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『あなたと行ったヴィーナスブリッジ』続 【~ドミノだおし~】 著・戸松大河

 
なんとなーく

疲れてきた
シャワーは浴びたのに
もう一度浴びて
雪乃さんの隣に飛び込む
腕枕をすると
まるで待っていたかのように身体を僕に寄せてきた
ずっと起きてて待っていてくれていたようにも感じた
自意識なのか

小声で聞いてみる
『ごめん。起こしちゃったね。』
『…おかえり。』
『ただいま。』
『待っててくれたの?』
『うーうん寝てたで。』
『…』
『お疲れ様。』
『うん。疲れたー。』

『待つ方が悪いんよ。』
『ん?』
『待つ方が悪いんねんて。』

雪乃さんはその言葉を幸せそうな眠そうな声で言って眠りにつく
慧斗くんには、明後日以降逢えると思うからと
返信した

響き渡る微かな時計の秒針

ゆっくり落ちた




父『留年だけは勘弁してくれよ。』


慧斗『ごめんなさい。叱ってくれてありがとう。ちゃんと直します。』


雪乃『ウマいのかヘタなのかわからん。りょうクンやわ。』


雅『ねーはよきてー!』



彩愛『だって陵はずるいから…陵ずるい。自分は誰も愛そうとしないんじゃない。愛そうとしないいんじゃない。』

雪乃『ねーりょうクン。』




目が覚めた

am11:36

『…おはよ。』
『おはよう。大丈夫?なんか苦しそうやったで。』
雪乃さんは僕の額にタオルを当てながら優しく包んでくれる。
『大丈夫やよ。』
『…ほんまかな。』
『なんでよ。』
『大丈夫言うとき、大体大丈夫ちゃうからな。りょうクン。』
『笑…うるせーよ。』

…なんか

この雪乃さんとのやり取りで

もぉ面倒くさいからやめようと少しだけ思い始めていた。
自分が悪いんだとも思い始めていた。
けど…後戻りできない
いや、まだまだ間に合うかな。。。

携帯が鳴る

切る

携帯が鳴る

切る
…携帯が鳴る

雪乃さんが出る
『おいっ!』
『今忙しいいから後でお願いしまーす。』
雪乃さんが電話を切った
『…』
『んふ。頑張って…みてしまったww』
『…』
『…w』
『ww』
『ww』
『www…後でお願いしまーす。て…もぉかけてくんなとかじゃないんだ。』
『ほんまそれー。なんか失礼かな思て気をつかってしまった。ww』


インターホンが鳴った

しつこく鳴る

出る
雅だ

ドラマみたいw


『え、ウチ話すん?』
『いいよ。待ってて。』

…オートロック機能の玄関ドアモニターを映す
雅だww
そうか、そんな感じなのか雅…

wwww

はじめよう

『あなたと行ったヴィーナスブリッジ』


『はーい!あーごめーん。今降りるわー。』
僕は着替えて下に降りる。
雅はげっそり、下を向いて怒っている表情。
普段僕は雅に嫌われたくない、機嫌を気にして毎秒を過ごしていたのに…今日はなんか違う。ww
余裕があるんだ
堂々と。
朝礼台から喋る調子のった生徒指導のセンコー気分

『…なんなんさっきの?』
『なんなんてなにが?』
『電話でた女誰?』
『先輩の彼女。朝まで宅飲みしてたんよ。久々にあって盛り上がって。ほんでさ、作ったキムチ鍋そのままにして先輩の彼女が起きたと同時に溢しちゃってさ。ww布団から机からカーペットもビッタビタなキムチ鍋まみれでさ掃除してた今もww大変。ほんで電話かかってきてバタバタしてたから先輩の彼女が電話出た。』

迫真の感情と演技力を使って
抑揚と緩急を意識して伝える。
島田紳助曰く『犯人しか知らない事実を鮮明に繊細に語れば嘘もホントになる。』
ここでのポイントはテンポよく机からカーペットもビッタビタ…そして…もともと雅には夏こそキムチ鍋だと!念を推して熱く普段から力説していたキュートでバカな僕という種まきが効いている。
…ww
いや、どーでもいい。
よぉそんなギリギリの苦しいのが出たと自分でも思う。
けど別に嘘と思われてもいい
雅が信じてる信じてないは関係ない

