鯛の世界一周 シンガポール上陸編
暑い。香港よりも暑い。
そう思うのも無理はない。ここ、シンガポールの気温は現在30.4度。湿度もそれなりにあるときた。
ただでさえ暑さに弱いおれには辛い。まあ、寒さに強いわけでもないが。
甲板に出てみる。エメラルド色の海に沿うように、緑に覆われた陸地が見えた。
ホテルらしき建築物の周りにはフェニックスの木が等間隔で植えられ、植物の割合が多い。見上げれば、船の停泊している港をまたぐようにロープウェイが走っていた。
いかにも南国ってかんじだな。そう独りごちると、おれは上陸準備に取り掛かった。
さて、シンガポールへの入国だが、これの審査は中々厳しい。
パスポートに金属探知機、入国管理カードと怒涛の審査ラッシュがあり、港の出入り口は審査待ちの長蛇の列だ。
それを見越して、おれは受付開始時間から2時間ほど時間をずらしてみたものの、結局は1時間待つこととなった。
ようやくおれの審査が終わりドアをくぐると、どんよりしたシンガポールの空が広がっていた。いつのまにか曇りになったらしい。
そういえば、スコールに気をつけろ、って説明あったなあ。と思い出しつつ、おれは現地通貨の両替を済ませて歩き出した。
今回は、誰とも組まない。香港での経験を活かした無頼スタイルだ。多少心配もあるが、自分の行きたいところへ自分のペースでいける。
最初の目的地は、隣接したリゾート地にある水族館だ。日本じゃお目にかかれないレアな魚介類をチェックしなくては。
ジェスチャーと片言の英語を駆使してチケットを購入し、水族館の中へ。
このシンガポールの水族館はサメとエイを売りにしていて、大きな二つの水槽でそれぞれサメとエイを泳がせていた。
観光客の間を抜けて水槽の前に立つと、回遊してきたサメと鉢合わせた。グワッと口を開けたサメがヒレを左右に振りながら水槽スレスレを泳いでいく。
どういう理由か知らないが、サメもエイも水槽の淵ギリギリを沿うように泳ぐのだ。特殊な電波に反応するのか、はたまた実はロボットなのか。
思考をめぐらせながらもおれは観察を続けた。その中で、エイは両方のヒレをバタフライのように動かす種類と、ドレスの裾のようにひらひらなびかせて泳ぐ種類がいることに気づいた。
水族館に行くのは、かなり久しぶりのことだったから中々楽しめた。歳をとることで着眼点が変わり、別の楽しみ方ができた。
そうして水族館を後にしたおれは、次にマーライオンを見に行くことに決めた。
マーライオンは現在改装中で見ることはできないということだが、他に行きたいところもなかった。過程を楽しみたかったのだ。
シンガポールにも香港のように地下鉄が走っている。運賃は日本の地下鉄よりも断然安かった。
仮に、シンガポールで日清のカップヌードルを買おうとすると2.5シンガポールドルとなり、地下鉄代が少し遠くても2シンガポールドルくらいになる。地下鉄は、シンガポールの旅に最適な移動手段なのだ。
地下鉄に揺られて、マーライオンに最も近い駅で降りて、少し歩いた。
歩いてみて分かったのは、案外インド人が多いことだ。ワイシャツ姿の人、土木作業に携わる人、布で頭を隠している女性も多くみられた。
しばらく歩いていくと、だんだん日本語や中国語が周りで飛び交い始めた。かの有名なマーライオンの広場についたのだ。
まあ、事前情報通り、マーライオンは改装工事用の足場と布に囲まれていたし、言うほど感動的なものでもなかった。
けれど、その周辺は活気に満ちていて、用水路に沿って露店や店が並んでいた。
風景を楽しみながら往来する人々を観察してみる。
風景画を描く老人。ドローンを飛ばす男性。
ランニングをする汗だくの男性や、実銃を構えたベレー帽の兵隊。袈裟を着たお坊さんもいた。
異国の人間観察も中々楽しいものだ。彼らの目におれはどう映っているんだろうか。
空想を弄びつつ、おれは最後の目的地へ向かった。
行き先は、シンガポールの中華街。ほどよく時間も過ぎていたのでお店を冷やかしながら夕食をとることにした。
冷やかし、といっても店先のフィギュアに釣られて入った店がアダルトショップだったときはこちらが驚いた。
シンガポールの店員は積極的で、腕で「こする」仕草をしながら近づいてくるものだから、思わず逃げ出してしまった。
そんなトラブルに見舞われながらも上手いチャーハンと餃子を食べ、船の出発時間ギリギリまで楽しんだ。
香港とシンガポールを巡る中で、言葉が通じなくてもジェスチャーでなんとかなることや、地図の見方を理解したことで、それなりに旅ができるようになったのも大きい。
何事も経験が大事ということを、この1週間くらいの期間で何度も実感してきた。
さあ、次はマレーシアのペナン島だ。
3国目で、どんな経験ができるのだろうか。楽しみだ。