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『あなたと行ったヴィーナスブリッジ』続 【~朝霧のハウスマヌカン~】 著・戸松大河

BEPOに着いた。
南女生が集まるカフェ
時々1人で
時々雅と来ている

雅とここに来ていたことを思い出すと
余計に加速度がつく…

小さくラグジュアリー
カウンター4席と
直ぐ後ろにテーブルが12卓程
店長は女性のザ・ママさん的な方
アルバイトの調理場に男性2人

店内に入ると同時に
刺すような視線が快感を呼ぶ
雅は南女でも有名な学生だ
その彼氏である僕の存在は南女生にも知れ渡っている
常連の南女生もいれば
女子大学生を演じるのに必死な女子大学生がいる
それを目的にくる男子大学生もいる

それがBEPOだ

BEPOにくる女子大学生は何しにくるか


互いに充実した嘘の大学生活を自慢しにくるだけ
お洒落な内装は、ギャルや大学デビューたちの心理をそそり、優越感と満喫感を与え、撮った写真やプリクラをこぞってmixiにあげるのだ。大人ぶった下手なアクセサリーやメイクを成立させる。男子学生のイキった背伸びを盛り上げる。ママもそれをターゲットに上手くやっているのだろう。

雅とmixiに感謝しなきゃ

カウンターに座り
知人程度のいい塩梅な関係性のママさんと話し込む


今気づいた
僕のハートは荒んでいる

面白いものだ
女性しかいないカフェで男1人入るだけで
女性の声はワントーン上がるのだから
やたらと小さな事で盛り上がり
雰囲気を繋ぐように店長にも話をふってくれる
僕の後ろには4人組の南女生


ここぞと言うタイミングで入り込む

『ママ、今日の日替わりって?』
『あー山芋のクリームパスタ。』
『あーあの娘が食べてるやつですか?』
『そうあれ。』

『おいしい?』

僕は食べている女子大学生本人に聞く
恥ずかしそうに笑いながらその娘は

『え、うん!w 美味しいで!』
と答えた
色気のある女性的な親近感を与える声質
あとは縦の質問と横の質問を繰り返す
笑顔を忘れず
リアクションをして
話を聞くだけ
盛り上げるだけ

『今何回生なん?』
『…3回』
『そーなんや。え、みんな南女なの?』
『うん。英南の木瀬原くんやんな?』
『うん。え、あったことあるっけ?』
『いや、芹沢雅ちゃんと付き合ってはるやんな?』
『あー、そうだよ。あ、お友達?』
僕は余裕ぶった芝居で応える
『いや知ってるだけ。やっぱり!雅さんめっちゃヤバイですよね。ホンマにかわいい。』
『どーなんすかね。ww』
『えー南女でも有名やで2人付き合ってはるん。』
『そーなんだ。なんか恥ずかしいね。』
『ww』

と、その1人の女性を中心に話を展開していった
リアクションは大切に
優しく紳士的に
笑顔を心がけ
重ねて縦の質問と横の質問を
バランス良く使って会話を楽しく長引かせる
下ネタから学問まで幅広く

ターゲットはまだ来ない

雅と初めて出逢ったときもこんな感じだった
めちゃくちゃ緊張していたが
今回はすごくリラックスして女性達と話せている

気づくと僕は、彼女達と同じ卓で話をしていた
目的はアプローチをアイスブレイク
下心なく、ただ単に時間を楽しむ、
それだけ紳士的な印象と
いい人を植え付けれればそれでいい
僕から電話番号を聞くこともない
来週も多分来ると言う情報だけ小出しに蒔いておく

16時を回っていた
ターゲットはまだ来ない
女性達の時間を気にしながら話し込む

内2人がもうすぐバイトだからと

女性達は荷支度を始める
内1人がお金をテーブルへ置いてトイレへ


ターゲットはまだ来ない

女性達が会計を済ませ
外に出る

さっきトイレへ行った娘が出てきた

メイクを直した様子

さりげなく僕に
小さな紙を渡す


…ターゲットだった

三角が四角になる

『あなたと行ったヴィーナスブリッジ』

【登場人物】

雅(みやび):英南大学 経済学部 2回生
雪乃(ゆきの):英南大学 文学部 3回生
陵(りょう):英南大学 法学部 2回生
慧斗(けいと):雅の弟 小学4年生
彩愛(あやめ):英南女子大学 教育学部 2回生

