見出し画像

【志考巡遊】とある女のコの1日 ~シアワセの範囲~ 

割引あり

皆さんこんにちは。
人道支援家のTaichirosatoです。

【志考巡遊】
1000文字で届ける僕の新しい遊び方

自分の軸となる「志」
日々の思「考」展開
その頭の中を「巡」り
文字で「遊」ぶ

今回は、とある○○の1日シリーズ5作目。物語をつなげ初めて7作目。気が付けばまずまずな読み応えになってきました。1話が20~30分くらいで読めるので、全部読み切ると2時間半くらいになると思います。
いろんな視点から世界を見て楽しんでもらえればと思い、今回も書きすすめていきます。

<前作までの「とある○○の一日」シリーズの軌跡>


<このストーリーは一部を除いてフィクションです。また完全に一個人の見解で某団体とは関係のない文章であること、あらかじめご了承ください。>

ー読むのに約23分ー

【志考巡遊】 とある女のコの1日 ~シアワセの範囲~

いろはす`s

ちっ、今日の客はシケた奴らばっかだ。
けっ、まったくだ。みんなレモンサワーかよ。
ちぇっ、俺らの良さは庶民にはわからねーのさ。

ちょっとあんたたち!文句ばっかり言ってないで働きなさいよね!
氷の入ったクーラーボックスでプカプカ涼んでるだけじゃない!
レジの横に3本とも並んでお客さんを集めるの。
ほらっ!わかった!?

客観的に見れば、5歳の女の子がペットボトルと〇〇ごっこをしているように見えていると思う。

ちっ、今そうしようと思ってたところだ。
けっ、全くその通りだ。
ちぇっ、俺たちが外に出たらレモンサワーなんて全然売れなくなるだろうな。

ごちゃごちゃ言ってないで、レジの横に な ら ぶ の ~!

(ちっ、ちぇっ、けっ)

ちょっとMiku~。誰と話してるの?
独り言いって遊んでないで、こっち手伝ってよー!

ママに呼ばれたから、ワタシはサブマリン号の中へと向かう。

あんたたち。ちゃんと働くんだよ。
出来るだけ背伸びして! 太陽光を体に当てて! 
しっかり反射させんのよ。
その方が、お客さんがのどが渇くんだって、ママが言ってたんだから。
ワタシが離れてる間にサボったら、タダじゃおかないんだからね!

ワタシは いろはす‘s にしか聞こえないように、コショコショ話をした。
どうやらワタシのママには いろはす‘s の声は聞こえないみたい。

ちっ、Mikuちゃん最近冷たくないか?
けっ、全くその通りだ。
ちぇっ、当たり前だろ!俺たちは冷たい方が美味いに決まってる。

ちっ、水温の話じゃねぇ!
けっ、俺たちへの扱いのことだ!
ちぇっ、5歳の女のコにはツンデレというのがあるらしい。

(ちっ、けっ、ちぇっ)ぉお~!

ちょっとあんたたち! 今さぼってたでしょう~。ワタシ知ってるんだからね。あんたたちがコショコショ話してたの~。

ワタシは不敵な笑みを いろはす`s にふりまく。

ちっ、これがそうゆうことか。
けっ、そうゆうことだ。
ちぇっ、こうゆうのも悪くないよな。

客観的に見ると、どうやら いろはす‘s はMikuのことが好きらしい。


サブマリン号
ワタシのママはキッチンカーをやってて、この日は東京都立川の昭和記念公園にあるキッチンカーフェスで出店する日。どれだけ走っても、端っこに辿り着かないくらいおっきいこの公園には、キッチンカーがずらーっと並んでね。真夏の定期的に開催される大きなイベントごとや人が集まるようなところにサブマリン号と一緒にお出かけするのがワタシの大好きな週末の過ごし方。

ママがサブマリン号と一緒にお出かけを始めたのは、私が生まれるよりも前。ママのお友達がキッチンカーをやめるから譲ってもらったんだって。
名付け親は私の大好きなおじいちゃん。ママはお酒を飲まないんだけどキッチンカーをやるなら、夏の暑い日にみんなが絶対買うものにするって言って、レモンサワーと唐揚げのキッチンカー「唐っとレモン🍋」を始めたの。レモンサワーなら車は黄色ってことでみんなで塗って、それでおじいちゃんがビートルズっていう人たちの大昔の曲イエローサブマリンを思い出して、サブマリン号にしたんだって。お店のBGMはいつもビートルズって人達の曲が流れているんだけど、ママもワタシもビートルズが大好きになって私もイエローサブマリンは歌えるんだよ。すごいでしょ。

