死神食堂-penne alla nirvana-
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「あれ?あれ?どこ?なに?」
八木(やぎ)は戸惑っていた。
執筆作業で一日中篭っていたので、夕飯に何を食べようかと考えていた。
それが、気がつくと食堂らしき空間の一席についていたのだ。
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥から声が聞こえたので八木は
「すみません、ここってお店ですか?僕家にいたと思うんですけど、ていうかいたんですよ。気がついたらここにいてちょっとよくわかってないんですよね」
店主らしき人物に向かって質問を投げかける。八木はいつも多弁で早口だ。
「当店は死神食堂。私、店主の死神です。ここではお客様に合わせて料理を提供させていただきます。お代はお気持ちで構いません、間も無くパスタが茹で上がりますのでお待ちください」
店主が死神。なんでなんで星人の八木が聞かないわけがなく
「なんで死神なんですか?本当に死神なんですか?ていうかすごくないですか?僕ちょうどパスタが食べたいと思ってたんですよ」
質問を畳み掛けると、死神は一言
「存じ上げております」
そう言って奥のキッチンへ下がっていった。
不思議だなーと思いつつ、八木は店内をキョロキョロと見渡す。しつらえは派手さはないが、一つ一つが歴史を感じさせるものばかりだ。カトラリーもしっくりと手に馴染む。触り心地、重心、色合いまで、八木が好きなもので揃っている。あれこれ見ているうちに、奥から店主が料理を運んできた。
「八木様は太陽山羊座、月が牡牛座なのでこのようなしつらえでご用意させていただきました。こちらペンネ・アラ・ニルヴァーナでございます」
「え、僕のネイタルご存知なんですか?ほんとに死神なんですか?いやでもほんとここ落ち着きますね。そして涅槃のペンネってすごくないですか?ファンタジー感あるけど整いそうですね」
「金木犀の花言葉は隠り世(かくりよ)、つまりあの世のことです。レモングラスとサフランの香りも合わせてお楽しみください」
好奇心旺盛な八木にはたまらない説明だ。八木は丁寧に手を合わせてパスタを口に運ぶ。
「めちゃくちゃ美味しいですねこれ。鶏肉の香りがヤバいです。バイブス上がりますねこれ」
話しながらも次々と口に運んでいると
「よろしければこちらもどうぞ。太陽山羊座とアセンダントの天秤座に合わせて、根菜とセルバチコのハーブサラダ。それから、ミントとレモンを使ったデトックスウォーターです」
ありがとうございます、と礼を言い、八木は順に平らげていった。
「美味しかったです、ごちそうさまでした!また来たいです、ていうか僕は帰れるんですか?」
「はい、またのご来店お待ちしております」
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気付くと八木はベッドで横になっていた。
なんだ、夢か。でも美味しかったなー、あのパスタ。
八木は涅槃のポーズのまま反芻している。