幸せは気づかないところにある。w
予期せぬ所にある。灯台もと暗し。案外近いものなのだ。

彩愛は積極的でアクティブな女性だった。飢えている感じはメイクとリアクションとファッションで感じられた。容姿は少しだけふくよかでくびれが明確にある色気のきつい女性。強気な姿勢と見栄のはり具合。5人で話していたときも、一緒に食事している女性が僕に話しをしてくれる時、彩愛の表情が面白く無さそうに映ったのを覚えている。彼女が僕に渡した紙は、彼女のメールアドレス。その瞬間、沢山の会話の中の彩愛の情報を整理した。彼女は今の女子大学生活に嫌気がさていて、足掻いてストレスが溜まっているのだと痛感した。ちょっぴり強気で冷たい口調は実は繊細でさみしがり屋の裏返しと感じた。

『ありがとう。連絡するね!』

 僕はゆっくり笑い手をふる。

目的は終わった
さぁ次のステップに進もう

暇をモテあます隙間なんてなかった
真剣に向き合っていた当時
寂しいから雅に相手してほしいと言う
かまちょな感覚も消えていた

慧斗の処理もあるし
今夜は雪乃さんの処理もある

やることはいっぱいなのだ

南女生徒が帰ったあと
様子をみて少し長居をする
携帯が鳴る、いいタイミング
誰もなにも気にしてないのに
見られている意識と整合性がとれている
この感覚の状況に花丸をつけていた
わざと大きな声で、『あーわかったよー今から行くねー!』と言って電話を切って慧斗が待つ家へ

僕の家
慧斗はすっきりした表情でいた
彼はうちにしばらく住みたいと言う

僕はその持ちに素直に質問をする

『なんで?』
『家、面白くないから。』
『そぉか。』
『疲れんねん。』
『ここにいても、僕はずっといる訳じゃないよ。バイトもあるし、これから就職活動っていって、仕事を探すことをしなきゃ行けないから。あんまり家にもいないよ。』

その前に単位を取れ。

『…けど、もぉいややわ。』
『ねーねかままに連絡した?』
『メールは入ってきてる。』
『なんて?』
『…』

無口に慧斗は雅から来たメールを差し出した。

『あんたえー加減にしーや。』

とりあえず、
自分のが営んでいるラブホテル化している物件は
今日から2日間程、空いている。
夏休み等、旅行や盆前に忙しい等々で
たまたま空いていた

偶然か必然か

それ以上とやかく掘り下げることなく
慧斗くんをそこに滞在させることを提案した
勿論強制ではなく任意で
理由はもうわかるだろう
自分を守りたい
それだけだった
慧斗くんのことなんて
考えているようで本気で考えていない

慧斗くんは即答で
『うん。ありがとう。』と言った。
罪悪感もあるようでない

『とりあえず、飯でも食いに行こっか。』
『うん。あんな…』
『ん?』
『…どっか行きたいねんけど…』
『え?』
『なんか、初めての神戸やし。』
『そぉか。とりあえずドライブしよか。』

僕らは岡本にある英南そばで定食を食い
街を流す
人込みは避けたい
この時期の海は誰が見ているかわからない
三宮も同様だ
必然的に場所は

そこまで人気がなく
観光性が高いスポットで
地元の人達が行かないところ

ヴィーナスブリッジしかなかった



カップルや知人が常夏の夕暮れ時から来るはずもない
バイクのツーリングもあんなカップルスポットで
休憩することもないだろうと睨んだ

予想通り一組の老夫婦だけだった
夕暮れ前のヴィーナスブリッジから
慧斗くんと神戸の街並みを観る

『すごいなー。大阪と違って、なんか落ちついててやかましないわ。』
『そうかもしれないね。大阪は高いビルとか多いからね。ハデだし。』

僕は勿論のこと、
色んなぐちゃぐちゃな気持ちだった。
雪乃さんとの南京錠
雅との南京錠の前で
虐待を受けた雅の弟と二人
隣には幸せそうな、いかにも子育てを終えて、
人生を楽しんで
これからも老後を楽しもうと
仲良く手を繋いでいる老夫婦
そして
二人は南京錠をつけていた