雅は今ここに僕に逢いに来ている
それだけでもう事は足りている
俺が面白けりゃよかった

『なにゆーてんの。』
『ん?』
『上がらして。』
『だめだよ。』
『は、なんで?』
『無理でしょ。』
『先輩気ぃー使うし。』
『は、頭おかしんちゃう?』
『なにが?』
『はよ。上がらせて。』

もぉこの時点で確信していた。
雅は焦っている
僕の事が好きか嫌いかは置いといて
自身が浮気されていること
mixiの投稿のこと
焦っている
接し方が違う
表情が違う
声色が違う
呼吸が違う

重ねよう
雅が逢いにくることが
これが初めてだ

『とりあえずもぉいいからさ。俺今日予定あるしてか、何しに来たの?』
『何しに来たのって全然連絡せーへんしに決まってるやろ。』
『それだけ?』
『は?』

変な間

『それだけなの?』
僕は声を高くして笑顔で聞いた。

『せやよ。なんなんもぉ。』
『とりあえずさ、先輩たちも居てるし…帰りゃー。また連絡するわ。』
『…なんか』
『ん?』
『…周りの人とかにも連絡したりしてホンマ心配してんから。』
『あそーなん?だれ?』
『…ゆみとか。。』
『ほーなんや。ゆみちゃんなんて?』
『…』
雅は完全にmixiの投稿を気にしている

つかゆみってだれ?


雅はきっと浮気された自分を許せないんだろう
認めたくないんだろう

この頃からだろうか…
僕は女性と接するとき
裏をとれてるのに嘘をつく人間の表情を楽しむようになっていた
華やかなでお洒落な岡本の街並みもなぜか楠んで見える。


僕は強気だ
『とりあえず予定もあるから、また連絡する。ごめんね心配かけて。』
雅の右手をひき阪急岡本駅へ向かった
家から駅までは大学への通学路
体育会の連中が昼練に向かう時間帯
英南大学はアットホームな大学
3年間もいれば大体の顔は分かる規模
その他テニスサークル
アウトドアサークルの連中が学校での集会へ向かう…
僕は雅と距離を置きながら歩く
雅は寄ろうとしてくる
コンビニ行ってくるから先歩いててという
雅は拒む
いつもならはよ追いかけてきてと言ってスタスタ歩くのに…
今日は違う

刺すようにくる学生の目線

『…。』
『…』
雅は黙って少しうつむきながらついてきている。
駅に着いた
『ごめんね。またね!』
『なぁ。』
『ん?』
『なんか怒ってる?』
『いや。』
『怒ってるやん。』
『怒ってねーよ。なに?なんかあんの?』
『…』
『どーゆことww連絡しなかったのはごめんね。ほんとに。今日夜にはするから。逆になんかあんの?』
『…』
『じゃね。こんなん初めてだよね。雅に心配かけちゃって。ホントにごめんなさい。ありがとうね。』

僕は創り笑顔のようなリアルで伝える
もはや優越感にノリながら楽しんでいた
『話したいことあんねん。』
『なに?』
『どっか入らへん?』
『今日夜電話しよ。』
『逢って話したい。』
『…わかった。じゃお家行くね!』
『いや、陵の家がいい。』
『…?』
『だって、ままも慧斗もいるし。』

慧斗はいねーだろバーカ。
俺んちにいんだよ。


『wwわかった。じゃー22:00にここで。駅までは迎えに行くね!先輩達待たせてるし、ほんとごめん。』
創り笑顔で僕は去った


兆しが見えた気がしたのに
また変な自尊心やプライドが勝つ

その繰り返しに一人になると惨めさや情けなさを感じるから紛らわすしかなかった。
駅から家に戻る時間さえも紛らわしたい。
…w
彩愛に電話をかけている。

…呼び出し音…
倖田來未/愛のうた

『はーい。おはよう!』
『おはよ!元気やな。』
『元気やで!陵からの電話やしww』
『ww昨日ありがとう。』
『ありがとう。楽しかったで。』
『ww今日も楽しいことしよー』
『なにー?』
『今日さ22:00に岡本駅きてー!』
『ええでー』

つづく

ご一読頂きありがとうございます!
戸松大河

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