ケトルドラムというお店
お店の窓から見える赤と青の壁は床屋さん。
昔初めて仕事サボって反対方向の電車に乗り、途中下車して見つけたお店。
おばあちゃん家みたいな心地良さが気に入って何度か通った。
閉店の知らせにガッカリしていたら、代替わりして綺麗に生まれ変わった。楽器が置いてあり自由に弾けるようになっている。
時々近くまで行くけど、楽しげな演奏が聴こえてくると逆にちょっと入りづらくて通り過ぎる事もある。
ある日、子供たちとぶつかり合い疲れ果てて散歩に出た。
やさぐれた気分で川辺でひとり乾杯し、コーヒーが飲みたくなりケトルドラムへ立ち寄った。
店内にはグループと、男性のお一人様。
そのうち彼がピアノを弾き出した。海外からやってきたジョセフさんという人で、日本で働いてるらしい。
グループのお客さんも音楽に詳しいらしく、彼らもマスターも会話が盛り上がってその中の女性も見事な演奏を披露した。
私、気持ちがやさぐれてたもんで手帳には 早く静かにならないかなって書き綴っていた。
こういう状況、苦手なんだ。私は気配を消して背景に溶け込む。いわゆるモブ化する。
全員が帰り、私ひとりになった。
私も気晴らしに弾いてみようかな、なんて一瞬思ったけど披露出来るような腕前でもないし…と思いやめた。
マスターが、さっきはガヤガヤしちゃってごめんねと謝った。
心の中では静かになってホッとしながらも、いえいえ、、と帰ろうとした。その時、前に来た時に一度話しただけのマスターの奥さんが、もしかしてタイガさん?と私の事を覚えていてくれてちょっと感激した。
ジョセフさんは自分が弾きたい曲を好きなように弾いただけだった。清々しくて、楽しそうで、それで良いんだと思えた。
モブキャラになるのは自由だけど、時には主役になったっていい。間違えたって、下手だって、関係ない。やりたい事をやればいい。自分が人生の主役なのだから。
今度は今練習している曲を弾きに行こう。
ケトルドラムはカフェの上の階に本棚の部屋がある。こちらも友達の家に遊びに来たような気分になれるのでとても良い。