そんな世界観の中にいる僕はなんなのだ

重なる自意識

そして
負のスパイラル

鈍く聞き慣れないメール受信音
父からだ
『夏休みは帰ってくるのか?皆で盆休みにでも会食をする予定だが、早めに教えてくれ。茜ちゃん達も逢いたがってるぞ。』

茜ちゃん達とは僕と同世代のいとこである。
家族はお盆休みに集まるのがお決まりなのだが、
それを想像すると、
良い報告ができる気持ちがしない

いつもお年玉をくれる叔父さんから
『どうだ?大学生は?就職先は決めたか?』
等の質問に
『うん。』
と強気に見栄をはる自分が明確に想像できたから

頭では親父の気持ちをわかっていても
と言う具合だった


ボケッとしながら立つヴィーナスブリッジ

『ねぇ。陵。』
『っん。 あ、は、なに?』
『ここに住んでる人たちは、
みんな、フツーなのかな。』
『え?』
『フツーに慧斗より幸せなのかな。』
『…』
『最近良く思うねん。慧斗にとっては、
フツーが一番難しい。』
『…』

勿論の事だか、この少年が観ている世界

僕が観ている世界

老夫婦が観ている世界は
同じ景色でも
全く違うのだろう
最低な色は僕なわけで

『行くか。』

といい放ち
慧斗くんをラブホテル事業をする物件へ連れていく
大まかに室内を説明して
なんかあったら電話をするように伝えた

よくよく見ると誘拐と監禁に近い

物件を後にして

一人になって
タバコを吸いながら
紛らわすように、彩愛にメールを打った
『やほー!連絡先ありがとう~!』
返信は即効で返ってくる
ある程度、適当にキャッチボールをして
なぜか今晩逢うことになった
お互いわかりきった嘘をつきながら
『今度よかった美味しいあそこいこーよー』
とか
『いつ空いてる?』
とか
『たまたま今晩なら空いてる!』
とか
もぉ透けて見えている嘘をならべて
僕らは何かしら寂しさと暇を持ち合わせて
偶然に出逢い引き寄せ合っていた感じ

22時過ぎから逢うことになった
ゴールは見えていた

そして、メール音再び
雪乃さんだ
『早めに終わった!行っていい?』
問答無用だ
雪乃さんを迎えに行って自分の家へ
後は


気の狂ったように
雪乃さんをぐちゃぐちゃにする
3回、4回、5回と



CoCo壱デリバリーでカレーを頼み
観飽きたDVDを適当に流しながら
酒をのみ
食っては抱き
風呂へ入っては抱きを繰り返す

雅からのメールは適当に裁くか無視をする

22時過ぎごろ…

雪乃さんは寝静まっていた
『ごめーん。ちょっとお世話になってる先輩に呼ばれてさ。行ってくるわ。』
『…ほーなん。何時になるん?』
『ちょっとわかんないかも…朝までやったらごめんね。』
『…ええよ!明日な…なんもないねん。』
眠そうに寝言のように話す雪乃さん
『じゃー昼からどっか行こうか。久しぶりに。』
『うん。』
激しくキスをして、
彩愛のもとへ行った
不思議と体力も気力もあった
復讐心がエネルギーになっているのだろうか

22時過ぎ、芦屋
華やかな高級住宅街
お洒落なbarでと言いながら
本当は
人目につかないようにただそれだけの理由

彩愛からの電話
『駅ついてるでー。』
『ほんと…あ、みつけた!』

彩愛は着替えていた、露出も多かった
テキトーにバーにはいる
どこでも良かった
人目がなければ

…彼女は病んでいた
酔いも早かった
バイトはHEPのアパレルショップ
女社会の愚痴と
幸せそうにデートするカップルを妬んでいた
今日一緒にいた友人の話をすると
自身の話へシフトする
別に聞きたくもなかったが
本当の理由は自分が一番わかってる
彼女の話を聞いては共感し楽しい時間に変換していく
鎧とアクセサリーを身に纏うようにも見えた
寂しそうな女性
タバコがどことなく似合う
僕らは、フラフラに酔っぱらていた

店を出る
歩く


彩愛の右手は僕の左腕を抱いている

『彩愛の家で飲もうよ。』
冗談混じりにおどけて本気で言う
『ええで。』

タクシーへ

彩愛の家
ハンパじゃなかった
アパレルのクリエイティビティに満ち溢れたセンス光る
ダークな空間…
映画『バーレスク』のような感じ
カーテンからは朝の白い光が薄く入る

物凄くイヤらしくデキあがるシルエット
甘い香りのする室内
統一感ある空間

『ハハッ。』
笑いがとまらん


つづく

ご一読頂き、ありがとうございます。

戸松大河



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