お店を出すときはね、ワタシはサブマリン号の前にいて「あげたて唐揚げ、おいしいよー」って、ほっぺに両手を当てながら大声を出すの。家では大声出すとママが怒るんだけど、サブマリン号と一緒だとママは喜ぶし、知らない人たちが「カンバンムスメ」って言いながら、ニコニコになってワタシの頭をポンって撫でてくれるから、ワタシもすっごく嬉しいの。たくさんの人がニコニコしているところにいるのがワタシは好きなんだと思うなーわ。

ワタシだけじゃなくてね、弟や従妹とも一緒にサブマリン号の前で大声を出すこともあるんだよ。みんなでサブマリン号の前で遊んで、疲れたらママの唐揚げを食べるの。すっごくおいしいんだよ~、ママの唐揚げ。知らない人たちもママの唐揚げ美味しいーって、みーんなニコニコになるの。
それでね、実はワタシ、ヒミツを知ってるの。ママはね、唐揚げに魔法の白い粉をかけてる。あれがみんなをニコニコにしているだよね。このことは、誰にも言っちゃいけないんだって、ママが言ってた。だから、ママとワタシと いろはす だけのヒミツになってるの。


ママと大好きなおじいちゃん
ママはね、世界で看護師のお仕事をしてたんだって。「コクサイカンゴシ」っていうみたい。ワタシはいま「カンバンムスメ」だから、大人になったらその「コクサイカンゴシ」になれるのかなぁ?今から楽しみなんだ。
ママはその国際看護師をした後にね、結婚をしてワタシと弟が生まれてお仕事をお休みしてたの。でも去年からその国際看護の先生になったんだよ。すごいよね。ママの前に国際看護を担当していた先生は吉井野先生っていうんだけど、看護大学学長をしてて今年で退官になるんだって。ママはその吉井野先生と1年間一緒にお仕事をして、そのあとはお仕事を引き継ぐんだけど、吉井野先生はすごい先生だったから私にできるかなーって心配してた。でもワタシはママはできるって知ってるから、ママを頑張れーしてるの。

ワタシの大好きなおじいちゃんはね、いつもパーカーを着ていんるだ。ママと同じお仕事をしていたみたいでね、昔は凄い人だったみたい。ちょっと忘れっぽいんだけど、太陽みたいな笑顔のおじいちゃんがみんな大好き。去年のクリスマスにはね、みんなで傘寿のお祝いをしたの。みんなから黄色いパーカーをプレゼントしたら、キッチンカーとおんなじ色だ!って大喜びしてたんだよ。
この前はテレビで、おじいちゃんがやっていた人道支援っていう団体の特集がやってたんだけどね、おじいちゃんは「若いときはいろんな国で活躍してたんだぞー」とか「この特集に出ているケツって奴は俺が教えたんだー」なんて言ってたの。おじいちゃんの若いときを見てみたかったなぁ。


甲子園とそうめん

真夏の折ではあるが、孫たちからもらった黄色いパーカーは書斎のいつも見えるところに飾ってある。それを眺めるだけで嬉しい気持ちになるからだ。

今年で僕の人生で81回目の夏が来た。日本のじっとりとした湿気の夏はこの歳には堪えるな、とアフリカでのカラッとした夏を思い返す。あれから40年か。がむしゃらに世界中の人道危機の現場に飛んでいった。振り返れば人生あっという間にここまできたように思う。

人間という字は、「人」と「間」というに文字で組み立てられていて、先人の言葉選びにはかなわないよな、と絶妙に物事の核をついた文字配列に関心する。
人として在る間。人間とは生きる時間を意味しているのだと、この歳になってつくづく気づかされる。80年という月日で僕の心の本棚は、かけがえのない物語で埋め尽くされた。本棚の重さと比例して僕の背中は少しずつ丸まり眉間と頬にはしわが刻まれ、白髪頭になった。

二人の娘と4人の孫たち。夏休みに真夏の甲子園を見ながらそうめんを食べるのが我が家の習わしとなっていて、甲子園も第150回記念大会を迎えたようだ。甲子園の間にニュースやCMが流れる。どうやら僕がいた人道支援団体が97年を迎え、100周年に向けた特集を放送するようだ。90秒のダイジェストが流れる。

そこでは世界を変えた人として日本人2人が紹介されていた。
1人は新子さん。僕も散々お世話になった。35年前、当時の会長であった新子は国際会議の場で演説し、世界を動かした。今では化石と呼ばれるYoutubeで彼女のスピーチは5億再生回数を記録し、当時泥沼化していた人道危機(ロヒンギャ、ウクライナ、イスラエル)の解決に世界的なムーブメントを起こしたのだ。それが発端となり世界中で紛争を終結するための「Zero Conflict革命」が起き、ロシアとアメリカの対立構図にまで影響。人類が抱えている人道危機の性質が大きく変わることとなった。
2人目は齋藤繋次という国際看護師。大学の時に影響を受け人道支援の道に進み、現在では世界各国で新興感染症や自然災害による人道危機対応に奮闘。マラリアの撲滅にも大きく貢献し、蚊とヒトの殺人生物ランキングの構造に大きな変化をもたらした医療者として紹介された。

