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「好き色に染めて」
今日、新しい色を見つけた。青色。黒の多く混じった青色。それは地面に見つけたら穴と勘違いするような青色。石を投げ込んだら波が立ちそうな青色。どんなに酷い熱もスーッと引いてしまうような青色。冷静さを欠いたって、すぐに正気を取り戻せそうな青色。
でもそれは『青色』と括ってしまうには惜しいぐらいの見事な色で、家に持ち帰って机の上に置いたぐらいでは、すぐに色褪せてしまいそう。だからキレイな熱帯魚を迎える前に大きな水槽に水を張っておくのと同じくらい、当然として、室内を全てこの青色に染め上げるくらいじゃないといけないと思った……もちろんみんながみんな、その色に同じ価値を見出すとは思わない。けど何人かは、ね。そういう人が居るはずだと思うだけで、心はポンッと軽くなる。
そうだ。自分がキレイだと思う色ごとに、世界中でグループを作ってみたらどうだろう。
ひとグループに何人居たって構わない。みんなで集まって部室みたいな小さな部屋をひとつ借りたら、部屋中を好き色に染め上げて、そこで毎晩飲み明かすんだ。お酒がダメならジュースでもいい、色が引き合わせた出会いに何度も乾杯をするんだ。
彩りなんて難しいこと考えないで、ただ青に青が溶けていく安心。そんな場所が誰にとってもあればいいのに。
そのグラスの形をした青色は現金で購入して、今は机の上に置いてある。大事な物と捨てたらいい物の間に挟まれて、梱包されたまま置いてある。この先、封を開けることはきっとないのだろう。
今、白い紙箱の中はあの静かな青色で満たされている。そして時折グラスを合わせる豊満な響きが、そこから漏れ聞こえるような気がする。対して一方的に暗くなる現実。もう電気を点けなくてはいけない時刻だった。わたしは耳が塞がるぐらいの大きなあくびをしてから席を立ち、さてと、キッチンの湯沸かし器に水を注いだ。