絶たれてしまうからです。
一方で、少人数の今のままが良い、という保護者の声にも僕は疑問があります。喉元過ぎれば熱さを忘れると言いますが、自分の子どもの世代だけでも何とか人数が集まっていれば良しとし、同じ地区の出来事なのに、僕自身も含め、次の世代のことはどうしたって我が事として捉えられないのも一つの側面です。
学校再編問題は、言うまでもなく過疎の問題です。その過疎に歯止めをかけるためには、流出を防ぐか、流入を促すしかないのです。

今回の検討会でも、住民意見としては今僕が述べたような意見で構造が整理できたのではないかと思います。
しかし最終的に、「過疎」が問題の元凶であるとすれば、その対策をどのようにするか考えるのは困難になってきます。
それはどうしても行政頼みになってしまいがちですが、少なくともこの土地で暮らす僕たちは、今の僕たちにできることを探す努力をしなければならないと、僕は思います。

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移住者である僕が、方々で何度となく人に伝えていることですが、僕がこの福井市越前海岸エリアに移住しようと思った大きな理由は、越前海岸盛り上げ隊と出会って、これ程の過疎地にも関わらず、彼らの前向きな意識の持ち方に、共感することが多くあったことです。
過疎という局面に立たされているだけに、会議の真剣さと正当性が、正しく先進的だと強く感じました。
ただし、先に正直に書きますが、地域住民の誰しもがそういう意識を持っている訳ではないことも、後から分かりました。むしろ、地元民の皆さんと移住者達とでは、今後も様々な局面で軋轢が生じることはあるのではないかと感じています。
例えば、昨今話題になった「池田町の七ヶ条」が分かり易い例ですね。
要は、僕たち家族がこの土地へ移住し、新しい生活への豊かさを感じていることは、必ずしも地元民の方々と共有し切れていないということです。
僕たち家族は、僕の妻が「地域おこし協力隊」に就任する形で福井入りしたのですが、移住当初、「どうせ3年の任期が終わったら出て行くのだろう」と、多くの地元民の皆さんに予見されていたことに、とても残念な違和感を覚えていました。
実際、僕たち家族はある事件があって、一度賃貸物件を追い出されています。しかしそれがきっかけで中古物件の民家を購入する運びとなり、その頃から様々な人間関係が改善されていきました。
そういった経緯で、僕自身、都会の人が憧れる田舎暮らしというのがいかに浅はかなもので、地元の皆さんにとってそれがいかに失礼であるかということも学びました。
今でも、意識のズレを感じる部分は多々あります。けれど地元民の皆さんの多くは、彼ら独特の謙虚さや、土地を守っていく責任感や、様々な複雑な感情が交じり合い、総じてこの土地を深く愛する姿勢に、確固とした一貫性があります。
そういう愛の在り方そのものに対し、他人事のような言い方になってしまいますが、僕は人の営みの美しさや愛おしささえ、感じるようになってきました。

だから、議題としては悲観せざるを得ない問題ではあるのですが、僕は今「学校再編」の問題を皆さんと見据えることが、また地元民の皆さんに歩み寄れる一つのきっかけとして、楽しみにしている面もあるのです。
幸い、過疎地であっても却ってそれを武器として、町づくりや学校づくりに成功している事例も全国に多数あります。
僕たちの地域は同じように上手くいくかどうかは分かりませんが、少なくとも、この問いを真剣に受け止め、皆さんと話し合えることが、僕にとっては日々の暮らしの充実に繋がり、田舎の生活を退屈無く、飽きないものにさせてくれます。

2024.06.20 追記
記事を読んでくれた友人からのシェアで、こんな動きもあるそうです。
お時間とお金にゆとりのある方は、支援をよろしくお願い致します。
「おなかま(同釜)募集!学校と地域の当たり前を問い続ける「ふつうの小学校」をつくる」
https://for-good.net/project/1000536


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