ほぉーレジェンド新子とケツか、頑張ってるな。

僕の目じりと上頬には、自然とたくさんのしわができていることに気が付く。そして昔を思い出し、そうめんに夢中な孫たちに話しかける。

昔むかし、蚊と人間が他の何より人の命を奪ってた時代があってねぇ。今は平和になったもんだ。蛇さんや犬さんに嚙まれたり、新しい病気で悲しむ人が少なくて済むように何が出来るだろうかねぇ。

僕の知っているそれとは大きく変動した人道危機の中身。僕の独り言をよそに、4人の孫たちは、凄い!打ったよ!とテレビの中の出来事に歓喜してはそうめんをすする。


シアワセの範囲

夏が終って秋になると、サブマリン号はコーヒーとクロワッサンを出すんだよ。ワタシね、ママもおじいちゃんもサブマリン号も、みんなだ~い好きなんだ。みんながニコニコしていると、ワタシもニコニコになるの。明日も明後日もママとおじいちゃんとサブマリン号と一緒にお出かけしたいんだー。

そしたらね。秋のイチョウの色とおんなじ色の黄色いパーカーのおじいちゃんがワタシに教えてくれたの。

おぉーMikuちゃん、それはじいちゃんは嬉しいな。
明日もサブマリン号とお出かけしてみんなでニコニコしたいのかぃ。
それは、楽しそうだなぁ!

いいかぃ、Mikuちゃん。
明日もこの人とこんな風に過ごしたいと思う
それをシアワセっていうんだよ。
そしてそれには範囲があるんだ。
幸せの範囲は、Mikuちゃんが決める。

シアワセにも範囲があるのぉ?

そうだよ。この秋の太陽と一緒さ。お日様の光が届いてぽかぽかの場所があるだろう。反対に真っ暗でブルブル震える場所もあるんだ。幸せにも届く範囲があるんだよ。

じいちゃんはね、世界中の人たちが日向ぼっこしているみたいに、ポカポカあったかーい気持ちになれたらいいなーって思ったんだ。
世界中どこでもニコニコで溢れるようにしたくて、みーんなが明日がくることを楽しみに思えるようにしたくて、一生懸命お仕事を続けてたんだよ。

ふ~ん。じいちゃんの範囲はすっごく大きいんだね。
シアワセの範囲はワタシが決めるのかぁ~、なんかムズカシイよ。
ねぇねぇおじいちゃん、ママのシアワセの範囲は~?

じいちゃんが思うにママはね、ママに触れた人みんなを幸せにしてるんじゃないかな。だからサブマリン号の周りはいっつもニコニコで溢れてる。Mikuちゃんも良く知っているだろ~?

おじいちゃんはグイっと顔を近づけて、ワタシの目奥を覗き込んでくる。

ママはシアワセ工場なんだ。
学校で国際看護っていうのを教えながら、じいちゃんみたい世界中でニコニコにする人たちを応援しているんだ。世界中が日向ぼっこ出来たらポカポカで気持ちいだろ?
そして、ママにはサブマリン号がある。Mikuちゃんも大好きだろぅ?
サブマリン号でいろんなところにお出かけして、ママの唐揚げを食べて、みんながニコニコになる。
明日もサブマリン号の唐揚げ食べたいなーって、ママに会いに来た人みんなをシアワセにしちゃうんだ。
Mikuちゃんもそうだね。Mikuちゃんにあった人みんながニコニコになる。
だからママもMikuちゃんも、二人ともシアワセ工場だな。

うわ~、ママはすごいね!ワタシもシアワセ工場なんだぁ!なんか嬉しい。

けっ、全くその通りだ。

いろはす‘s も、おじいちゃんの話には聞き耳を立てていたみたい。



ワタシのシアワセの範囲
イチョウが全部落ちたころ、おじいちゃんはね、すっごく忘れっぽくなったの。見ためは普通なんだけど、同じことを繰り返して言うようになった。ママが言うには、歳を取るってそうゆうことなんだって。

いつか、Mikuのことも忘れてしまう時が来るかもしれない。
そんなときが来てもおじいちゃんのこと嫌いになったりしないでね。

ワタシはそれを聞いてとても悲しくかったの。おじいちゃんがワタシのことを忘れちゃう、そんなの絶対いや。ワタシはおじいちゃんのこと忘れることはないのに。。

おじいちゃんはシアワセに範囲があるって教えてくれた。
だから、ワタシの範囲を決めたの。

おじいちゃんがワタシを忘れなくてもいいように、それとね、同じように忘れちゃうお爺ちゃんお婆ちゃんや、その家族が悲しい想いをしなくていいように、みんなで一緒に暮らせる場所をつくるの。もしも、お爺ちゃんお婆ちゃんが大切な人やモノを忘れてしまったとしてもね、「明日もこの人とこんな風に過ごしたい」って安心して過ごせる、ニコニコ、シアワセ村。

週末になるとワタシが運転するサブマリン号がその村の広場にお出かけするんだよ。サブマリン号にはね、ママとワタシとおじいちゃんの思い出の写真をいっぱい貼るの。おじいちゃんがワタシたちのこと忘れなくても済むくらい、いーーっぱいだよ。

ママの美味しい唐揚げを食べて、みんながニコニコになるの。
おじいちゃんは黄色のパーカーをきて、サブマリン号の前でレモンサワーをのんでる。それからワタシは、おじいちゃんに唐揚げ出来たよーって言うの。そしたらおじいちゃんは、サブマリン号に向かって手を振ってくれる。
おじいちゃんはワタシたちのこと忘れないから。

ねぇ、おじいちゃん。
ワタシがサブマリン号を運転できるようになるまで、ちょっと待っててね。


あーぁー、あと何回サクラを見たら、ワタシはサブマリン号を運転できるんだろう。
そのころにはワタシは「コクサイカゴシ」になっているのかなぁ。
それとも「カンバンムスメ」のままなのかなぁ。

早く大人にならないかなぁー。
大人になったワタシに想いを馳せる。

大人のワタシは、
どんな明日を想像しているのだろうか。
隣にいる人たちは笑っているのだろうか。
目まぐるしく動く世界に
希望を見出せているのだろうか。


ふと、タイムマシーンで未来が見たくって
ぎゅっと両目をつぶってみる


鏡の前のワタシは、笑っている




【志考巡遊】 とある女のコの1日 ~シアワセの範囲~
ー完ー

<このストーリーはフィクションです。また完全に一個人の見解で某団体とは関係のない文章であること、あらかじめご了承ください。>


あとがき
投稿の中に垣間見える世界感が好きです。
とある読者からそんな感想をもらい、そこから「それらを繋げたら面白いんじゃ?」「普段は書けない人道援助の世界や自分のことを周りの目線から見たら表現できることもたくさんあるのでは?」そんな発想から、とある○○シリーズは始まりました。とあるシリーズだけで全5作。ある程度の事実と妄想を組み合わせて直接的には描かれないけど、そこにはいつもパーカー青年がいて、それぞれから見える世界をパーカー青年がつなぎ合わせていきます。皆さんが知っている世界。それはもしかしたら、反対側から見たら、上や下から見たら全く違った世界かもしれない。歴史から読み解くリアルと立体的視点から世界をもう一度見つめなおし、そのどれもにヒューマンストーリーがあるのだと僕は常々感じています。読者の皆さんにも是非それを感じてもらえたら。そんなつながった物語、実は今回の作品で完結としようと思います。
最後の「とある女のコの1日」は、意図的にこれまでとみる世界感を変えました。複雑でろくでもないこの世界。でも、飾り言葉を削ぎ落として、大切なところにじっくりと目を向けると、シンプルで、美しい世界がそこに広がるのではないか。そんな想いを込めています。

7つの話を読んでくださった読者の皆さん、本当にありがとうございました。楽しんでいただけたでしょうか。これからも自分から見える世界を、そしてそこからくるイマジネーションを大切に、文章にしていきたいと思います。

今回、初めて短編小説っぽく書いてみて感じた事は、自身の日本語力がまだまだ足りないということ。伝えたい世界感、表現、もっと匂いや空気感が感じられるように。リズミカルに踊るように読むのがやめられなくなるような、そんな文章を書けるようになるためにInputに励み、たくさん本を読もうと思います。

自分の文章に触れてくれた皆さんに、
ちょっぴりのへぇーと、
世界のリアルと、
物語のワクワクを。

これからも文章を書いていこうと思います。
引き続きよろしくお願いします。

人道支援家 TaichiroSato

Best,
Tai     (本文 6770文字)

ここから先は

0字

いつも記事を読んでいただきありがとうございます!!記事にできる内容に限りはありますが、見えない世界を少しでも身近に感じてもらえるように、自分を通して見える世界をこれからも発信していきます☺これからも応援よろしくお願いします🙌